ホソオチョウの記憶

日経の日曜版(4月8日)にホソオチョウの記事が写真入で出ていた。「ホソオアゲハ」となっているけれど、最近はそういう呼称なのだろう。

要は、この韓国のチョウが一部マニアの「放蝶」によって日本国内に繁殖し、その勢力を広げている。国では外来生物法によって要注意生物に指定している、ということ。

ホソオチョウが最初に見つかったのは、確か百草園だったと思うけれど、明らかに愛好家が飼育したものを放ったのだ。とても海峡を越えて飛来したとは考えられない。そういう種類ではない。

その後各地から採集報告が寄せられて気にはなっていた。あるとき東大の三四郎池にいた、という情報があって、5月の連休に子供と捕虫網を持って遠征した。晴れていたけれど風があって寒く、ホソオチョウの影も形もなかった。

その次は多摩川土手、川崎競馬場のトレーニング・コースがある辺りで採集されているという情報。このときは蝶研出版から態々ファクスで現場地図を取り寄せ、勇んで出動した。残念ながらこのときも空振り。

それが何と、ある年の秋の四谷。上智大学のグラウンドに面した土手に飛んでいるのをこの目で目撃してしまった。日付を確認すると、1999年9月30日。この年は夏が異常に暑く、残暑は9月を終えようというのに極めて厳しい年だった。
丁度昼休み、いつものように散歩をしていて異様なチョウの姿に言葉を失う。直ぐに「ホソオチョウ」ということは分かった。

これは木曜日のことで、翌日は網を持って出勤し、昼休みに飛ぶように現地に向かう。昨日ほどではないにせよ、まだまだ飛んでいるではないか。早速捕虫網を組み立てて、膝をガクガクさせながら4頭の♂をゲット。
背広に革靴で網を振り回したのは、後にも先にもこの時だけ。これが全てで、♀の姿はなかった。これは10月1日、金曜日のこと。
週が明けた月曜日にも行ってみたけれど、すっかりホソオチョウはいなくなっていた。

ということで、私の標本箱には「東京都千代田区」のラベルが付いたホソオチョウの標本が4♂納まっている。

これも恐らく愛好家の放蝶の結果だろう。ここはウマノスズクサが蔓延っていて、毎年ジャコウアゲハが発生している。最近は少なくなったけれど、毎年数頭を見かける場所。

新聞ではジャコウアゲハへの影響を心配しているけれど、上智大学の土手では問題にならなかったようだ。
確かに生態系を考えれば、異国のチョウを勝手に持ち込んで放すのは問題。しかしそれは国内の問題でもあって、例えば絶滅した高尾山に富山産のギフチョウを放して「復活」させて良いものか。生物には、人間には計り知れない地域性がある。別の地域の「種」を持ち込むことによって、その地域の「種」に影響を与えないわけはない。

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