カテゴリー: 白柳秀湖

強者弱者(172)(最終回)

ほぼ1年前、「強者弱者」シリーズをスタートさせました。爾来1年、全172編の随筆を紹介してきましたが、今回で無事に最終回を迎えます。             ********** 木槿咲く頃  二十一日、彼岸の入り。二十四日、秋季皇霊祭、彼...

強者弱者(171)

九月の祭  九月は市に祭典多し、十五日は神田の明神、十六日は芝の神明、十九日は牛込の赤城、二十一日は小石川の白山、本郷の根津権現、何れも名あるまつりなり。神田の明神は、浅草の三社、麹町の山王と並びて市のまつりを代表するものなり。芝の神明はだ...

強者弱者(170)

蜻蛉  此頃、場末には腕白ざかりの子ども手に手に細き竹竿をもちて蜻蛉とりに余念なし。曾ては蝉の声に箸を捨てゝ飛びいだしたるが今はせめあぐみて其ほこさきを新来の蜻蛉に向く。捕りて鳥籠などに入れたるを見るに、大さ夏の初めに出づるシャホ、カギヤに...

強者弱者(169)

月見  十五夜の月見。縁近く七草の盆栽など置きて団子に草々の果物などかざり供へ一家うちまどゐて待つほどに、露重き横雲のひまより萬傾のいらかを抽きてほのめき出でたる月の光、電柱の上に、土蔵の屋根に、物干台の間に、火の見櫓の下にかゝりて山間海辺...

強者弱者(168)

萩、女郎花  女郎花も西南の高原にあり。山手線に在りては、新宿以南の沿道に此花を見るべし。葛はむさし野に稀なり。萩、ふぢばかまは到る処に野生す。目黒停車場の構内にある萩は、山手線の単線時代より野生したるものをそのまゝ残したるものなり。  ふ...

強者弱者(167)

九月  二百十日は毎年此月の二日頃にあたる。驕陽漸く去りて、雲の色に、虫の音に秋のこゝろを見れども残暑なほきびしく、時に気圧の来襲あり。暴風颯到して家を壊ち、田圃を荒す。殊にチブス、赤痢の流行は毎年此月を以て最とす。           *...

強者弱者(166)

木場の秋  二十八日、深川不動の祭礼。富岡町より折れて不動に詣づ。門前の茶屋、軒を並べて客をまつ。中形の浴衣に二番の丸髷、元服したる女房が供なる女に娘をつれてやすらひたるもよし。  不動に詣でて堂の裏より渡しを渡り和倉町に出づるも一興なり。...

強者弱者(165)

我毛香  われもかうも八月の末より咲き出づ。其花坊主頭の形をなし、はじめは赤色なれど日を経るに随ひて紫黒色に変ず。われもかうをかる萱と思ひなす人また却々に多し。坊主の連想より来る独断と知るべし。           ********** 我...

強者弱者(164)

桔梗とかる萱  桔梗は西郊より南郊にかけて野生のもの多し。八月の半より咲き出づ。かる萱も西南の高原に多し。東京の植木屋盆栽を作る都合より、糸すゝきを呼びてかる萱といひならはせり。かる萱は丈尾花にひとしく矮生として作ること困難なればなり。今日...

強者弱者(163)

秋の七草  秋草に桔梗、かる萱、女郎花、葛、尾花、われもかう、萩、ふぢばかまなどあり。とりどりの風情はあれど、野分に伏しまどひ、繚乱として咲き出でたるをよしとす。何れも色彩を主とせず、情調を尚ぶものなり。           *******...

強者弱者(162)

萩寺  本所の萩寺は近年幾度の洪水にすさみて見る影もなし。向島の百花園、七草の名所なり。園友会といふものあり。器玩好尚の趣味をも併せていとみやびたるまどゐなり。秋には放虫会など催すよし。目黒の苔香園は百花園に比べて野の趣あり、自然の心深し。...

強者弱者(161)

 二十六夜の月待ちは毎年この月の二十日頃に当る。東京にては、上野の台、芝の愛宕など、夜ふけ更闌けて多少の人出あり。されど、此頃はおしなべて雨多く雨なき日も雲にさまたげられて月の姿を見ぬこと多し。  二十六夜の月は芝浦、高輪の町々より台場の間...