ハンス・ロット/交響曲(2)

この度私も機会を得て、ロット「交響曲」のサミュエルズ・ゼーゲルスタム両盤を試聴できましたので、その印象等を投稿いたします。前回の稿でも触れましたとおり、私はデーヴィス指揮のCPO盤でこの作品を知りましたが、他の盤は輸入レコード店でも入手が難しく、今まで聴く機会を持てませんでした。先ずこうした機会を用意して頂いた友人に感謝申し上げ、この雑文をそのお礼に代えさせて頂きます。
結論を最初に申し上げると、この作品のスタンダードというべき演奏がサミュエルズ指揮のハイペリオン盤であると断言してよろしいかと思います。もちろん現時点で、ということではありますが。
ロットはブルックナー門下ではありますが、師の作品のような厳格な構成はとっておりません。それはハイドンに発した古典派交響曲の構成、即ちソナタ形式を中心とした構成という意味です。ロット作品もその起承転結は明快であり、構成上の欠点があるわけではないのです。ただブルックナーや、その対立グループの中心であったブラームスのそれとはかなり違うものであって、むしろマーラーに近いものと言えましょう。いや歴史的に見れば、マーラーがロットを大いに参考にしたと言うべきなのでしょう。ただしマーラーはまた独自の個性であって、私はマーラーについての評価を下げる積りはありません。

サミュエルズ盤は、ロットの起承転結を最も正確に、まるでスコアが透けて見えるように演奏しています(スコアはまだ市販されていないようです。アカデミア楽譜に情報収集をお願いしてありますので、ニュースが入り次第連絡して頂くことになっています)。(*) デーヴィス盤では今一つ作品の形が見えてこなかったのですが、これを聴いていると、主題がはっきり主題として提示される、ここはその展開部である、今コーダに入った、というような起承転結がリアルタイムで感じられる。そう言えば判って頂けるでしょうか。作品が今出来つつあるような新鮮さ。どれほど競合盤が出てもその存在価値は決して減じられることのない演奏。
チョッと褒めすぎかも知れませんが、(聴衆にとって)新しい作品を知るには、こういうタイプの演奏は欠かすことができません。録音も優れたもので、良いホールの中央よりやや前方で聴いている感じ。私が最も好きな音場作りです。
さてゼーゲルスタム。サミュエルズがスタンダードとすれば、これはその上を行く大名演と評しても良いでしょう。その気宇の大きさ、作品の神秘性に強く光を当てた解釈。これは敢えて言えば、作品のスケールを上回るような演奏でありましょう。
譬えは些か古くなりますが、サミュエルズが楽譜に忠実に、あくまで理知的に対峙した若きカラヤンとすれば、ゼーゲルスタムは正にフルトヴェングラーに相当します。その録音もまた演奏に相応しいもので、ホールトーンをたっぷり取り入れ、スケールの大きな音に捉えられています。ホール中央よりやや後ろ、あるいは二階正面で聴くような感じです。
これらに比べれば、デーヴィス盤は形式の把握も、作品のスケール感の表出にもやや物足りないところがあり、録音も少なからず混濁があるようです。曲を知る切っ掛けにはなりますが、感動となるとどうでしょうか。それでも私は初めて聴いてそれなりに感動しました。この盤の名誉のために付け加えておきます。
というわけで、今回私は一つの作品を知るのに、様々な演奏で聴いてみることがいかに大切かということを思い知りました。既に名曲としての地位を確立している作品は、聴く方が好むと好まざるとに拘わらず様々な演奏に触れる機会があり、作品論よりも演奏論に比重が移りがちなことは、様々な演奏評に書かれる通りです。
今年(2004年)日本フィルが沼尻竜典の指揮でロットの交響曲を日本初演しますが、これが二十一世紀に名曲の一つとして定着するには、更にこれに続く演奏が行われることが必要でしょう。作品の素晴らしさは既に証明されていると思います。優れた我が国の指揮者たちがロットに目を向けてくれることを切望して止みません。
さしあたって大友直人と東京交響楽団、尾高忠明と東京フィル、飯守泰次郎と東京シティフィルなどはどうでしょうか。読響にはゼーゲルスタムも客演を重ねていますし、御大ヤルヴィは日フィルの常連です。日フィルといえばこの人を忘れてはいけません。そう、小林研一郎。クライマックスで左手人差し指を高く掲げ、それを更に客席に向けて音の向かう方向を指し示すあのポーズに、この作品ほどピッタリくるものは無いように思います。
それにしても最後、クライマックスの頂点で終わるのではなく、転調を重ねながら音力を減じ、静かに消えていく感動的な終結の素晴らしいこと。暫くの沈黙の後、盛大な“ブラボオ”が会堂の各所から巻き起こる様が想像できるではありませんか。本当に日本初演が待ち遠しい。

 

(*)スコアはその後リース・アンド・エルラー社から出版されました。その経緯等は後段に登場します。

 

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