33年4ヶ月ぶりの海外旅行(2)

8月13日(土)

ロンドン二日目は、家内のプランでバス・ツアーに参加。イングランド南部のリーズ城、カンタベリー・キャッスル、ドーヴァーを一日で回ります。天候は、朝は雨で肌寒かったものの、バスに乗っているうちに陽が射してきて気温も20度を超えてきました。こちらの感覚では暑いのでしょう。

ロンドンを拠点とするバス観光会社は大手が3社あるらしく、この日はエヴァンエヴァンス社 EvanEvans 社。真っ赤な色のバスで、二階建てじゃありません。ツアーのスタートは「ヴィクトリア・コーチ・ステーション」、最寄駅が地下鉄のヴィクトリア駅ということで、グリーン・パークからヴィクトリア・ラインで一駅のヴィクトリアへ。
地下鉄の出口を上がると、目の前は国鉄のヴィクトリア駅。バスの発着所はバッキンガム・パレス・ロード沿いにあると案内には書いてありますが、33年ぶりのロンドンでは西も東も判りません。地図を引っ張り出してウロウロしていると、中年の英国紳士が近付いてきました。
“ヴィクトリア・コーチ・ステーションに行くんですね。私は昔エヴァンスエヴァンスに勤めていて、あなたの見ている書類のマークを見て懐かしく思って話しかけました。” これ、日本語で言われたのです。
“ここは国鉄のヴィクトリアです。ヴィクトリア・コーチ・ステーションは、あそこに見える交差点を左に曲がるとバッキンガム・パレス・ロード。それを真っ直ぐ500メートル行くと右手に見える大きな建物です。すっごく判り易いですよ”。

ロンドンではよく経験することですが、困っている人を見つけると助け船を出してくれる人がいつか現れるものです。結構日本語が話せる人も多い。
お蔭でバス・ステーションに何とか到着、出発時刻とツアー番号を支持され、言われた待合場所でボーッとしていると、再び英国紳士の登場。
“22番ツアーですね” 。これも日本語。一応日本語ガイド付きというツアーでしたから、誰か日本語の判るガイドが来るだろうとは思っていましたが、まさか英国紳士とは予想していませんでした。目を白黒させていると、“日本語判りますか?” “ええ、少しなら”と答えたらニヤッと笑って、“わたしエドワードです。よろしく” ということでバス・ツアーは午前9時にスタートしました。

ツアーに乗ったのは20名くらいでしたか。日本人は数組、あとはスペイン語を話す人たちが多かったですね。聞くとアルゼンチンから来たとか。
で、エドワード(以下エド)は英語と日本語で同じことを喋りつづけます。アルゼンチンの連中とはスペイン語でペラペラやっていました。海外には、こういうマルチ言語人間のプロが何人もいて、島国育ちの私は圧倒されてしまいます。尤も英国だって島国ですから、何か持って生まれた資質が違うんでしょうね。

ということで、このツアーは実に楽しかった。いわゆる「当たり」ですね。エドはやたらに歴史にも詳しく、自国だけじゃなくて日本の歴史にも造詣が深いみたい。“丁度日本に仏教が伝わったのと同じ頃の出来事ですよ”なんて解説してくれる。
またエドのユーモアもなかなかのもの。
“今のイングランドはアングロサクソンですが、昔はローマ人が支配していました。それからカソリックの勢力が絶大になり、それをヘンリー8世が叩き壊して近代英国が始まったんですよ” と興味を掻き立てておいて、
“ローマ人はアーチ形を発明しました。これが強度を増強させたのですね。もっと強い三角形はイスラムの発明です。” ドーヴァーに入る手前、“昔のローマ人はここで良く食事をしたんですよ。彼らが発明したアーチが見えるでしょ” ひょいと見ると、マクドナルド。全てこんな調子です。

カンタベリーの13世紀の建築は、“実は僕のアイデアでね” とか、先のロイヤル・ウェディングの話題でも、“僕も招待されていたんですよ。但しエリザベス女王に、ですけどね”。
ドーヴァーの海峡トンネルの難工事については、“随分昔から計画があったんですが、海峡の向う側の連中と考えが違って中々纏まらなかったんです。えーとオランダ、じゃなくてベルギー。いやいやそうじゃない、何とかいう国の人たちですよ” と「フランス」という言葉は絶対に口にしない。典型的な英国人のユーモアでしょ。

行った先々については簡単に。

リーズ城はヘンリー8世の夫人たちが暮らした城。中をエドがガイドしてくれます。他にも英国庭園や鳥の動物園も隣接していて、とてもツアーでサッと回っただけでは見切れるものじゃありません。
実際、ここに宿泊するツアーもあるそうで、花火大会があったり、ロイヤル・フィルが出演する音楽祭も行われます。エドが一緒ならまた来てもいいかな。ゴルフ好きには小さなコースも用意されているみたい。

カンタベリーは、言わずと知れた世界遺産。ここではランチタイムも設定されていました。薦められたレストランに入りましたが、メニューはミートパイかフィッシュ・アンド・チップス。私は初めて後者を口にしましたが、二度目はノー・サンキューですね。
カンタベリー大聖堂に入ると、日本人ガイド(初老の女性)がツカツカと近付いてきました。聞けば日本人ではあるけれど、英国籍なのだとか。ヴォランティアで日本人向けにガイドをしている由。とにかく丁寧に案内してくれる方で、時間があればいつまでも説明してくれそう。お蔭で個人旅行では知りえないような知識をたくさんゲットできました。
この日は土曜日、堂内で翌日行われる礼拝のリハーサルをしていました。暫く聴いていましたが、オルガンの壮大な響きと重厚な合唱は日本ではほとんど味わえない音響。英国音楽の基礎が、石造りの空間に響く合唱に存することに改めて想いを致した次第。ガイド氏によればリハーサルに遭遇する機会は稀とのことで、ラッキーでした。日頃の行いが良いからでしょう。

ドーヴァーは全体に白っぽい印象。それもそのはずで、土壌がいわゆるチョークなのだとか。それにしても皆、海が好きですね。エドに言わせれば、“今日は泳いで海峡を往復しましょう。ディナーには間に合いますよ” ってな具合。エドは、ツアー参加者の写真撮影を手伝っていました。我々もスナップを一枚。

ドーヴァーからはロンドンに直行で帰着。高速道路をブッ飛ばすのですが、イギリスの高速道路は無料。どこで一般道路に出たのかはよく判りませんね。
また今回の運転手は若い黒人女性。これがまた凄いプロで、道中ずっとエドとジェスチャーを交えながら会話しているんですが、その運転テクニックには唖然とします。当然ながら、ツアーの終わりにこころずけ(チップ)を出しますねェ~、と言っても1ポンドですけど。

バスがヴィクトリア・ステーションに着いたのは午後5時過ぎ。当然ながら未だ明るいので、ホテルまで歩いて帰ることに。
最初に通ったバッキンガム・パレス・ロードを逆方向、つまり北に向かえば直ぐにバッキンガム・パレスにぶつかります。後は北面したグリーン・パークを突っ切れば、ホテルはすぐそこ。
土曜の明るい夕方、ロンドン子も観光客も、薄気味悪いぐらいに人に慣れたリスと戯れる光景が広がってしました。

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