ハンス・ロット/交響曲(7)

さて、今回リース&エルラーから出版された楽譜は、いくつかの資料からベルト・ハーゲルスという人が編集したもののようです。
ヨーロッパの出版物は、楽譜に限らず、正確な出版年月が判らないものが多いのですが、今回のロット「交響曲」については、序文などを見た範囲では、2004年5月頃の出版だろうと思います。ということは、これまでに発売されたCDの演奏でこの楽譜が使われたわけではないでしょう。
この出版以前にどのような楽譜が使用されていたのかは不明ですが、CDのライナーノーツなどから類推すると、ポール・バンクス(この作品についての論文がある)によって演奏用の譜面が興されたのではないかと考えられるのです。(沼尻竜典氏も出版以前に指揮していますから、質問すれば判ることです)
耳澄様も指摘されている通り、ロットはこの作品の全体を聴くことが出来なかったわけですから、多くの部分は彼の原始アイデアのままでしょう(特に第2楽章から第4楽章まで)。音楽作品、特にオーケストラ曲の場合は、作曲家が実際の演奏に立ち会った上で手を入れたり、改訂したりするのが普通です。ロット作品はこの手続きを経ていない筈ですから、実際の演奏にあたっては様々な問題があるのだと思われます。
私の想像が正しいとして、初期(といっても1990年代後半か)の演奏や録音に使われたであろうバンクス版(仮称)と今回のハーゲルス版に違いがあっても不思議はないと思いますし、何種類かのCDに小さな差があることも理解できます。
今回のスコアにはヴァイグレによる提案が多く取り入れられているようですが、それでも完璧なものではないようですね。
ヴァイオリン・ソロが指示されているのにテュッティに戻る場所が指定されていない、フルート2本の他にピッコロが指定されているのに持ち替えが不可能(第3の奏者としてピッコロが必要なら、何故そのための一段がないのか)。
また、ティンパニは一人の筈なのに第2楽章にディヴィジの指示がある(ティンパニの分奏ってどういうこと?)。更に、第2楽章の練習番号が無い、等々。
しかし今回の初演については、私はあまり細かいことには拘らず、ロットを体験してみようと思っています。楽譜を眺めた限りでは、どうしてもレコードには収まり切らない箇所がいくつもありそうですし、聴衆の皆様の反応も大いに興味があります。
ロットの師・ブルックナーにも様々な版の問題があり、未だに定説が確立しているとは言えません。ロットの交響曲の細部については、まだ先のことで良いと思うのです。

 

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