日本フィル・第596回定期演奏会

日本フィルの定期演奏会に出掛けました。土曜日のシリーズは原則として午後2時開演なのですが、今日は6時開演。オーケストラとしては、本来はこの時間が希望なのだそうですが、土曜マチネーはあくまでもサントリーホール側の都合とのこと。貸す側と借りる側の事情、いろいろあるでしょうが、より良い演奏を実現させるには、演奏と演奏の間に出来るだけ時間を空けた方が有利なのは事実。特に今回のように歌手に大きな負担がかかる場合、譲れることは譲って欲しいと思います。
変な前置きになりましたが、曲目は以下のもの。

日本フィルハーモニー交響楽団第596回東京定期演奏会
《オール・ワーグナー・プログラム》
ワーグナー/歌劇「タンホイザー」序曲
ワーグナー/楽劇「トリスタンとイゾルデ」前奏曲と愛の死
~休憩~
ワーグナー/楽劇「ワルキューレ」ワルキューレの騎行
ワーグナー/楽劇「ワルキューレ」魔の炎の音楽
ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」夜明けとジークフリートのラインへの旅
ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」ジークフリートの葬送行進曲
ワーグナー/楽劇「神々の黄昏」ブリュンヒルデの自己犠牲と終曲
指揮/飯守泰次郎
ソプラノ/緑川まり
コンサートマスター/木野雅之
フォアシュピーラー/江口有香

ソプラノが入るのは、イゾルデの愛の死と、ブリュンヒルデの自己犠牲。緑川さんは久し振りのような気がします。一時期、ワーグナー歌いとして出ずっぱり、飯守マエストロとの二人三脚で我が国ワーグナー界を引っ張ってこられました。
確かに声は全盛期の張りに及ばなかったものの、そのテクニック、歌詞を完全に理解した上での表現力の高さ。改めて感服しました。
特にイゾルデの愛の死が素晴らしかった。声と言葉のコントロールの技、これに情感を思い切り載せて行く歌唱は、まさにアート・オブ・シンギング。もし日本に「功労芸術家賞」のような制度があるなら、まず彼女にこそこのタイトルを捧げるべきだ、と思います。
本来ならスタンディング・オヴェーションものの歌唱。声の迫力に対してではなく、歌唱芸術に対する貢献度の高さ・深さに対してです。

同じことは飯守泰次郎についても言えること。彼のワーグナーには筋金がドーンと通っています。最近のポット出ワーグナー指揮者の貧弱な解釈と比べて欲しい。
飯守/ワーグナーは、音楽がぎゅうぎゅうと詰まり、どんな弱音にも大音量に勝る密度の濃さが感じられるではありませんか。
私はもう最初のタンホイザー、クラリネット+ファゴット+ホルンの「信仰」が鳴ったとたんに胸が一杯になり、言葉を失ってしまいました。
次々に繰り出されるワーグナーの世界。そこはもう、現世を離れ、遠く神話の世界、中世騎士道の世界に彷徨う想いでしたね。

日本フィルも好調。11月から新たに加わった江口コンマスをフォアシュピーラーに添えるスタイルが定着しているようです。木野コンマスとのタンホイザーにおけるデュオ、まるで一挺のヴァイオリンから奏でられるが如く、音色が和していました。
ホルン軍も特筆すべきでしょう。事前のポッドキャストによる放送では、ジークフリートのホルンは福川が担当のようにも聞いていましたが、実際は他の方。名前は存じ上げませんが、一旦舞台裏に下がって吹くホルン、見事なものでした。
福川くんは主にワーグナー・チューバ軍を取りまとめ、ワーグナーの深々とした「森の音」を響かせます。日本フィルのホルン軍団は日本のオケでも有数の合奏隊。充実してます。

日本フィルとワーグナー、というのは、これまであまり縁がありませんでした。ワーグナーという名前を聞いて日本フィルを連想する人はほとんどいないでしょう。
しかし当夜の演奏を聴けば、これからももっともっと飯守氏に登場して頂き、是非ともワーグナーを、出来れば演奏会形式か、願わくばピットに入っての楽劇上演を実現させて欲しいもの。
日本音楽界は、この偉大なワーグナー指揮者に更なる「活躍の場」を与えるべきではないでしょうか。この後、二期会のワルキューレ、シティフィルとのトリスタン全曲が控えているとは言え。

 

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