小川=沼尻=日フィル
みなとみらいホールに着くと、奥田佳道氏の解説が始まったところです。
何でもシベリウスの「フィンランディア」は、この日の指揮者・沼尻竜典氏が学生時代に始めてオーケストラの前に立ったときの曲目なのだそうです。また、グリーグのピアノ協奏曲も、彼がプロの指揮者として始めて振った曲とのこと。
初めて繋がりのプログラムなんですね。
今日のコンサート・マスターはゲストで、江口有香さんという方。オーケストラのコンサート・マスターという仕事が初体験だということで、ここにも初めて繋がりがあるようです。
お目当てのグリーグは期待通りでした。これは天下の名曲で、ピアノ協奏曲というジャンルの中でも最も愛され、レコード録音も圧倒的に多い曲だと思います。
その分ピアニストにとっては難しさもあるのでしょうが、小川典子は安心して聴いていられるし、自らのピアニズムを際立たせてやろうという嫌味が全くありません。素直に“いい曲だなぁ”という感想が先に立ちます。
特に第2楽章の清冽な美しさと、終楽章の内に秘めた情熱の「紅さ」が印象的でした。
優れた演奏家は、まず作品の良さを忠実に聴き手に伝えることに専念するものです。演奏家の名前は必要ないのです。
その意味で真に素晴らしいグリーグでした。また聴きたくなるような演奏です。
(彼女はグリーグを来年の3月に札幌交響楽団でも弾く予定。行っちゃおうかなぁ!)
メインのショスタコーヴィチ「第1交響曲」は、先週ロジェストヴェンスキーで聴いたばかり。どうしても比べてしまいます。
オーケストラもホールも違うので一様な比較はできませんが、沼尻氏の演奏は、ロ氏に比較してより「熱い」演奏だったように思います。マエストロ沼尻はどちらかというとクールなタイプに見えますが、終楽章の緊迫感やコーダへの追い込み方に、並々ならぬパッションを聴いたのです。
比較ということでもう一つ付け加えると、ロ=読響がプログラムの冒頭に演奏されたのに対し、沼=日フィルがプログラムの最後であった、という違いがあるのかもしれません。
アンコールが面白かったですね。チャイコフスキーの「クルミ割り人形」からトレパーク。何とタンバリンを4丁、ティンパニの左右に振り分け、両軍が競うように叩きます。
なかなか洒落たアイディアですね。日フィルの定番なのでしょうか、沼尻氏の隠し業なのでしょうか。見た目にも楽しいし、音楽も活き活きと踊っていました。
ショスタコーヴィチの真剣な音楽で肩が張ったあとのリラックスとして、素敵なデザートと言えましょう。
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