「ドクター・アトミック」を見る
一昨日の土曜日から、メット・ライヴ・ビューイング2008-2008の第2回目がスタートしています。
土曜日はエクセルシオの試演会に集中するためパス、日曜日は名古屋遠征中でしたので、今日ようやくラゾーナ内の109シネマズで見てきました。今回はシアター9。
家内は現代物なので乗り気なし。私一人で観戦しましたが、平日の昼間から現代オペラなどに足を運ぶ人はほとんどなし。何と入場者は私を含めて6人でした。
プログラムに載っている内容は、
アダムス/歌劇「ドクター・アトミック」(MET初演)
オッペンハイマー博士/ジェラルド・フィンリー
キティ・オッペンハイマー/サーシャ・クック
パスクワリータ/メレディス・アーワディ
エドワード・テラー/リチャード・ポール・フィンク
ロバート・ウィルソン/トーマス・グレン
グローヴズ将軍/エリック・オーエンズ
アーリー・パトリアルコ/フランク・ハッバード
ノーラン大尉/ロジャー・ハニーウェル
指揮/アラン・ギルバート
演出/ペニー・ウールコック
こういうものに感想を書くのは難しいですね。特に原爆開発と実験がテーマの作品、日本人としては“うーむ”と唸るばかりでした。
全体は2幕で出来ています。例によって幕間のインタヴューは、司会がソプラノのスーザン・グラハム、質問を受けたのは主役のジェラルド・フィンリーと作曲家のジョン・アダムス。
インタヴューの他に、原爆を開発したロバート・オッペンハイマーに関するドキュメントも流されます。これは見もの。
(何ヶ月か前、NHKでもオペラ制作のドキュメントを放送していましたし、その時にもオッペンハイマー博士に関する様々な情報が紹介されていましたっけ)
今回のプロダクションは、初演以来使用されてきたピーター・セラーズの演出ではなく、新たにメットとコヴェントガーデンのために制作された新演出。アルゼンチン出身の女流映画監督、ペニー・ウィルコックのもので、彼女は今回がメット・デビューだそうです。
私はセラーズ演出を見ていないので何も言えませんが、やはり映画的な手法が使われているのでしょうね。実験用の原爆もホンモノそっくりに作られていました。
オペラの台詞は、政治的な記録文書(ドキュメンツ)や、オッペンハイマー博士が愛読したボードレール、ジョン・ダン、バガヴァッド・ギーターの詩をセラーズが選択して構築したものだそうです。
第1幕最後のオッペンハイマーのアリアは、ジョン・ダンの詩が用いられている由。
実際のオッペンハイマー博士は極めて教養の高かった人。ギーターの詩もサンスクリット語で愛読していた、ということがドキュメントで紹介されていました。
原爆実験の成功と広島への投下は、ギーターの言葉「我は死なり、世界の破壊者なり」なのですね。
オペラに仕立てられた「原爆博士」。メットが取り上げるだけのことはあって、大作オペラに仕上がっていると思いました。
先のアリアも、アリアとしての構成も伝統的だし、メロディーも美しいものです。
圧巻は最後の場面、原爆実験のカウントダウンでしょうか。思わず姿勢を正して見てしまったほど、緊迫感があります。
メットの観衆の拍手が一番大きかったのは、やはり作曲家ジョン・アダムスに対してでした。
日本では未だ上演されていないと思いますが、仮にナマで劇場体験できたとして、終了して直ぐに拍手をする気になるでしょうか。何しろオペラが終わり、紗幕が下りてから、“水をください”という日本人少女のナレーションが流れるんですから・・・。
多分、日本では複雑な反応になるでしょう。
その時のために、予備知識としてオペラを知っておくには絶好の機会だと思います。
尚、上演は休憩を入れてタップリ3時間半かかります。あと4日間の上映予定。
アダムスのオペラといえば、東京交響楽団が「フラワリング・トゥリー」を日本初演しますが、アダムスさんは来日するんでしょうか。
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