鎌倉で紫陽花、鵠沼でチェロ

演奏会カテゴリーにしようか旅カテゴリーにしようか迷いましたが、今回はこちらに入れておきましょう

6月怒涛のブログ更新が終わって一息、気が付けば紫陽花の季節。というより、そろそろ終盤戦に入ったような印象です。この間から家内の様子が落ち着かないと思ったら、どうも紫陽花写真集を作るための鞄持ちをして欲しかったようです。
首都圏で紫陽花と言えば先ず鎌倉で、家でパソコンにばかり向かっていないで紫陽花撮影旅行を手伝え、ということなのですね。

拙宅から鎌倉までは電車で一本、態々旅行という気構え無しに出掛けられる場所ですが、どうも個人的には良い思い出が残っていません。つらつら考えるに、人出が多い。特に週末に子連れで出かけようものなら電車は座れず食事処は待たされ、しかも高い。
私も子育て時代には何度か鎌倉に出掛けましたが、へとへとに疲れたという印象しか残っていませんでした。
しかし今は隠居の身、時間は有り余るほどあるし、混んでいない時間と場所を選べば鎌倉トラウマは消えるでしょう。更に音楽好きの私にとっては、最近はクラシック音楽をゆっくり楽しむ付録も期待できる時代。改めて鎌倉方面に関心が向いた次第です。

ということで昨日の火曜日、久し振りに古都を訪ねました。選んだコースは紫陽花のメッカでもある長谷寺。そこで写真を撮ったら食事を湘南の何処かで済ませ、夜は鵠沼サロン・コンサートを聴こうという音楽鑑賞付き観光コースですな。
ルートは午後、ゆるゆると横須賀線で鎌倉に入り、江ノ電で長谷下車。そこで紫陽花を思い切り楽しみ、家内がネットで見つけたイタリアン・レストランを探しに七里ヶ浜。そこで夕方になるのを待ち、江ノ電終着駅の藤沢に一旦戻り、小田急で鵠沼海岸駅着。7時から2時間タップリとチェロに浸るという計画。
天気予報は雷を伴って雹も降ると注意を喚起していましたが、空を見上げると何とかもちそう。降られたらその時に計画変更、ということで昼前に家を出ました。

夕方までの時間は家内がメイン、私は指示に従って荷物持ちに徹します。いずれ彼女のブログに経緯がアップされることでしょう。今回は私はカメラには触っていません。

長谷寺は、平日にも拘わらず相当に人が出ていました。紫陽花を見ながら遥かに海を見下ろせる「あじさい路」には入場整理券なるものが出ていましたが、この日は時間待ちはほとんど無く、比較的スムースに路を上下できました。
それでも大勢の花見客で賑っていて、混雑を気にしながら写真を構えての上り下りが結構きつく、予想外に足に来ました。去年の京都、鞍馬から貴船越えより堪えたほど。
紫陽花の他にはトラノオの一種、花筏、ホタルブクロ、洋花のアガパンサスなどもあり、写真のネタには事欠かなかったようです。何気なく見ているとゴマダラチョウ、キチョウの夏型、ムラサキシジミなども確認でき、思わずそちらに目が向いてしまいました。特に大きなカラスアゲハは見事で、これが世に言う「鎌倉蝶だ!」などと一人で納得する始末。

大仏を見る気力は無かったので、昼夜兼用の食事を求めて七里ヶ浜に移動。なるほど先日テレビでも紹介していた撮影スポットにスマホ撮影の一団が待機しているのに苦笑。昔はあんなことな無かったけどなぁ~・・・。
七里ヶ浜の食事処は結構急な階段(又しても)を登り切った所にあり、そろそろ4時になろうかと言う時間なのに空席待ち状態。これが観光地の有名レストランで昔なら諦めて帰る所ですが、演奏会には十分すぎる余裕があり、気長に待っての腹ごしらえ。これで最終コースに突入できます。

雨が降ったらタクシーで移動、とも考えましたが、相変わらず雲間からは日差しが照り付けていて天候の心配は無し。江ノ電と小田急江の島線を乗り継いで鵠沼海岸に到着しました。今は夏至、6時でも未だ明るく、開演1時間前には目的のレスプリ・フランセに無事到着。
旧知の主催者に“今日は鎌倉の紫陽花を見てからこちらに来ました。このコースは癖になりそうですネ”などと挨拶。今回は第343回目となる、定員60名、地元にスッカリ定着しているコンサートを楽しみます。こんなプログラムでした。

http://www2s.biglobe.ne.jp/~kurobe56/ksc/ksc.htm

第343回・鵠沼サロン・コンサート

バッハ/無伴奏チェロ組曲第5番
シベリウス/主題と変奏ニ短調
~休憩~
ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第4番ハ長調作品102-1
ベートーヴェン/チェロ・ソナタ第5番二長調作品102-2
チェロ/ミハル・カニュカ
ピアノ/三輪郁

