第389回鵠沼サロンコンサート

鵠沼海岸にある瀟洒なフレンチ・レストラン、レスプリ・フランセで月1回開催されている鵠沼サロンコンサート、前回は10月6日でしたが、それから3週間後の10月27日、第389回が行われました。10月に2回となりますが、昨日は11月例会が前倒しとなったもので、実質は11月例会ということになります。
本来ならウィーンから弦楽四重奏団を迎える予定でしたが、御存知のように海外から演奏かが来日することが難しい現在、それを逆手に取って日本の若い音楽家たちを紹介するシリーズに昇華しつつあると言えるかもしれませんね。

ということで、第389回は期待のクァルテット、インテグラを聴くことが出来ました。コアな室内楽ファンには既にお馴染みのグループですが、私はこれがナマ初体験でもあります。
冒頭、平井プロデューサーの紹介によれば、来年予定されている大阪国際室内楽コンクールの有力候補の一つ。本来なら同コンクールは今年開催されていたはずでしたが、コロナの為に1年延期。来年実施されるかは予断を許しませんが、今年出場を予定していた日本の3団体も、現時点では参加の予定。中でもプロデューサー一押しがクァルテット・インテグラであるとの解説でした。

ところで鵠沼サロンコンサート、秋の2回は三密を避け、感染予防に万全を期するために1時間程度のミニ・コンサート・スタイルでしたが、この回からフル・コンサート、以下のプログラムが披露されました。もちろん感染防止策はこれまで通りで、休憩時の飲み物などの提供は無く、各自静かに良質な室内楽を堪能します。

ハイドン/弦楽四重奏曲第79番ニ長調作品76-5「ラルゴ」
ウェーベルン/弦楽四重奏のための5つの楽章作品5
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調作品131
 クァルテット・インテグラ

先ずメンバー。第1ヴァイオリンは三澤響果(みさわ・きょうか)、第2ヴァイオリンが菊野凛太郎(きくの・りんたろう)、ヴィオラに山本一輝(やまもと・かずき)、チェロが築地杏里(つきじ・あんり)の面々。2015年4月に桐朋学園大学及び桐朋学園女子高等学校音楽科に在学中の学生たちにより結成され、第8回秋吉台音楽コンクール弦楽四重奏部門で第1位に輝いたほか、併せてベートーヴェン賞、山口県知事賞も受賞。元アルバン・ベルククァルテットのギュンター・ピヒラーに招待され、キジアーナ音楽院夏期マスタークラスに全額スカラシップを得て参加し、イタリア各地のコンサートで好評を博した、というこれまでの経歴がプログラムに掲載されていました。
サントリーホール室内楽アカデミー第5・6期のフェローで、これまで錚々たるコーチ陣に師事し、団名の「インテグラ」とはイタリア語で統合や誠実さを意味するそうで、命名者はコーチの一人、元東京クァルテットのヴィオリスト磯村和英氏とのことです。なるほど、統合と誠実さという彼らの資質は、冒頭で演奏されたハイドンの第2楽章で見事に表現されていると感じました。何より4人のバランスが良い。

続くウェーベルンでは雰囲気が一変。ウィーン楽派から新ウィーン楽派へと一気に時代が飛びます。ここでは彼らのテクニック、作品への意気込み、若手グループならではの新鮮な音楽創りが、眼と耳とに快い刺激を与えてくれました。
もちろんウェーベルンはパート譜ではなく、4人がスコアを使っての演奏。平井氏の述懐では、かつては鵠沼でも新ウィーン楽派の作品が頻りに取り上げられていたそうですが、今回は久し振りとのこと。確かに私がサロンに通うようになってからでは初めてのウェーベルンだったのじゃないでしょうか。

私にとって作品5は、かつて弦楽合奏版をカラヤン/ベルリン・フィルが大阪で演奏したのを聴いたことがあり(もちろんテレビ鑑賞でしたが)、珍しくカラヤンが瞑想暗譜ではなくスコアを見ながら指揮するのを興味深く見た懐かしい作品です。そのときの短いながらも誠にカッコ良く颯爽とした演奏に、ウェーベルン開眼と錯覚したものでした。
今回の弦楽四重奏版でも同じ、第3楽章の最後に4人のユニゾンが奏する fff とピチカートの決めの一発に、思わず鳥肌が立ってしまいました。いいじゃないか、インテグラ。

後半は、ベートーヴェンの作品131。この若さでこの巨峰に挑む意気軒高と大胆不敵。二つが同居する挑戦的なベートーヴェンに思い切り拍手を贈ってきました。大曲を弾き終えてもアンコールに応えるほどの元気さ、この辺りに彼らの若さと挑戦的な姿勢を見ましたが、どんどん国際的なコンクールに挑み、結果がどうあれ活動を継続していかれることを祈念しましょう。こんな時だからこそ、弦楽四重奏の世界にも新しい勢力の台頭が待たれているのですから。

さてそのアンコール。ファースト三澤の一言が如何にも若手らしい。“これからメッチャ短いアンコールを演奏しますが、今日のプログラムの中の1曲です。みなさん当ててください” ですと。実際に聴かれなかった方も考えてくださいね。私もクイズを出しましょうか。この日のアンコールは次の内どれでしたでしょうか?  三択です。

①ハイドンの「ラルゴ」から第3楽章メヌエット
②ウェーベルンの作品5から第3楽章 Sehr bewegt
③ベートーヴェンの作品131から第3楽章 Allegro moderato

答えは②でした。メッチャ大好きな楽章を2回も聴けちゃった!

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