命日

今日は親爺の命日である。本来なら休暇にして御霊を供養すべきなのだが、いろいろ会社に用事があって外せない。花を活けて供養しよう。年忌でいえば、18回忌だ。

親爺の名前は「止戈雄」。これで「たけお」と読む。武士の「武」を分解したのである。止は文字通り止める、戈は「ほこ」であるから、戈を止める、即ち戦争を止めるという意味だ。

まともに読める人は、まずいない。「とめお」と読む人はいいほうで、なんと読むのですか、と大概の人は降参する。一人「しけお」と読んだ人がいて感心した。この字は本来は「しけ」と読むのが正しいからだ。しかし祖父は字の本来の意味を重んじて「たけ」と読ませたのである。

親爺は大正3年(1914年)の生まれ、ということは第1次世界大戦が勃発した年。祖父は文人だったから、この戦争の止むことを願って命名したのであろう。
「武」という字は、戦を仕掛けるような意味に取る人がほとんどだろうが、本来は諍いを止めるという意味だ。

私が生まれたのは第2次世界大戦が終了したときなので、やはり平和を願って○○という名前が付いた。平凡だけれど、それなりの繋がりがある。

親爺は子供の頃から病気勝ちだったようで、祖父は人一倍可愛がった。体も小さかったので、俳号は「地衣」。コケの意味もあるけれど、小さかったからそう付けたらしい。尤も本人は三文文士の生活を嫌って実業の道に入ったから、俳句などは読まなかった(はず)。

本人は自らを器械体操などで鍛えたので、心臓は丈夫だった。平成2年に76歳で没したときは、兄弟が集まって、体の割には随分長生きだったという話題が中心だったっけ。

9歳も年下の母に先立たれたときに、枕経をあげにきたお寺さんが古今亭志ん朝に似ていたのを、親爺がその場で誉めそやした。
親爺の豪胆に驚愕したこのお寺さんは、母親の戒名に13文字をつけて持参した。頼みもしないのに。だから責任上、親爺の戒名も13文字。私の意向(威光)では、もちろん、ない。

13文字の戒名が何を意味するのか知らなかった我々は、葬儀の際にいろいろな方から下世話な質問を受けた。へぇ~、そういうもんなんですか。そのことを厳しく問い詰めても、お寺さんは笑っているだけ、気持だけで結構です、と。

いろいろなことを思い出す。

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