ウィーン八重奏団、じゃなくてベルリン八重奏団

昨日は今年の初ミューザでした。アンサンブルシリーズの2回目、ベルリン・フィル八重奏団の公演です。
メンバーは以下の人たち。

第1ヴァイオリン/ローレンツ・ナストゥリカ
第2ヴァイオリン/ペーター・ブレム
ヴィオラ/ヴィルフリード・シュトレーレ
チェロ/クリストフ・イゲルブリンク
コントラバス/エスコ・ライネ
クラリネット/ヴェンツェル・フックス
ホルン/ラデク・バボラク
ファゴット/へニング・トローク

当初ファゴットはダニエレ・ダミアーノが予定されていましたが、止むを得ぬ事情ということでトローク氏に交替したようです。
で、演奏曲目は3曲。

①モーツァルト/ディヴェルティメント第1番K136
②シューベルト/ピアノ五重奏曲「ます」
③ベートーヴェン/七重奏曲

①と②の間に休憩が入ります。②のピアノは上原彩子。

感想は少し複雑ですが、良いコンサートでした。最初のモーツァルトは弦のメンバー5人によるもの、誰でも知っている天下の名曲。あまりの心地よさにウトウトしていました。

次は以上のメンバーから第2ヴァイオリンが抜け、ピアノがセットされて上原嬢の登場。
残念ながらこの組み合わせによるシューベルトは、正直に告白すれば退屈。最初のウトウトが心地よさが原因だったのに対し、こちらのウトウトは退屈さ故。

ズバリ言えば、ピアノの力不足ですね。音量が出てこないので、弦のアンサンブルに完全に負けているのです。ベルリンの連中もピアノを無視して弾きまくるような愚は犯しませんから、ピアノを立ててキチンとしたアンサンブルで纏める。
従って、音楽がこじんまりと固まってしまい、シューベルトのわくわく感が生まれてこないのですね。
全体としては無難に纏めた、と言えるのですが、これだけのメンバーを揃えたのに勿体無い。ピアノはミス・キャストです。

決して上原さんを否定しているのではありませんよ。彼女にはもっと相応しい「場」で力量を発揮して欲しいですね。名前だけで安易なプログラムを組むことに問題あり。演奏者の責任ではありますまい。
但し客席は湧いていました。私だけの辛辣な感想でしょうか。

ということですが、後半のベートーヴェンは凄かったですねぇ。もっともこれが目当てだったので、こちらの聴き方も半端なものではありませんでしたが・・・。
アンサンブルの見事さ。技術とか合奏の精度などを超越した、本当の意味で「カネの取れる」アンサンブルです。おっと、表現が下品になってしまいました。
これはベートーヴェンの若書きで、正に青春の1ページなのですが、その瑞々しさは現代でも昨日のことのように蘇ってきます。ミューザという理想的な環境を得て、これだけの名人に演奏されるセプテットは幸せです。誰よりもベートーヴェンが“ブラヴォ”を叫んだことでしょう。

それにしてもホルンのバボちゃん、凄い人です。彼が加わるだけでアンサンブルがレヴェルアップする。特別華やかなパッセージがある訳ではないし、それほどの難所が控えているのでもない。それでも出てくる音楽の品格の高さ、完全脱帽ですね。

アンコールがありました。ベルリン・フィル八重奏団の全メンバーが初めて勢揃いします。
第1ヴァイオリンのナストゥリカ氏のスピーチ、“これから、皆さん良くご存知の曲を演奏します”。日本語ですよ。片言というレヴェルじゃない、ペラペラという流暢さ。

で、ヴァイオリンがトレモロを始める。バボちゃんのホルンがド・ミ・ソ・ソー。そこですかさず拍手が起きます。川崎の聴衆も大人ですねぇ。バボ氏、それに応えてホルンをかざして答礼。間髪を入れず、ナストゥリカ氏の“あけまして、おめでとうございます”。割れんばかりの大拍手。そして水を打ったような静寂。
序奏が終わり、最初のワルツが始まると、客席から軽いどよめきが起きます。どうしてでしょ。そう、正にウインナ・ワルツ。ベルリンのワルツ。

ウィーンのニューイヤーコンサートなどの解説で、ウィーンの3拍子は他と違って云々、ウィーンフィルにしか出来ないのです、などと言って実演して見せる人もいますが、あれはウソです。ワルツはウィーンの専売ではなく、世界標準ですよ。ベルリンだってトーキョーだってウインナ・ワルツはウインナ・ワルツ。
このどよめきはね、そのことの証明なんです。この「美しく青きドナウ」はオクテット版ですが、ワルツはシュトラウス存命中から様々なアンサンブルにアレンジして楽しまれてきたのです。ウィーン・フィルだけが権威ではない。

最後はメンバー一人一人が客席に手を振り、客席もそれに大歓声で応える。舞台と客席の素晴らしい交流がありました。
お陰でまた気分はお正月モードに戻ってしまいました、とさ。

 

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