今日の1枚(31)

大寒も過ぎて日の出は徐々に早くなりつつあります。その恩恵が感じられないのは曇天続きのため。今が一番暗い季節のような錯覚に陥ります。
今日は再びマーキュリー録音を取り上げます。

①ブラームス/ヴァイオリン協奏曲二長調作品77
②ハチャトゥリアン/ヴァイオリン協奏曲(1940)

いずれもヴァイオリン・ソロはヘンリク・シェリング、アンタル・ドラティ指揮ロンドン交響楽団の演奏です。またまたドラティの登場。
データは以下。
①1962年7月18日、②1964年7月4日、いずれもロンドンのウォトフォード・タウン・ホール Watford Town hall での収録。
ここがどういう会場かは良く知りません。

プロデューサーとエンジニアは両曲では違っていて、①はプロデューサーが Wilma Cozart 、エンジニアが Robert Fine の名コンビなのに対し、②のプロデューサーは Harold Lawrence 、エンジニアが Robert Eberenz とクレジットされています。
エンジニアの Eberenz は①でもアソシエート・エンジニアとして名を連ねていますから、コザート/ファイン・チームの後継者でしょう。

録音コンセプトは2曲で全く変わっていません。同じセッションかと見紛う程に統一が取れています。
繰り返しになりますが、これらの曲の最高録音。現在ではこれほど見識のある録音は不可能なのかも知れません。
演奏もシェリングですから同曲のベストを争う名盤だと思います。ブラームスは名演が多いジャンルですが、後は聴く人の好みでしょうね。

①のカデンツァはヨアヒムのもの。カデンツァは別録りして後から合成するものもありますが、これは通しセッションで録音されているように聴こえます。途中に不自然な繋ぎを一切感じさせません。
一つ気になるのは、カデンツァの後のコーダに入ってホルンが“パ・パーン”というリズム音型を4回鳴らす箇所(第547、551、555、557小節)。このホルンが全く聴こえません。間違いなく演奏していないと思われます。まさか奏者が落ちたとは考えられないので、シェリングかドラティの意図と考えられます。でも何故でしょうか。

②に登場するハープは左から聴こえます。ブラームス同様弦はアメリカ式配置。
ここでもホルンが譜面通り演奏していない箇所が散見されます。一番気になるのは第2楽章。ここはホルンのゲシュトプフ奏法が何度も登場しますが、恐らく全て吹いていないよう。これも理由が判りません。改訂稿でもあるのでしょうか。
ブラームスと違ってカットも目立ちます。第1楽章は問題ありませんが、第2楽章は大きなカットが2箇所あります。一つは始まって直ぐのヴァイオリンの出だし、第14小節~24小節まで。もう一箇所は第144小節~161小節。
第3楽章のカットは更に大胆で、第121~126小節、第145~175小節、第501~528小節の3箇所に鋏が入っています。
特に3番目のカットは、499と500小節のホルンだけを残してヴァイオリンとフルートのパッセージも演奏していません。次に続けるための処置として当然ですが、これによって編集ミスでないことは確かです。
またシェリングは、第1楽章のカデンツァでも一部譜面とは違ったパッセージを演奏してもいます。

以上、スコアを見て聴く人には煩わしく感じられるディスクですが、そういう些細なことには頓着しない聴き手には素晴らしいディスクです。

参照楽譜
①オイレンブルク No.716
②シコルスキ Nr.2212

 

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