ウィーン国立歌劇場アーカイヴ(30)

今日から無料配信が始まったロッシーニの「セヴィリアの理髪師」は、2019年5月21日の公演です。ということは、オッタヴァ・テレビがウィーン国立歌劇場のライブストリーミングを開始した直後のもので、私はその頃その存在に気付かず見逃していたもの。悔しい思いをしていたのですが、今回幸いにも閉鎖中のサーヴィスとして復活したことに深く感謝しています。

改めてタイトル・ロールを確認していて驚いたのですが、演出家ギュンター・レンネルトの名前に接するのは誠に久し振りのこと。未だレンネルト演出が現役で使用されていることにも感心しました。レンネルトと言えば、私がクラシック音楽の世界に足を踏み入れた頃はしばしば目にしていた名前。亡くなって40年以上が経過していると思いますが、彼の演出を基にして組み立てられた舞台で、装置を巧みに動かしてバルトロ家の内と外を違和感なく見せてくれます。
この演出も見所の一つでしょう。キャストは次なる面々。

アルマヴィーヴァ伯爵/フアン・ディエゴ・フローレス Juan Diego Florez
ロジーナ/マルガリータ・グリツコヴァ Margarita Gritskova
フィガロ/ラファエル・フィンガーロス Rafael Fingerlos
ドン・バルトロ/パオロ・ルメッツ Paolo Rumetz
ドン・バジリオ/ソリン・コリバン Sorin Ciliban
フィオレッロ/イゴール・オニシュチェンコ Igor Onischenko
アンブロージオ/ドミニク・リーガー Dominik Rieger
ベルタ/リディア・ラスコルプ Lydia Rathkolb
士官/アレハンドロ・ピツァロ=エンリケ Alejandro Pizarro-Enriquez
指揮/エヴェリーノ・ピド Evelino Pido
演出/ギュンター・レンネルト Gunther Rennert
舞台装置/アルフレード・シールケ Alfred Siercke

本来ならこの時期、ウィーンでは同じロッシーニの「ウイリアム・テル」が上演されていたはずで、その代わりに今回の映像が選ばれたのでしょう。さすがのウィーンでも「ウイリアム・テル」のアーカイヴはないようですね。
オッタヴァ・テレビもそれを配慮し、このセヴィリアは3日間楽しむことが出来ます。私もあと2回は間違いなく見るでしょう。

キャストは基本として国立歌劇場のアンサンブル・メンバーで固めていますが、アルマヴィーヴァ伯爵のフローレスは別格。歌だけでなく、その才能が全開していますからお見逃しなく。
先ず驚かされたのは、第1幕でロジーナに歌いかけるカヴァティーナ。通常はピットで弾かれるギターに乗り、伯爵は楽器をそれらしく弾くふりをして歌い上げるのですが、フローレスは自分でギターを弾きます。ただポロンポロンと伴奏するのではなく、見事なテクニックで客席を唖然とさせるのだから凄い。加えて、ファンダンゴの一節を華麗に披露するあたり、オペラの舞台がセヴィリアであることを意識しているのでしょう。誠に心憎い歌とギターに客席の拍手喝采は暫く治まりません。

この上を行くのが第2幕最後、フィナーレ直前の圧倒的な演説会。ここはもう余りの見事な歌唱に客席の歓声鳴り止まず、しばらくはオペラの進行が出来なくなって今うほど。舞台上の登場人物たちも客席に同調して拍手し続けるのですから、もうフローレスの独り舞台と言って良いでしょう。
このオペラに付いては余計なことを付け加えることもありますまい。もちろんグリツコヴァのロジーナ、フィンガーロスのフィガロ、ルメッツのバルトロも歌良し、演技良し。最高に楽しめるセヴィリアでした。グリツコヴァはロシアのメゾですが、風貌がどことなくスペイン風なのもセヴィリアの舞台にピッタリ。

今回の公演に付いては、タイトルを「アルマヴィーヴァ伯爵の結婚」と変更しても良いかも。これが三日間も見れる幸せに感謝しましょう。

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