紀尾井シンフォニエッタ東京・第62回定期

昨夜の紀尾井ホール、紀尾井シンフォニエッタの定期を聴いてきました。ホール前には、本日はチケット完売です、という貼紙。土曜日の公演も早くから完売だそうで、この室内オーケストラは人気があるんですねぇ。
ホールで知人M君に遭遇しましたが、彼もまたキャンセル待ちでやっと入れた由。
客層も他のオーケストラとは大分雰囲気が違います。日銀総裁F井ご夫妻、ノーベル賞受賞のK柴教授など、私のような平々凡々たる一庶民には場違いな感じもあります。
演目は素晴らしい選曲。

紀尾井シンフォニエッタ東京 第62回定期演奏会
ハイドン/交響曲第60番 ハ長調「うかつ者」
モーツァルト/ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K466
~休憩~
バルトーク/弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽
指揮/広上淳一
ピアノ/伊藤恵
コンサートマスター/澤和樹

ハイドンとバルトークというのは、ハンガリー繋がりもあって、良いプログラミングです。共に同時代では最先端の「現代音楽」。
広上が紀尾井シンフォニエッタを振るのは4年振り、2度目。私もKSTを聴くのは4年振り、2度目。広上追っ駆けとしては当然の帰結ですな。

前回もハイドンがありましたね。今回は60番、これをマエストロで聴くのは神奈川フィル定期に続いて2度目です。他のモーツァルトもバルトークも広上では初めてで、期待はかなり高いものがありました。

素晴らしかったのは、やはりバルトーク。弦チェレは、フル・オーケストラの演奏を大ホールで聴くことが多いのですが、いかに演奏が優れていても、完全には満足できません。それが今回は全てが理想的。広上のタクトもいつになく冴え、要所をキチンと締め、音楽を内側から燃え立たせるスタイルがバルトークにピッタリ。息もつかせぬ名演が達成されていました。
オケの配置はほぼバルトークの指示どおり。ヴァイオリンの後にヴィオラが配置されているので、冒頭の第1・第2ヴィオラによる出だしのピアニシモがホール両翼から微妙に響き、どこから音が出てくるのか分からない感覚。

私の席が1階7列13番という、ほぼ中央ということもあって、この曲にはベストの条件でした。
大ホールでは聴き難いチェレスタも、ここではハッキリと分離し、一音一音が粒だって聴こえてきます。シンバルの摺り合わせ、小太鼓におけるコルダの使い分け、ハープのグリッサンドや sf のアクセントなど、まるでスコアを見ているよう。
そして何と言ってもティンパニ。今日は読売日響を退団した菅原淳。彼の妙技を聴けるだけで聴きに来た甲斐があります。実際、演奏後のカーテンコールで、菅原には一際大きい拍手が贈られていました。

広上のバルトーク、いつもの通りの正攻法ですが、最後に大仕掛けが用意されていました。あの大見得は、ウッカリすると芝居過多になる危険もありますが、そこは彼の卓越したセンス。してやったり、でしょうねぇ。

最初のハイドン。今、広上以上にハイドンを振れる指揮者がいるでしょうか。特に第4楽章や第6楽章のプレストの見事なこと。本物のブリオがあり、それを曳き出す棒のテクニック、いつも以上に体を大きく使い、見ているだけでハイドンの筆致と機知が目に見える様。(今回は指揮棒を使わず、全曲棒なしで指揮しました)
例の「うすのろ」の場面。今回は大人しかったですね。調弦が外れたあと、マエストロが緑のハンカチを取り出して顔・頭を拭いて困惑。特に頭のテッペンを頻りに擦って会場の笑いを誘います。徐にコンマスが立ち上がってチューニングのやり直し。
松本ではどうやったのか知りませんが、神奈川フィルでは大混乱。指揮者とコンマスが楽譜を指差して論争するわ、メンバー同士も大喧嘩、コントラバスが弓を振り上げて指揮台に詰め寄る、なんてパントマイムやってましたっけ。

紀尾井シンフォニエッタ、流石に格調高い奏者たちなんでしょう。小混乱に収めていました。だからと言って神奈川フィルが格調高くない、という意味じゃありませんよ。
ハイドンではバロック・ティンパニを使っていましたが、モーツァルトでも同じ。菅原氏が舞台転換の間にチューニングを済ませて涼しい顔をしてます。さすがに大ヴェテラン、ねじ締めテクニックも長年の経験なんでしょう、と感心。

伊藤のモーツァルトは、明らかにオケに引っ張られてました。前回聴いたブラームスではテンポにもたれる場面もあったのですが、今日はよくオーケストラに乗っていました。もう少し音楽に陰影を望みたいところですが・・・。
広上の協奏曲も定評あるところ。二短調協奏曲では、何と言っても最初のシンコペーションの切迫感が素晴らしかったですね。決して曖昧に音をぼかさない。
伊藤が弾いたカデンツァ。チョッと耳慣れないものでしたが、誰のカデンツァでしょうか。

全曲が終わって、ソリストは頻りに指揮者を立てようとします。しかしマエストロはあくまでもソリストを称える。主役がオーケストラだったことは、ソリストも良く判っているんでしょう。いつもの彼女の協奏曲での応対とは明らかに違っていました。
広上と共演したソリストは、ほとんどの場合に指揮者を立てようとしますね。演奏者には、このバックがいかに素晴らしいか解るものなんです。先週のベートーヴェン・トリプルの3人も同じでしたし。
コンマスがアンコールを促していましたが、伊藤恵はそれには応ぜず、あくまでも“今日は指揮者に乗せてもらったんですから”、という姿勢に徹してました。

それにしてもこのオケ、フルートは読響の一戸、オーボエが都響の広田、ホルンにN響の樋口でしょ。他にもニュージーランドに移籍した池松、日本フィルの菊地とパーカッションの遠藤、ティンパニの菅原にヴィオラの菅沼。見ていると、これは一体どこのオケかと、不思議な感じがしますね。
帰りは赤坂ホテル群の様々なクリスマス・イリュミネーションを眺めながら、溜池山王まで夜の散歩。清水谷も慎ましくライト・アップしてました。

 

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