今どきの天地創造

メシアンの宇宙大作に続き、29日のプロムスではハイドンの天地創造が取り上げられました。今年のテーマという視点で見れば、ハイドンのオラトリオも宇宙大作と言えなくもありませんね。

7月29日 ≪Prom 14≫
ハイドン/オラトリオ「天地創造」
 BBCフィルハーモニック
 指揮/オマー・メイアー・ヴェルバー Omer Meir Wellber
 ソプラノ/セーラ=ジェーン・ブランドン Sarah-Jane Brandon
 テノール/ベンジャミン・ヒューレット Benjamin Hulett
 バリトン/クリストフ・ポール Christoph Pohl
 合唱/BBC Proms Youth Choir

公演をリードするイスラエルの新星ヴェルバーは7月23日、プロム7に続いて今年のプロムス二度目のの登場となります。プロフィールに付いては先週のプロムス・レポートを参照してください。

第1部ではチェンバロを、第2部ではフォルテピアノを弾きながらの指揮というアナウンスに先ず驚きます。天地創造は3部分から成り、第1部と第2部で天地創造の6日間の事蹟を、第3部で創造されたアダムとイヴが神を讃えるという内容。
通常は第1部と第2部が通して演奏され、休憩を挟んで第3部が演奏されるスタイルで、贅沢な演奏では第2部までの歌手に替わり、第3部で歌うアダムとイヴ役には、第1・2部の天使ガブリエルと天使ラファエルとは別のソプラノとバスを配する演奏もあるほどです。

私が未だ学生で若い頃は、ザルツブルク音楽祭やウィーン芸術週間で毎年のようにハイドンの天地創造か四季が取り上げられ、天地創造はカラヤン、四季はベームというのがお決まりのパターンでした。もちろん壮大な巨匠風ハイドンで、私のような老人はそれで育って来た世代です。

ところが昨日のハイドン、そうした記憶を全て一掃してしまうもので、正に今どきの天地創造を体験できました。
そもそも休憩(20分)は第1部と第2部の間で、第2部と第3部は通して演奏されます。加えてヴェルバーは前半でチェンバロを、後半でピアノフォルテを弾きながら全体をリードしていくのですが、楽器を入れ替えることに何か意味があるのでしょう。私の理解力では及びもつきません。

先日川崎でジョナサン・ノットのベートーヴェンを体験しましたが、英国の古典演奏はウィーンなどの演奏スタイルとはまた違った傾向があるようですね。
今回の天地創造も極めてフットワークの軽い演奏で、第1部が30分、第2部と第3部で1時間、凡そ1時間半でカット無しの全曲を演奏してしまうのだから、そのテンポが想像できるでしょう。

ヴェルバーをリーダーとする通奏低音も常識的なスタイルじゃありません。レシタティーヴォとアリアの間は何らかの形で繋がっており、例えばレシタティーヴォが“ジャン・ジャン”と終わるのではなく、最後の和音がそのまま次のアリアや合唱曲の最初の音に繋がる。逆もまた然りで、アリアの最後がそのままレシタティーヴォに流れ込み、それを主導するのがヴェルバーという具合。

他にアッと思った点を列記すると、
第2部で第5日の偉業を称えるレシタティーヴォ(第16曲、天使ラファエルの叙唱)では、バスはアルコではなくピチカートに変えられている。
第3部の最後で歌われる有名な二重唱の前に置かれるレシタティーヴォ(第31曲)では、何とアダムはジングシュピールの様に旋律ではなく台詞を喋る。これを受けるイヴは歌って答えるのですが、Dein Will’ ist mir Gesetz からはアダム同様に台詞になってしまいます。
更に終結の大合唱曲の前に置かれているレシタティーヴォ(第33曲)は、同じく台詞に変えられているだけではなく、これまでの、そして本来のドイツ語ではなく英語で話されるのでした。当然ながら客席はドッと沸きます。
音だけでは判りませんが、第2部と第3部の合間ても客席から笑いが漏れる。笑いを誘うようなシーンがあったのでしょうが、これ、絵で見たかった。

以上、奇想天外とも言うべき天地創造でしたが、私のような情報弱者には専門家の解説が必要です。賛否は真っ二つと言いたいところですが、ロイヤル・アルバート・ホールは絶賛の嵐が吹き捲っていました。
ヴェルバーを招いて天地創造を演奏するとすれば新日フィル、それとも東響? 

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