古典四重奏団試演会

今秋発足した古典倶楽部、その会員限定となる試演会に参加してきました。参加と言っても無料のコンサート、本公演直前の通しリハーサルで、演奏者も私服での簡略形式です。

私は当倶楽部発足を先日晴海でのショスタコーヴィチ・ツィクルスのチラシで見つけ、即座に入会しました。尊敬する古典四重奏団、定期的に発行予定のレターや試演会招待の特典もあります。

その試演会は今回が2回目。記念すべき第1回は12月15日(バルトーク1番とベートーヴェン14番)に行われたようですが、不覚にも見落としていました。
で、今回は大晦日に行われるベートーヴェン「9曲」演奏会の通しリハーサル。古典が担当する後期も最後の3曲である14番・15番・16番が演奏されます。

会場は四谷から徒歩8分の絵本塾ホール。なにそれ、と感ずる方も多いと思いますが、かつてコア石響と呼ばれていたスタジオ。私も一度、日本フィル・新井氏の茶話会でお邪魔したことがあり、その時はボロディンの2番を聴いたことを思い出します。
時に響き過ぎるほどに残響豊かなスタジオで、室内楽のリハーサルやサロン・コンサート会場としても貴重なスペースです。

普通は四谷から歩くのですが、私はサラリーマン時代の散歩コースでもあり、懐かしく赤坂見附で地下鉄を乗り捨て、紀の国坂を登りつめ、迎賓館前を突っ切り、学習院初等科を回り込んで現地入りします。
相変わらず四谷から吹き付ける風の冷たかったこと。

旧石響に着くと、先着は4~5名ほど。特に受付などは無く、三々五々階段を下りて地下(この辺は丘陵地なので、入口が2階と見做してもよろしいか)のホールに入ります。
既に田崎氏以下メンバーが思い思いに楽器を弾いたり、譜面と睨めっこをしながら考え込んだりしています。

集まったのは古典倶楽部の会員と、石響倶楽部のメンバー若干。加えて松明堂関係も数人という構成。パイプ椅子は20数脚が用意されていました。

特に司会進行などは無く、ほぼ全員が集まったと思われるタイミングでチェロの田崎氏が出欠を確認した上で開会宣言。といっても大袈裟なもんじゃありません。“では始めます” みたいな感じ。
プログラムなどは一切ないので、冒頭に第1ヴァイオリンの川原氏から3曲についての簡単な解説と聴きどころが紹介されます。

後は一気です。
各曲の間に5分ほどの休憩を置いただけで、ハードな3曲がぶっ続けで演奏されました。

この小さな空間で間近に聴くクァルテットの楽しさ、いや凄さと言うべきでしょうか。普段ホールで聴く室内楽は出来あがった料理を美味しく頂くようなもので、試演会でのそれは正に料理の現場。
材料の選択から仕込みの過程、調味料の塩梅から火の通し具合などを眼前に見る思いでした。

迫力はホールとは比較にならず、たとえヴァイオリン1本でもサロンの空気は辺りを揺るがすよう。
室内楽ファンなら一度はこういう空間で真のプロフェッショナルに接すべきだし、知ってしまえば病みつきになることは必至です。

それにしてもベートーヴェンは凄い!!! この人は人間を超越した存在であり、もしベートーヴェンがいなかったらクラシック音楽とは現在あるものとは相当に違った姿になっていた、と考えざるを得ません。
特に14番の第7部、15番の第3楽章、16番の第3楽章。

後の2曲では田崎チェロがシャツの袖をたくしあげて弾く迫力!

試演会が終了した後は特に懇親会などがあるわけではなく、“それでは皆様、お気を付けてお帰り下さい” という田崎氏の一言でお開き。銘々が椅子を片付けて解散となります。

田崎氏によれば、“試演会は、長時間に亘って緊張力を維持することの訓練も目的” とのこと。次回は来年2月頃の予定で、以後は月に1回のペースで開催して行く計画の由。
希望者が多ければ抽選になりますから、倶楽部の存在が余り知られない内に、出来るだけ数多く参加できることを期待しちゃいましょう。

隠れ郷におけるヒッソリとした楽しみ。知る人ぞ知る黄金の一刻でもありました。

 

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