重要文化財でモーツァルトを聴く

初夏を思わせる5月第3日曜日の午後、池袋で良質な室内楽を楽しんできました。日本モーツァルト愛好会が主催する以下のプログラム

≪日本モーツァルト愛好会・第475回例会≫
モーツァルト/弦楽四重奏曲第1番ト長調K80「ローディ」
モーツァルト/ピアノ四重奏曲第1番ト短調K478
     ~休憩~
モーツァルト/ピアノ・ソナタ第11番イ長調K331より「トルコ行進曲」
モーツァルト/ピアノ協奏曲第20番ニ短調K466(ピアノ五重奏版)
 ピアノ/浅野真弓
 クァルテット・エクセルシオ

モーツァルトを楽しむサークルとしては、恐らくモーツァルト生誕200年を機として1955年に設立された日本モーツァルト協会が有名でしょう。私も同会主催のコンサートやレクチャーなどに参加したこともあります。
モーツァルトを楽しむ会は他にもあり、昨日出掛けたのは「日本モーツァルト愛好会」の例会。この団体は「ツウの方も、ツウではない方も、楽しめる会」がモットーで、設立は1980年。会員数は100名を超えているようで、ほぼ毎月の様にコンサートや講演会が催されています。「アマデウス通信」という会誌も発行されていて、去年の夏には創刊50号を迎えた由。熱心な活動を続けていますが、詳しいことはホームページを参照してください。↓

http://www.nihon-mozartaikoukai.com/

やや紛らわしい名称ですが、モーツァルト没後200年の年に設立された湘南モーツァルト愛好会という組織もあり、私が知っているだけでも3団体。日本人のモーツァルトに寄せる愛が如何に多いかが、この一事を以ても知られるでしょう。
このモーツァルト愛好会ではかつてのクラスメートも活躍しており、私も何度かその例会に参加してきました。愛好会と言うだけあって、一般的な演奏会では余り聴く機会のないモーツァルト作品を楽しめるところが、この会の特徴と言えるでしょうか。今回も他では聴けない最初の弦楽四重奏曲や、人気曲のニ短調ピアノ協奏曲をピアノと弦楽四重奏による演奏で楽しめるという貴重なコンサートでもありました。

ピアノの浅野真弓は、桐朋学園卒。ドイツ国立マンハイム芸術大学大学院に留学し、ドイツ国家演奏家資格を取得。帰国してからはソロに室内楽に、更には歌曲の伴奏などにも活躍している方。ウィーン・フィルの首席チェリストであるタマーシュ・ヴァルガや、バリトンの河野克典とのCDもリリースしています。彼女のホームページはこちら。↓

http://www.mayumi-asano.com/

クァルテット・エクセルシオについては改めて紹介することもありませんが、新セカンドの北見春菜が東京でメンバーとして登場するのはこの会が初めてとのこと。その意味でエクにとっても新たなスタートとなるコンサートでした。
浅野とエク、実はこれが初共演ではなく、これが5回目か6回目のはず。2016年にフランクのピアノ五重奏曲で共演したのが最初だそうで、私も去年9月6日にカワイ表参道サロンで行われた浅野主催の第3回室内楽シリーズを聴きました。
この時は最初に浅野がラヴェルとアルベニスのソロ作品を弾き、それに続いてドヴォルザークとシューマンのピアノ五重奏を演奏するというヘヴィー・プログラム。実に息の合った、熱いアンサンブルを楽しみましたが、このコンサートは音楽の友が毎年特集しているコンサート・ベストテン2018にも選ばれたそうで、今や最も注目される五重奏コンビと言えそうですね。今回と同じプログラムは来る5月24日、宇都宮でも開催されるそうですから、興味ある方は浅野氏のホームページで検索してください。
なお、ここだけの速報ですが、この日、浅野氏から銀座のヤマハホール、同じく王子ホールでの合同コンサートが予定されていることが公表されました。そちらも期待して待つことにしましょう。

モーツァルト愛好会が用意してくれた会場は、池袋にある自由学園の明日館講堂。羽仁もと子氏が東久留米市に設立した自由学園は、キリスト教(プロテスタント)精神をバックボーンにした学校法人で、明日館講堂はその関連施設。道路を挟んで1925年(昭和元年)に建造された東教室と、1927年建設の明日館講堂が並立しています。講堂は帝国ホテル建設のために来日していたフランク・ロイド・ライトと遠藤新が共同設計した歴史的建造物で、1997年(平成9年)には国の重要文化財に指定されました。
池袋のメトロポリタン口で下車。メトロポリタン・ホテルを目印に進みますが、池袋の南西エリアは駅中心部とは雰囲気がガラリと変わり、目白に接している地区だけあって、閑静な住宅街が広がります。複雑に入り組んだ街ですが、要所要所の電柱に案内掲示があり、余り迷わずに会場に辿り着けました。

講堂入り口には小さな池が設えており、都内では珍しい水生植物のナガバオモダカが満開。思わずスマホで写真を撮ってしまいました。会場となった講堂は大理石と木材がふんだんに使用されており、石と木が程よく溶け合う独特な響き。教会を模した1階は長椅子が並び、2階にも椅子を並べて溶け合う合奏が昇ってくる空間です。
長椅子はゆったり座れば3人掛け、詰めれば4人座れるベンチで、272席になる由。愛好会の会員だけではなく、折ある毎に配られていたチラシ効果もあって会員以外の聴き手も駆けつけ、この日はほぼ満席に近い大入りでした。260席は埋まっていたのではないでしょうか。

演奏会そのものは、愛好会の小林女史が短い解説を加えながらの司会進行スタイル。後半が始まる前には演奏者5人が自己紹介し、モーツァルトへの想いを語ります。これは愛好会主催コンサートの習わしなのだそうで、会員が気軽にモーツァルトと接する工夫なのでしょう。舞台設定も手釣りのアットホームな雰囲気。
重要文化財で聴くモーツァルトは、また格別。堂々と奏でられたピアノ協奏曲の室内楽版に酔った後は、前回浅野/エクのコンサートで演奏されたドヴォルザークの五重奏曲から第3楽章がアンコールされました。これは表参道でもアンコールされた楽章ですが、流石にモーツァルト大好き人間ばかり、スケルツォ第1部がジャンと区切りを付けた所で拍手も。これはご愛嬌、講堂も和やかな笑いに包まれましたとさ。

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