申年生まれの大作曲家

毎年恒例、正月3日は干支に因んだ作曲家考察です。何年か前はネットで「猿に因んだ音楽」などというネタで盛り上がっていましたが、今や懐かしい時代になってしまいました。
さて「猿」と言えばダーヴィンの進化論で「人は猿から進化した」という説が発表され、当時は相当な嫌悪感で迎えられたようです。今でも猿から進化したのではないかと言う人種もいて、人をゴリラ型、チンパンジー型、オランウータン型に分類することも流行りましたね。

申年と言えば「頭が良く器用」、「好奇心旺盛で行動が素早い」、「器用な分、持久力に欠ける」、「金に聡い」などという性格が定番なようです。
一方で犬猿の仲という言い回しがありますが、申年の人と戌年の人は寧ろ相性は良いようで、その辺りを頭に置いて申年生まれの大作曲家を拾っていきましょうか。

ルネサンス期の作曲家に付いては詳しくないし、その性格や業績までは判らないのでバロック時代からスタートするとして、最初に登場するのが申年の典型とも言うべき1632年生まれのリュリでしょう。フランス・バロック御三家の最年長ですが、元々はイタリア出身。器用にギターなどを弾いていたのが認められてトントン拍子に出世し、ルイ14世の絶大な信頼を勝ち取りました。副業に不動産屋を営み、莫大な遺産を残した辺り、金運を見方に付けた申年ならではの生涯だったでしょう。
リュリの36年後、1668年にはフランス御三家の二人目、フランソワ・クープラン(大クープラン)が登場します。バッハ家にも比較される大音楽家家系の最高峰で、バッハ家のヨハン・セバスチャンに相当する人。彼もルイ14世に仕え、音楽的遺産は膨大なもの。それにしてもリュリとクープランが同じ申年というのは奇縁と言わざるを得ません。因みに三大巨人のもう一人であるラモーは1683年生まれですから、亥年の巡り合わせになります。

時代は遷り、バロック期から前期古典派の時代になると、先ずは1692年生まれのタルティーニが登場します。法律を学びながらフェンシングの名手としても鳴らし、いつの間にかヴァイオリンの鬼才になっていたという辺りは好奇心にあふれて器用だという申年を絵に描いたような人物。有名な「悪魔のトリル」でも聴いて彼を偲びたいところですが、その肖像画を見ると、何となく猿に似ていなくもない・・・。
1740年生まれのパイジェルロは獣医の息子だったそうで、ナポリでブレイク。ところがナポリの革命で共和政府の側に付いたため、王政復古に際して失脚。晩年は愛妻にも先立たれ、失意の裡に亡くなったと言いますから、金運に見放された申年生まれということになりそう。

次の申年、1752年に生まれたクレメンティはローマ生まれの天才児で、モーツァルトと弾き比べを行ったことでも有名でしょう。モーツァルトはクレメンティを“器用なだけだ”と余り良く言っていませんが、ライヴァル心も多分にあったようですね。楽器製造、楽器商、楽譜出版と活動も多彩で、これまた申年丸出しのマルチ・タレント。遺体はウェストミンスター・アベイに葬られたと言いますから、申年の出世頭かもしれませんね。
クレメンティのあと暫く申年から大作曲家は出ていませんが、1776年生まれのE・T・A・ホフマンに触れておきましょう。この人は作曲家と言うより音楽評論や音楽小説の分野で有名で、シューマン、オッフェンバックや、今年が生誕150年に当たるブゾーニ等の作品の題材になったことで音楽史に貢献しています。法律の分野では判事を務めたり、同時に指揮者でもあった当たり、やはり器用な人だったのでしょう。一時は画家を目指したこともあるそうな。

ロマン派の時代に入ると、申年にも多彩な作曲家が増えてきます。1812年のフロトウ、1824年にはブルックナーとスメタナ、1836年がドリーブ、1848年デュパルクと続き、1860年生まれではマーラー、ヴォルフ、アルベニス、シャルパンティエなど錚々たるメンバー。
こうしてみると、ブルックナーとマーラーが同じ申年と言うのが奇縁でしょう。二人の歳の差が36年と言うのも、リュリとクープランの関係に匹敵するでしょうか。二人の性格や業績については改めて書くまでもありませんが、全体的に見れば、器用なタイプとは言い難いブルックナーよりは、指揮者としても活躍したマーラーの方が申年生まれらしい人物だったと言えるのじゃないでしょうか。

些か草臥れてきましたから後はザッと紹介すると、1872年生まれにはスクリャービン、ヴォーン=ウイリアムズ、アルヴェーンが、2回り後の1908年にはメシアンとカーターが出ていることを報じて、この稿を閉じることにします。

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