私がこのコンサートを聴くのは2回目で、前回は寒い季節に行われた木下美穂子リサイタル。今回はプラジャーク・クァルテットのチェリストでもあるカニュカ氏のバッハとベートーヴェン、それに初めて耳にするシベリウスの無伴奏チェロ作品が聴けるとあって、期待が高まります。
冒頭、主催者である鵠沼室内楽愛好会を代表して平井満氏の司会で出演者のプロフィールと簡単な曲目解説。このコンサートのプログラム誌には曲目解説は掲載されていません。敢えて説明する必要もないファンたちが集っているものと思われます。

カニュカは鵠沼初登場ではなく、前回取り上げたプログラムが好評で、鵠沼以外でも演奏。遂にはCD化も実現したとのことで、この日も会場で先行発売されるという手際の良さです。
バッハも以前は全曲のブリュードとアルマンドだけを続けて弾いたことがあるそうで、今回は5番の全曲。正に眼前の演奏で、弾き手の息遣いや表情まで手に取るよう。その迫真の演奏に思わず惹き込まれてしまいました。
遥か昔にLPの優秀録音盤が出た時、「世界の名手が自宅で弾いているのと錯覚するような贅沢」と評されたことがありましたが、このコンサートは錯覚ではなく現実。真に贅沢な時代になったものだと改めて感慨にも耽ります。

続くシベリウスは楽しみな一品。平井氏の解説では、恐らくシベリウスの弟(チェロを弾いた由)のために作曲されながら長い間お蔵入りしていた作品で、最近になって発見、楽譜も校訂版が出版されてから無伴奏チェロ作品の重要なレパートリーに定着しつつある曲とのこと。興味津々で聴き入ります。
極く短い序奏に続いてテーマの提示。恐らく西洋の耳には異国的に聴こえるのでしょうが、我々の耳には日本民謡にも似たメロディーに驚きます。これが7回ほど変奏され、最後はテーマがフラジョレット奏法も交えて登場するコーダ、と聴きました。変奏には重音奏法による技巧的な難所もあり、今後はプログラムにアンコールに、しばしば取り上げられるようになるでしょう。シベリウス生誕150周年の嬉しいプレゼント。

休憩を挟んで演奏されたのは、ベートーヴェンの作品102の2曲全曲。先日ベートーヴェンを腹一杯聴いてきたはずですが、又してものベートーヴェンはやはり素晴らしい。2曲一気に堪能してしまいました。
なおカニュカ/三輪によるデュオ、このあとベートーヴェンのチェロ・ソナタ全曲!を札幌と武蔵野でも取り上げる予定だそうで、チェロという楽器にとってもベートーヴェンは王道なのです。

今回聴いていてハッとさせられたことが一つ。バッハの第5組曲で最も有名なのは、恐らく4番目のサラバンドでしょう。その冒頭、3度・4度下降して2度上昇する4音によるモチーフが登場します。
ところがこのモチーフ、何とベートーヴェンの第4ソナタにも出てくるのですゾ!! それは第2楽章アダージョの4小節目の頭。fp でチェロが跳躍した後、ピアノが次のフレーズに加わるまでの間にチェロが単独で弾くパッセージの冒頭に注目。
もちろん単なる偶然かも知れませんが、前半で食い入るように聴き込んだパッサカリアの一節が、後半のベートーヴェンにも。ここは会場の硬目の椅子から飛び上がるほどに驚きました。サロンの場で、奏者を目の前にして聴くと、こんな発見もあるのですね。

アンコールはやっぱりベートーヴェン。カニュカ氏と三輪氏が互いに“紹介はあなたがして下さい”と譲り合う和やかな雰囲気の中、「魔笛」の主題による7つの変奏曲から、第6変奏のアダージョが美しく演奏されました。

コンサートが終わって流石に暗くなった午後9時前、予報通り雨が降り出していましたが、パラパラと降っている程度。寒気も入って爽やかな湘南を後にしました。いゃー、来てよかったねェ~。お互い納得の小旅行でした。

 

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