N響・第9の放送
先日、NHKハイビジョンでN響の今年の第9が放送されました。簡単に見たまま、聴いたまま。
今年の指揮者はドイツの巨匠、クルト・マズアです。マズアは1927年、シレジアの生まれですから今年82歳。久し振りに指揮姿を見ましたが、やはり歳を取ったなぁ、という感想です。
前回は東京芸大で若手指揮者を指導するという名目で、自らも芸大オケを振って見せたのを聴きましたが、マエストロが指揮台に立つだけでオケの音色が一変。さすが、と思わせたものでした。
マズアは確か大和撫子を娶った方で、読響の名誉指揮者に名前を連ねています。未だ颯爽としていた頃に読響で何度かナマに接しました。その当時の読響は、言葉は憚られますが下手糞で、現在のレヴェルとは比較になりません。折角称号があるのですから、元気なうちに読響の指揮台にも復帰してもらえないでしょうかね。
“来ると拙いわ” などと悪口を言われたこともありますが、ドイツの伝統を受け継ぐ巨匠とドイツ正統派音楽には滅法強いN響。ズシンと響くベートーヴェンを聴かせてくれたようです。
放送されたのは12月22日、NHKホールでの収録。N響の第9はこの日が初日で、このあと23・25・26日と4回の公演が行われています。
(私がN響の第9をナマで聴いたのは、遥か昔のカイルベルト初来日の時。その頃とはオケ団員もホールも替っていますから、殆ど未知の世界でもあります)
放送ですから演奏の内容については観戦した事実のみに留めます。
ソリストは、ソプラノ/安藤赴美子、アルト/手嶋眞佐子、テノール/福井敬、バリトン/福島明也。合唱は国立音楽大学と東京少年少女合唱隊というもの。
ここで“おや?” と思うのは、子供の合唱が加わることでしょう。ベートーヴェンはそんな要求はしていないし、私の数少ない経験でも子供の合唱が加わったのは初めて見ました。
恐らくソプラノのパートをなぞったのではないかと思いますが、放送で聴いている限りでは敢えて追加した理由も効果も確認できませんでした。
マズア爺さんに質問してみたいところですが、チョッと首を傾げているところ。
その他、気が付いたことを列記すると。
使用楽譜は旧来のブライトコプフ版。
弦の配置はアメリカ型で、ヴィオラが最右翼。普通に16型だったようです。
木管楽器のみ3管に増員。ただしフルートはオリジナル通り2本で、第3奏者は終楽章のピッコロだけ。第3ファゴットは終楽章のコントラ・ファゴット担当ですが、その前の楽章では3番ファゴットとして機能させていました。オーボエ、クラリネットは重ねるだけではなく、2番と3番だけで演奏している場面も写っていましたから、アシスタントとしての役割も兼ねていたよう。
金管ではホルンのみアシスタント一人追加。
第3楽章のホルン・ソロは、どうやら3番奏者が吹いたようです。カメラの関係でハッキリしませんが、83小節から続く4番パートは4番が吹き、ソロの個所だけ3番が担当した可能性もあります。
(これはテレビだから確認できることで、ナマでは席によっては全く見えません。今年ナマで聴いた日本フィルも読響も誰が吹いたかは不明。ベートーヴェンのオリジナルは4番奏者ですが、現代では4番でなければならない理由は消滅しています)
合唱は最初から入場していますが、ソリストは第2楽章と第3楽章の間で入場。当然ながらここで拍手が入ります。
第2楽章主部の繰り返しは前半のみ。つまり主部の後半のリピートは省略。
第2楽章主部をソナタ形式と見れば、第2主題に相当する木管の旋律にホルンを重ねていました。第4楽章冒頭のファンファーレでもトランペットに慣習的な変更を加えていたようです。
同じく第2楽章主部で3拍子に替るところ、ティンパ二のソロが5連発ありますが、ここを3発目からディミニュエンドさせたのは新機軸。何か根拠があるのでしょう。
終楽章の要所で一呼吸置くのは伝統的なスタイル。先日聴いたヴァンスカが楽譜通りにそのまま続けたのとは好対照。
ということで、伝統的な演奏慣習に従いつつも、マズアならではの新解釈も所々に散りばめられた演奏でした。
プログラムはベートーヴェンの第9交響曲一曲だけ。
第9に限りませんが、音楽はナマで聴いてこそのもの。今回の放送でも実感しました。
最近のコメント