感動的なティペットのオラトリオ

明日から3日間は東京を離れますので、8月1日のプロムスも書いておきます。残りは帰宅してから聴き直すとして・・・。

≪Prom 25≫
アイヴス/答えのない質問
バーバー/弦楽のためのアダージョ
ツィンマーマン/ トランペット協奏曲「だれも知らない私の悩み」
     ~休憩~
ティペット/オラトリオ「われらの時代の子」
 管弦楽/BBC交響楽団
 指揮/デヴィッド・ロバートソン
 トランペット/ホーカン・ハーデンベルガー
 ソプラノ/サリー・マシューズ
 メゾ・ソプラノ/セーラ・コナリー
 テノール/ポール・グローヴス
 バス・バリトン/ジュビラント・サイクス
 合唱/BBCプロムス・ユース合唱団

これは厳しいコンサートですね。とても夏のフェスティヴァルとは思えない選曲。それでも厳粛に襟を正して聴くコンサートがあって当然でしょう。世界情勢は厳しいのですから。

演奏される4曲は、どれも人類の倫理観に疑問を投げかけるような内容になっています。それでも最後は感動で満たされるのが、音楽の素晴らしい所。それが体験できる一夜です。ナマで聴ければどれだけ良かったか。

最初のアイヴスとバーバーは続けて演奏されました。恰も一曲のように。
アイヴスは様々な楽器で演奏できるように指示していますが、ロバートソンはオリジナル通り、弦にフルート4本、遠方からの問いかけにはトランペットを使っていました。

バーバーは、例の9・11の直後にプロムスでも演奏されて以来の登場だそうです。その時アルバートホールに脚を運んだ人は、当時のことを思い出さずにはいられなかったでしょう。

3曲目、ベルント・アロイス・ツィンマーマンのトランペット協奏曲は、トランペット・ソロと小編成オケの他にジャズ・アンサンブルを使うもので、私もかなり以前に紀尾井シンフォニエッタ(だったかな)で聴いた記憶があります。
今回はそれ以来の体験。編成に惑わされますが、かなりシビアな作品です。

圧巻は最後のティペットでしょう。私はナマで聴いたことが無いのですが、何故日本で演奏されないのでしょう。これを取り上げない音楽界はかなり異常だと思うのですが、どうでしょうか。
全体は3部分、30曲で構成されていますが、現代版受難曲だと勝手に思っています。久し振りにスコアを引っ張り出して聴きましたが、譜面の助けを借りなくとも、これがティペット渾身の大傑作であることが判ります。これ、生涯に一度は聴かなきゃ恥ですよ。
ホ短調で始まり、ホ長調に終わる。全部でスピリチュアルが5曲鏤められていますが、これがどれも素晴らしいのです。3部は全てこのスピリチュアルで閉じられ、特に最後の「深い河」は感動的。最後が不完全終止というのでしょうか、「Lord」という言葉が何かを問いかけるようにフェルマータで伸ばされ、静寂の内に消えていく。

合唱団は、今回新しく組織された若者によるアンサンブルで、これが初めての公開演奏の由。4人のソリストと共に素晴らしい歌唱を披露してくれました。
実際に現地で聴いていたら、涙無しには聴き通せなかったでしょうね。真に奥の深いコンサートでした。

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