N響・第1656回定期の放送
N響の首席客演指揮者プレヴィン指揮の2回目は、10月23日にNHKホールで行われたC定期の放送です。そもそもC定期は名曲路線という方針だったと思いますが、昨今のN響は全てが名曲ばかりで、シリーズ毎の棲み分けはほとんどなくなってしまった感があります。
今回のプログラムは、①プレヴィン/オウルズ(2008) ②モーツァルト/ピアノ協奏曲第23番イ長調K488 ③ショスタコーヴィチ/交響曲第5番 というもの。②のソロは池場文美という方、失礼ながら名前も初めて聞く方です。
このプログラムで最も注目されるのが①でしょう。そういう偏屈な意見は私だけでしょうが。
プレヴィンの自作自演で、今回が日本初演です。タイトルのオウルズ Owls とはもちろん「フクロウ」のこと。何でも、プレヴィン自身がイギリスにある家の裏の森で木から落ちた2羽のフクロウの雛を見つけ、傷を負った2羽に手当てをして森に戻した体験を音楽にした由。
現代音楽には違いありませんが、凝った技巧を使っているわけではなく、調性を意識させる10分ほどの概してリリカルでメロディアスな作品です。
管弦楽編成は、フルート2(2番奏者ピッコロ持替)、オーボエ2(2番奏者イングリッシュホルン持替)、クラリネット2、バス・クラリネット、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、ティンパ二、打楽器一人、チェレスタ、ハープ、弦5部というもの。打楽器はシロフォン、シンバル、大太鼓などを使っていることが確認できましたが、どれも節約した使い方です。
聴いてみると、二羽のフクロウということで各楽器がペアで動くように書かれているようですね。弦楽器も時々二人のソロで対話する個所もありました。楽器をマスで使うよりも其々の個性を浮き立たせるようで、謂わばミニチュアの管弦楽のための協奏曲。
演奏会の冒頭で演奏するのに適した作品でしょう。
2008年10月2日、アンドレ・プレヴィン指揮ボストン交響楽団で世界初演されたもので、初演から未だ1年しか経過していません。
楽譜はシャーマー社にレンタルがあり、どうやら2010年5月にはスコアが出版されるようです。プレヴィン・ファンの皆様、一冊どうぞ・・・。
②を弾いた池場文美(いけば・あやみ)という人は、放送に出たテロップでは1958年、神奈川県の生まれ。51歳でしょうか、新人というわけではなさそう。グラーツ音楽大学の教授で、ヨーロッパが活動の中心だそうです。
N響に出演する日本人は極めて稀で、世界的に活躍している人でもN響の敷居は高いようです。最近は若干緩和されているようですが、何故なんでしょう。
今回の池場女史、アンネ・ゾフィー=ムターと度々共演しているということで納得しました。要するにプレヴィン・ファミリーなんですね。首席客演指揮者の発言力か。
モーツァルトは大学の先生だけあって、実に手堅いものです。年齢もあるのでしょうが、舞い上がるような様子は微塵もなく、じつに堂々たるもの。モーツァルトはかく弾くべし、という手本のようなピアノでした。
モーツァルトの書き残した譜面には装飾音はありませんが、池場教授も装飾などはほとんどやらず、正統に終始します。カデンツァもモーツァルトの自作をそのまま弾きました。ピアノはスタインウェイ。
③は特に触れることもないでしょう。実に大らかなショスタコーヴィチ。
例えば第3楽章、弦楽器はいくつにもディヴィジされます(ヴァイオリンは3部、ヴィオラが2部、チェロも2部)が、見ていても明確に分担を決めているわけでもなさそう。
この楽章の最後の pp は1小節の全休符で終わるのですが、プレヴィンは音が止むとサッと指揮棒を下ろしてしまいます。パウゼの余韻や意味などには関心ないのでしょうかね。
ということで、堂々たるショスタコーヴィチ。これなら余り緊張しないで楽しめたでしょう。
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