NHKのテレビ番組に「美の壺」というのがある。ハイビジョンでは月曜日の夜7時半から放送していて、丁度食事を終えた時間だから、ニュースの後で見るとは無しに見ている。

谷啓さんが登場して、毎回様々なテーマで鑑賞のツボを解説するという趣向。

二週間ほど前に「菊」というのをやっていた。新宿御苑などでも観菊会があるけれど、あの菊だ。
その冒頭、菊は中国から渡ってきて、というナレーションが入った。“エッ、そうだったかしら”と思って、書棚から「植物名の由来」という本を引っ張り出してくる。東大理学部の植物科を卒業した理学博士で、1980年に亡くなった中村浩先生の著作である。

先生は牧野富太郎先生の弟子で、柳田国男先生や私の祖父とも親交が厚かった方。直接の面識はないけれど、植物関係では大いに尊敬し、勉強させてもらっている。

で、菊。
この一文は「採集と飼育」に連載されたものを単行本に纏めたものだが、「キクの語源はクク」というタイトルのエッセイである。実に面白い。大変示唆に富んだ学説。
詳しくは図書館やネットで探して読んで欲しいけれど、出版元は東京書籍。

概要はこういうこと。
キクは漢名「菊」で、漢名の音読みである。キクには音訓の区別はなく、仮名でも漢字でもキクである。従って語源は中国に求めるべきで、日本名ではないと考えられる。しかし古くから日本列島に野生のキクがあったことは疑いなく、従って和名もあったはずである。

ということで先生の語源探しが始まる。

「美の壺」の対象である園芸品種は中国から渡来したものである。これは間違いがない。
先生は古事記に「菊理姫」という名がでてき、これを万葉仮名で「久久理比売」(くくりひめ)と訓されていることに着目する。キクの日本に於ける古名は「クク」であったと推論するのである。

先生はこの説を我が祖父と論じ、祖父は膝をたたいて“菊綴じというのもまさにそれだ!”と大声で叫んだことがこのエッセーに書かれている。

更に先生はこの疑問を牧野先生に投げかけた。
牧野先生は、“栽培菊の原種は日本のノジギクだと思う。その種子が何らかの形で中国に伝わり、そこに咲き乱れていたのを、品種改良の名人である中国の園芸家が手を加えていろいろな園芸品種を創り出し、これを日本が逆輸入したものが園芸菊だろう。つまりキクの本家は日本だ”と言い切られた。

中村先生は、牧野先生のノジギク原種説と、我が祖父の民俗論を合体させて「キクの語源はクク」とされた。
キクは、たくさんの小花をしめくくっている頭状花であることから、「くくる」「くくり」という言葉に通じ、「クク」と呼ばれるようになったと結論する。

どうも私は身内のことでもあり、キク日本原種説を支持したいのだが・・・。

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