京都市交響楽団・第11回名古屋公演

東京・赤坂のサントリーホールで読響定期を堪能した翌朝、ガラガラの新幹線で名古屋に向かいました。愛知県芸術劇場コンサートホールで、1年半ぶりとなる京都市交響楽団の名古屋公演を聴くためです。
今回が11回目の名古屋公演、私は1度だけどうしても外せないコンサートと重なったためパスしたことがありますが、ほぼ毎年欠かさず聴いてきました。名古屋は家人の実家でもあり、友人が多いからでもあります。

この公演は、当初2020年7月5日に予定されていたもの。チケットもコロナ騒ぎが大きくなる前に売り出されてゲットしていたものですが、第1次緊急事態宣言に伴って10ヶ月ほど延期されていました。
延期に当たっては、当初発売のチケットでも延期公演への入場可能で、希望によって払い戻しも可、というものでした。私はチケットをそのまま保有してこの日を迎えましたが、現地で知り合ったファンによれば、一旦払い戻しし、その後延期公演が実施されると聞いて慌てて新規購入されたとか。京響名古屋公演を心待ちにしていたクラシック好きにとって、気持ちをやきもきさせた演奏会でもあったわけ。

2020年に予定されていたのは、メインのシベリウス第2交響曲は同じですが、カミーユ・トマを迎えてエルガーのチェロ協奏曲が演奏される筈でした。2種類のチラシが存在し、一つは私の手元にある2020年のもの、もう1枚は当日現地で手に取った2021年の新しいチラシです。現在は誰もが承知していますが、後世になって2種類のチラシが混同され、二つのコンサートが行われたような記録になってしまう恐れもありましょう。
ということで、実際に開催された第11回名古屋公演は、以下のもの。

シベリウス/交響詩「フィンランディア」
シベリウス/ヴァイオリン協奏曲
     ~休憩~
シベリウス/交響曲第2番
 指揮/広上淳一
 ヴァイオリン/三浦文彰
 コンサートマスター/会田莉凡

多分、私が広上のシベリウスに接するのは今回が初。彼の第2交響曲と言えば、広上が東京音楽コンクールで指揮し、審査員たちの度肝を抜いたと伝説になっている作品。何故かこれまで広上が振るシベリウスの第2交響曲を聴く機会が無く、今回だけは必ずや聴かん、という覚悟で出掛けた演奏会でもありました。
そしてその体験、いゃぁ~、予想を遥かに上回るものでしたね。更にはこれをも凌ぐサプライズも。その辺りをレポートしていきましょうか。

オール・シベリウスということで、代表作が一気に聴けるフル・コース。東京以上に厳しいのではと思われるような厳戒態勢を潜ってホールに入ります。愛知県は追加で緊急事態宣言が発令されたこともあり、チケットはその時点で売れていたものを以て中止。前売りはありませんでしたが、それこそ空席以外は完売ということで、満席ではないもののチケット完売の盛況でした。

思えば、第2交響曲に限らず広上のシベリウスは聴いた記憶がありません。超の字が付く名曲フィンランディアも、冒頭のブラスによる序奏からしてソステヌートそのもの。微妙にニュアンスに変化を付け、一つ一つのハーモニーに意味が込められているのが判ります。前菜というには、余りにも腹持ちがする満腹感。
続いては、成長著しい趣を湛えて三浦文彰が登場し、これまた超名曲のヴァイオリン協奏曲。三浦は先日まで海外公演に出掛けていたと記憶しますが、待期期間を経ての帰国なのでしょう。そうした慌しさを微塵も感じさせない堂々たるシベリウス。そのテクニックにも一段と磨きがかかってきたように聴きました。

アンコールもありました。ソリストの立ち位置で弾くのかと思いきや、やおらこの日の首席チェロ・山本裕康に近寄り、二人で譜面を確認。ヴァイオリンとチェロの二人が終始ピチカートで合わせたのは1分も無かったようなあっという間のアンコールでした。なんじゃ今のは、という具合で、客席からも笑いの渦。
正直面食らいましたし、コンサート後の案内板も見当たりませんでしたが、想像するにシベリウスの小品でしょうか。東京に戻ってから色々調べましたが、シベリウスの作品表にヴァイオリンとチェロの二重奏曲というのがいくつかあり、その中に終止ピチカート、という一品があるのを発見。曲名は Water Drops (水滴)というものです。これかどうか自信はありませんが、二つの楽器のピチカートだけ、1分足らずという注釈から判断しても、水滴だったと思われます。聴かれた方、曲名がお分かりになった方のご教示を待ちましょう。

休憩時間は、1年半ぶりの再会となった名古屋の友人諸氏と久々の挨拶。お互い無事でしたか、何とか生き延びましょうね、ということで会話はほどほどに。後半、期待の第2交響曲を待ちます。

その期待、前にも書いたように、予想を超えるものでした。淡々と始めているようで、要所要所での引き締めが炸裂。特に第4楽章に入ってからのマエストロは乗りに乗り、全身を躍らせて圧巻のドライヴに思わず身を乗り出して聴き入ってしまいました。これを聴いて心が動かない人とは付き合いたくありませんね。
最後の和音が高らかに鳴り響くと、思わずブラヴォ~を発してしまった聴き手が一人。私も強く同感します。アドレナリンが出尽くした後で、歓声禁止は辛いものがあるでしょう。

それを察してかマエストロ、短いスピーチは “こんな状況下で来場された皆様にはただただ感謝のみ”。オーケストラに振り向くと、流れ始めたのが「悲しきワルツ」。これ、本当に凄かった。
アンコールは、いわばデザートのようなもの。それでもこのデザート、これだけでご飯10杯は行けそうという滋味満点、旨味凝縮の一品で、正に全身全霊を傾けた「悲しきワルツ」が何とも巨大な音楽として日本三大名ホールの一つ、愛知芸劇に鳴り響いたのでした。

これまでナマはもちろん、録音でも数えきれないほど聴いてきた「悲しきワルツ」でしたが、これほど壮絶な演奏は聴いたことがありません。これからも聴くことは無いでしょうね、広上指揮を除いては。いや、この時期、この演奏会でのマエストロだったからかもしれません。これぞ一期一会。だからこそ好きな音楽家の、ここぞという演奏会通いは止められないのです。
悲しきワルツだけでも名古屋に出掛けた価値はあった、西の空に沈みゆく太陽を見ながらの新幹線旅。次は何時になるのだろうか?

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