昔の日記から

暇潰しネタ

昨日、今日とほとんど死んでいます。仕事は休み。土曜日から数えて5連休。こんなに続けたのは初めてじゃないかしら。
することがないから昔の本を読んでいます。祖父の日記にあった話。そのまんま書き写します。

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「熊蝉鳴く」
熊蝉は東京には居ない。僕は15の時から東京に住んで、モウやがて20年にも近かろうとして居るが、熊蝉の鳴いたことは一度もきいたことがない。
熊蝉は鎌倉、大磯には随分発生するらしいが、この蝉のホントに鳴くのは箱根以西である。遠州は特別の暖国で、浜松を中心とする西遠一帯の地は、夏になるとこの蝉の鳴声で、山が震撼されるように感ずる。
形は東京に発生する何の蝉よりも大きく、糸とり蝉(ミンミン)を少し大きくして、体を漆で染めたようなものである。著しい特色は腹部の鳴器(フンドシ)が柿の種のような色をして居ることである。
処が何うしたものか大正12年8月中、この蝉が僕のお向かいの伊東米治郎氏の庭園に来て鳴いて居るのをきいた。初めは耳を疑ったが、幾らきき直して見ても、熊蝉はヤハリ熊蝉である。
僕はオヤオヤと不思議に思った。
それからその後9月1日までにモウ一度その蝉が裏の桐の畑で鳴いて居るのをきいた。その時は子供にも知らせて、アレが熊蝉というのであると教えてやったことがある。
処がその年に9月1日の大震災があった。僕は何も熊蝉が鳴いたから地震が揺ったと考える訳ではないが、昔から大きい天変地異の起る前には、その土地で捕れたことのない魚が捕れたり、その土地に発生したことのない昆虫が発生したりしたという例を、幾らも文献の上で見て居るので、熊蝉の鳴いたことを思出していよいよ奇異に感じた。
動物には天変地異に対する不可思議な予感があるものらしく、雉が人間より早く地震の襲来を知ることは事実であり、物識りが海の蟹の夥しく陸上に這上がるのを見て津波の難を逸れたなどということは、昔からよく聞く話である。
台湾で正覚坊が海に近く産卵する時は、近々に暴風の恐れなく、海に遠い砂丘の上に産卵する時は必ず暴風の恐れありとして警戒するなど、確かに相当の理由もあり、根拠もある。之を迷信として一概に排斥する学者があったらそれは間違いきって居る。

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