クァルテット・エクセルシオのベートーヴェン弦楽四重奏全曲チクルス(4)

緊急事態宣言発令中ですが、クァルテット・エクセルシオのベートーヴェン全曲チクルス第4回が無事に開催されました。もちろん万全の感染予防対策を採り、開催ルールを順守してのコンサートです。
第4回は、作品18の6曲を一気に演奏するもの。他に比しても長時間になるため、土曜日のマチネー開催となりました。これは当初から予定されていたもので、午後2時開演、2度の休憩を挟み、終演は結局午後5時50分頃になっていました。演奏順は以下の通り、番号順に取り上げていくもの。

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第1番ヘ長調作品18-1
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第2番ト長調作品18-2
     ~休憩(20分)~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第3番ニ長調作品18-3
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第4番ハ短調作品18-4
     ~休憩(20分)~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第5番イ長調作品18-5
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第6番変ロ長調作品18-6

この回も事前に公開リハーサルがありました。私は残念ながら自粛しましたが、これまでと同じリハーサルを実況中継するスタイルで、取り上げられたのは第6番の第1楽章と第2楽章だったそうです。

改めて付け加えることもないので、この日持った感想をいくつか。客席は50%に制限されていましたが、休日の午後とあって、制限内で満席に近いファンが終結していたようです。
冒頭の第1番、最初のユニゾンから一糸乱れぬ合奏に背筋がピンと伸びる思い。しかし第1楽章の後半で思わぬ出来事がありました。そう、軽度ながら体に感じられるほどの地震が起きたのです。
場所はコーダに入った直後。エクは提示部を繰り返し、パッと雰囲気が変わる展開部。決然と ff で主題が回帰する再現部を終え、二度のフェルマータを経て軽快且つユーモラスに突入するコーダに入る箇所。ここで思わず天井を見上げる程度の揺れがありました。

もちろん何事もなかったように演奏は進みましたが、ステージ上のメンバーたちもこれに気付いた様子でした。
場所が特定できるのは、第1番の第1楽章は典型的なソナタ形式で構成されており、アナリーゼ(楽曲分析)のお手本にもなる程の作品であるということ。そして何より、エクの演奏が奇を衒わず正攻法、作品の構成を完璧に浮き立たせる高潔な態度に貫かれていたからに他なりません。揺ぎ無い音楽は、聴くものに進路と現在位置を的確に示してくれるものです。

最初の休憩時にも地震が話題になりましたが、ロビーでの会話は極力控えて欲しいという要請もあり、静かに自席に戻ります。

以下、コンサートは予定通り、粛々と進んで最後の第6番。作品18は、ハ短調という調性もあって6曲の中では最も人気がありました。また「ロミオとジュリエット」を音で描写したと言われている印象的な第2楽章を持つ第1番、「挨拶」という渾名のある第2番も良く知られているようです。
これに比べると、この日の最後に取り上げられた第5番と第6番は、どちらかと言うと人気が無いような印象がありました。

これを打ち破ったのが、今回のエクだったのじゃないでしょうか。特に私が目から鱗だったのが、最後に演奏された第6番。
改めてハッとさせられたのは、最後の第4楽章には「憂鬱に La Malinconia」と題された序奏が付いていること。全6曲24楽章の中で、序奏があるのはこの楽章だけです。いや、この部分は序奏と言うより小さな楽章と見ても良いのではないか。実際ベートーヴェンは、この箇所を小品 pezzo と表記しているわけだし、最大級の繊細さを持って弾け、との指示もある。ト短調のアダージョ、それがアタッカで主調(変ロ長調)のアレグロに流れ込む。

これまで何度も聴いてきたはずですが、第6番の第4楽章、あるいは第4・5楽章の重要性、斬新さに気付かされたのは今回が初めてだったかもしれません。
いみじくも、プログラムにはチェロ大友の一言が紹介されていました。「終楽章の出だしを弾くと、シリーズがちゃんと完結という感じがあります。(中略)未来に向かって広がりを感じさせる。」

そう、変ロ長調の弦楽四重奏曲は、しかるべくしてセットの最後に置かれているのでしょう。師匠ハイドンは作品18を「自分とモーツァルトの様式のみで何の独創性もない」と批評したそうですが、悲嘆・悲哀・落胆という意味もある La Malinconia 楽章から明るい、希望を与えるような終楽章に解決していく手法は、皮肉にも私にハイドン「天地創造」の冒頭部を連想させてくれました。
私の中では、第6番こそ作品18の白眉なのでは、というのが今の心境です。

ということでエク浦安のベートーヴェン全曲、残すは3月24日、作品131と作品132の2曲だけになりました。

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