サルビアホール 第133回クァルテット・シリーズ

首題の件に入る前に、先ず前回第132回の訂正です。インテグラのサルビア初登場をシーズン43の1回目と報告しましたが、チラシとチケットを確認したところ、正しくはシーズン44の1回目でした。ここで訂正させて頂きます。
そもそもシーズン43の1回目は4月23日に予定されていたクァルテット・ベルリン=トウキョウの公演でしたが、彼らの海外渡航ヴィザが取得できないため今年11月15日に延期。同じくシーズン43に組まれていたマルメン・クァルテットは中止となり、シーズン43のラインナップは大幅に変更されるという経緯がありました。
またシーズン44も当初は5月27日のチェルカトーレ弦楽四重奏団が皮切りとなる筈でしたが、こちらは参加を予定していた大阪国際室内楽コンクールの中止に伴ってスケジュールが変わり、チェルカトーレは8月17日に延期されています。

現時点では既にシーズン45と46もスケジュールが発表されており、予定通り行けば最初に完結するのがシーズン44。続いて45、46の順に進み、漸く最後にシーズン43が完結することになりそう。これを書いている私も頭がこんがらがってきました。
まぁ、シーズン番号は便宜上のものですから気にすることはないでしょうが、通しの回数は恐らくカレンダー順に振られていくものと思われます。ということで、6月4日の金曜日にマチネーとして開催されたのが、シーズン44の2回目、通算回数では133回となる「ほのカルテット」です。プログラムは、

ハイドン/弦楽四重奏曲第29番ト長調作品33-5「ご機嫌いかが」
ボロディン/弦楽四重奏曲第2番ニ長調
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第12番変ホ長調作品127
 ほのカルテット

このブログを読まれている方は、当欄がさぞ音楽会に足繫く通っている奴だと思われるでしょうが、さにあらず。私などはコンサート・ゴアーとしてはヒヨッ子のようなもので、連日どころかコンサート梯子はざら、年間500回は出掛けているのではと思われる猛者もいます。
そうしたヘヴィー・コンサート・ゴアー諸氏によると、ほのカルテットはフィリア・ホールなどでは常連の由。恥ずかしながら小欄は今回が初めて、これまで団名すら知りませんでした。

先ずは「ほのカルテット」という名前が気になります。これは確認したわけではありませんが、恐らく紅一点でファースト・ヴァイオリンを務める岸本萌乃加(きともと・ほのか)の名前を採り、「ほのかカルテット」では「カ」がダブるので一つ省略、「ほの」カルテットと名付けたのでは、と想像できます。もし間違っていたら指摘のほど、よろしくお願いします。
ファーストの名前を紹介したので、残る3名の名前も上げておきましょう。第2ヴァイオリンが林周雅(はやし・しゅうが)、ヴィオラは長田健志(ながた・けんし)、そしてチェロが蟹江慶行(かにえ・よしゆき)という面々です。

2018年、東京藝術大学在学中の学生・大学院生によって結成と言いますから、未だ3年目。結成した年に宗次ホール弦楽四重奏コンクール第3位及びハイドン賞を受賞。2019年の秋吉台音楽コンクールで第1位という実力の持ち主たち。今年無事に開催されていれば、大阪国際室内楽コンクールでも入賞が期待されていた団体だそうですね。
これからコンクールに挑戦し、世界へ羽ばたこうかという期待の星ですが、既にファースト岸本はこの春から読響次席奏者に就き、チェロの蟹江も東響で活躍中。更にはセカンド林とヴィオラ長田も、反田恭平が主宰するジャパン・ナショナル・オーケストラのメンバーとして活動中とのこと。果たして今後は常設クァルテットとして活動できるか、が課題になっていくものと思われます。

いろいろネットで検索していると、彼らはツイッターの他にユーチューブで「ほのかるチャンネル」なるものを開設していることを発見してしまいました。この動画をいくつか見ていると、世代間ギャップというものを身に染みて感じてしまいます。彼等のスタイル、というか志向する方角は、とても隠居老人には付いて行けないものがあるようで・・・。
それは例えば、今回のサルビア・デビュー公演でも休憩を挟んだ前半と後半とで衣装を代えて登場する所にも感じられました。前半のカラフルな印象に対し、後半は全員が黒づくめの服装。家内によると髪型まで変えていたとのことでしたが、そこまでは気が付きませんでしたね。

その後半はベートーヴェンの後期作品。明らかにベートーヴェンを意識したスタイルなのでしょう、前半では演奏中に笑顔を浮かべたりする4人でしたが、後半は終始難しい顔で真剣に取り組んでいました。もちろん前半は不真面目だったということではなく、作曲家によって音楽へのアプローチを変えてくる、という意図の表れだろうと観察した次第です。
実際、作品127は特に第3楽章の途中からスイッチが入ったようで、演奏も白熱度が増し、終楽章では一気に聴かせる充実した演奏になっていたと聴きました。

前半の2曲目に選ばれたボロディンは弦楽四重奏曲の演奏会ではお馴染みの名曲ですが、調べて見たところ何とサルビアホールでは初めて。これは意外でした。第3楽章の有名な夜想曲はアンコールで弾かれたこともありますが、全曲はサルビア初登場。ということはボロディン作品も初登場ということになります。
演奏会の幕開けとして演奏されたのは、ハイドンの作品33-5。上で紹介した宗次コンクールでハイドン賞を受賞しただけあって、彼らのハイドンは傑出していました。「ご機嫌いかが」というやや苦しいニックネームが付いていますが、この曲がサルビアで演奏されるのは、2018年5月のモルゴーアに次いで二度目となります。

ハイドンの機知が随所に溢れる傑作で、私としては一押しの作品。ほのカルテットは、その機知を十二分に曳き出して聴かせてくれました。第1楽章はサラリ、繰り返しは省略し、冒頭の「ご機嫌いかが」をさりげなく強調します。
思わず膝を打ったは、第3楽章。ここはスケルツォの3拍子で書かれていますが、アクセントをずらすことによって恰も2拍子系のようにも聴こえ、ハイドンのユーモアが最大限に発揮される個所。ここを彼らはわざとテンポに緩急を付け、如何にも聴き手を面食らわせる大胆な解釈で驚かせます。いや、私にとっては大喜びするアイディアでしょ。
第4楽章も気が利いていて、ここはありきたりの変奏曲かと思いきや、最後はプレストに転じて意表を突く。ハイドンがペロリと舌を出している様子が思い浮かべられるような見事なハイドン演奏でした。ハイドン、こうでなくちゃ、ね。

以上、初体験の「ほのカルテット」。とても楽しい体験でしたが、気がかりなのはクァルテットとしての活動が何処まで続くのか、ということ。折角ですからハイドン演奏を極めて欲しい、と思っているところです。
ところでマチネーの室内楽コンサート。偶々この日は雨風強く行き帰りには難儀しましたが、平日の午後の演奏会は気に入りました。どうしても夜は早くに眠くなってしまうロートルにとっては、気分的に楽なものがあります。今後も平日のマチネー続けてください、思わず事務局にお願いしてしまいました。次のマチネーは8月17日のチェルカトーレ弦楽四重奏団です。

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