サルビアホール クァルテット・シリーズ第20回
今月も鶴見サルビア・ホールのSQSレポートです。シーズン6の最終回、「今日、世界で最も優れたクァルテットの一つ」であるウィハン・クァルテット登場。プログラムは正に正攻法↓
ヴォルフ/イタリア・セレナード
モーツァルト/弦楽四重奏曲第14番ト長調K.387
~休憩~
ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第10番変ホ長調 作品51
今回が12回目の来日だそうで、初めてナマ演奏に接する私が新参者ということ。改めて紹介するまでもありません。
念のためメンバーは、ファーストがレオシュ・チェピツキー、セカンドはヤン・シュルマイスター、ヴィオラはイジー・ジィックモンド、チェロがアレシュ・カスプジークの面々。1985年の結成以来、メンバーは一度も替っていないそうです。
団名は、チェコの歴史的団体「ボヘミア・クァルテット」の創立者ハヌス・ウィハンの名を冠したもの。ロンドンのコンクールでメニューインが激賞し、“聴衆賞”が特別に創設されたことなどは最早伝説。詳しくは彼等のホームページを。
http://www.wihanquartet.co.uk/
今回の来日は、各地で日本の若手演奏家との共演が多いようで、クァルテットだけの演奏会は鶴見だけじゃないでしょうか。5月のQ界の話題は、東京Qのサヨナラ公演だけが注目されているみたい。
結論を申せば、鶴見の限定100席でウィハンを、しかも四重奏だけのプログラムで聴けるのは贅沢の極み。黒尽くめの4人に、出演してくれたことだけでも感謝しなければいけないでしょう。
しかも演奏されたのはクァルテットの定番ばかり。彼らの美質と聴いた良く歌う音楽、速目のテンポで真に滔々と流れるカンタービレに酔うばかりでした。
ウィハンはヴァイオリンが二人並ぶ定番の配置。その二人のヴァイオリンがまるで1本の様に寄り添って歌い上げる様は、これこそクァルテットの王道と納得してしまいました。
ボヘミアンなタッチ満載のドヴォルザーク、その第2楽章の出だしなど、ヴァイオリン2本が美しい調和を聴かせる「意味」が手に取るほどに「見えて」くるのでした。
冒頭のヴォルフは演奏会開始に相応しい一品。モルト・ヴィーヴォの指示が的確な、スピード感あふれる歌を紡ぎます。終了すると、舞台裏に戻ることなくモーツァルトへ。
「さんはちなな」は、一時「春」と呼ばれていたほど、ウィハンの音楽性にピタリと嵌った一曲。個人的には「狩」や「不協和音」よりも好きな、モーツァルトのザ・ベストと考えている名曲。
思う存分に彼らの美音、特に抜けるような高音の輝きを楽しませてもらいました。メヌエット楽章の p と f の交替もぎこち無さなど皆無。作品全体の把握も真に大きなもので、細部の彫琢云々よりもモーツァルトの流麗感を大切にしています。
後半のドヴォルザークと言ったら。ドヴォルザーク作品の中でもスラヴ的な要素の強い傑作、ウィハンの聴かせどころ満載の名演、としか言いようがありません。
幸松肇氏の「世界の弦楽四重奏団とそのレコード」から引用させて頂ければ、“21世紀に生み出されたひとつの感動的成果が、ここに新たに登場”したコンサートでもありました。
答礼のあと直ぐにアンコール、日本人にも判るように、ゆっくりと曲名が告げられます。そう、「アメリカ」四重奏曲のフィナーレ。
何百回となく弾いている彼ら、特にファーストのレオシュはほとんど暗譜状態で、自らの血と肉とを披露。演歌歌手ならコブシを思い切り効かせる、ということでしょうが、本場のドヴォルザークを満喫できました。
休憩時間も終了後もCD直売コーナーは人だかり。これを見ても聴衆の感銘の深さが判ろうというもの。
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