ダフネ・予習編

明日は二期会の「ダフネ」を観に行きます。日本初演なので、ほとんどの人が初体験でしょう。
本来はダブル・ビルの一つとして作曲されたもので、初演とその後何回かの上演では「講和記念日」と組んで上演されていました。しかし現在はこの組み合わせはやらないそうですね。
今回は単独上演、1時間半から2時間弱で収まるでしょう。

少し予習、と思っていろいろ資料に当たりました。事前に少し書いておこうと思いましてね・・・。

筋書きは省略。ただしギリシャ神話を前提として知っておく必要はあるでしょう。それによれば、
キューピッドが矢を2本放つ。1本は太陽神アポロに命中し、もう1本がニンフのダフネに当たる。
その結果、アポロはダフネに恋をするけれども、ダフネは男の愛を一切受け入れなくなってしまう。従って、アポロがダフネに寄せる愛情は、最初から実らない運命にある。

ギリシャ神話といってもいろいろな版があるようですが、シュトラウスのオペラでは、ダフネは人間として描かれているようですね。父・ぺネイオスは本来は川の神であり、母・ゲイアは地の神です。ここではダフネの両親という設定ですが、夫々が登場するときの音楽は、いかにも神性を帯びた荘厳な響きがします。ゲイアはワーグナーのエルダのようだし、ぺネイオスはワルハラを連想してしまいますね。素晴らしいメロディーです、どちらも。

聴きどころはダフネの二つのアリアでしょう。冒頭のダフネ登場の際に歌われる“ああ留まって、愛するお日様”と最後に死んだロイキッポスを偲んで歌う“おヽ、私のロイキッポス”。
実はこの二つは対称的に書かれているような気がしますね。最初は沈み行く太陽を愛しむ歌。太陽とは即ちアポロでもあるのですよね。
そして最後は幼馴染であり、自分を恋してくれたロイキッポスを愛しむ歌。アポロとロイキッポスこそダフネを巡る恋敵だったのですから、対称性を感じても当然でしょう。音楽にも共通のテーマがあり、雰囲気も似ている。

アポロの最後の独白、“何を目の当たりにするのか”も同じ位重要で、テノールの聴かせ所です。ここでアポロは自分のしたこと(ロイキッポスを殺してしまう)を後悔し、神々に呼びかけてダフネを月桂樹に変えてもらうよう頼むのです。
“オリンポスの神よ、友よ”と呼びかける歌詞がありますが、これが大事ですね。
友は、ここではディオニソスを意味すると思います。このオペラの舞台はディオニス祭です。ディオニソスは生殖の神で、ダフネが畏れているものですが、ロイキッポスはディオニソスの大切な信者でしょ。それを殺してしまったアポロはディオニソスに詫びるのです。

そして神よ、は当然ながらゼウスです。父神であるゼウスにダフネの変身を依頼するわけ。
このオペラにはディオニソスもゼウスも登場しませんが、隠れた存在として意識されねばなりません。演出家がどう扱うか・・・。

そしてニーチェが指摘しているように、芸術の相対立する形として「ディオニス的」なものと「アポロ的」なものは対比されます。ここにもアポロとロイキッポスの対決が隠されているのでしょう。
ディオニソス祭のバレエ音楽が出てきますが、かつてワーグナーがベートーヴェンの第7交響曲を「舞踏の神化」と評したことを思い起こしますね。ワーグナーはここに音楽のディオニソス的側面を見たのですが、シュトラウスは第7交響曲の付点リズムを執拗に使った八分の六拍子を使って、そのことを暗示しています。少なくとも私にはそう聴こえます。

最後のダフネ変身の場面も凄いですよね。半音を次第に上昇させて、いかにもダフネの体から葉や枝が伸びていく様子の描写力。唖然とします。
ここに使われている音楽は、序奏と同じ(序奏では木管アンサンブル)なのですが、遥かに豊かな楽器編成を使って、シュトラウス作品の中でも最もメロディックにして陶酔的瞬間を醸し出していきます。ダフネ最大の聴き所と断言します。

楽器にも面白いものがあります。序奏の後、数度に亘ってアルプホルンの指定があります。
しかし初演も含めてこの楽器が使われたことはなく、現実にはトロンボーンで代用されてきました。
ところが1982年にEMIがハイティンク指揮バイエルン歌劇場のコンビでレコーディングしたときに、実際にアルプホルンを製作して使ったのですね。
スイスのピラトゥスという楽器メーカーが、アルプホルンと古いケーザーホルンというものを合体させて、7メートル弱の代物を作ったのだそうです。ですからこのレコードでしか「アルプホルン」は聴けません。そんな大型楽器を実際に舞台で使うのは技術的に無理がありますからね。

明日はどうするのでしょうか。矢張りトロンボーンで代用するのでしょうね。
まぁいろいろありますが、日本初演を大いに楽しんできます。スコアやCDで予習した限りでは、シュトラウスの数あるオペラの中でも、一・二を争う傑作でしょう。

 

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