神奈フィルのスペイン・プロ

今年のフェスタ・サマーミューザ、初日と二日目を聴きましたが、29日の都響はパスしました。理由は単純で、この会はチケットが他より若干高かったから。専ら財政上の理由であります。
昨日30日の会場で出会った知人によると、ギルバート/都響は素晴らしかった由。レスピーギをメインとするイタリアン・フェスタだったそうで、特にヴォルフのイタリア・セレナードの管弦楽版が聴けたのが大収穫だったとのことでした。

前日のイタリア祭りに続いては、神奈川フィルのスペイン祭りが続きます。特に今年のミューザで世界お祭り巡りという企画があるわけではなく、偶然のことでしょう。こんなプログラムでした。

ボッケリーニ(ベリオ編)/マドリードの夜警隊の行進
ロドリーゴ/アランフェス協奏曲
     ~休憩~
シャブリエ/狂詩曲「スペイン」
ファリャ/バレエ音楽「三角帽子」第1組曲、第2組曲
 神奈川フィルハーモニー管弦楽団
 指揮/川瀬賢太郎
 ジャス・ギター/渡辺香津美
 コンサートマスター/﨑谷直人(前半)、石田泰尚(後半)

フェスタではゲスト・オケ(もちろんホスト・オケも)のメンバーが登場する際に客席は拍手で迎えますが、神奈川フィルはみなとみらいでの定期演奏会でも同じ。全員が揃ったところでコンマスの合図で一礼、というのが彼等のスタイルです。
今回は看板のコンサートマスター二人の揃い踏みということで、オーケストラとしても気合が入っていました。前半は﨑谷が表で石田は裏、後半はポジションを交代する豪華版。

冒頭のボッケリーニ、原曲は弦楽五重奏曲作品30-6の第5楽章。ボッケリーニ本人はルッカ生まれのイタリア人ですが、25歳の時にスペインの宮廷に招かれ、終生マドリードで暮らした作曲家。この作品は夜警隊が遠くから近づき、また遠ざかって行く様子を描写したもの。
よく弦楽四重奏や五重奏でも演出を加えて演奏されたりもしますが、現代イタリアの作曲家ベリオがオーケストラ用にアレンジして有名になりました。というより、カラヤンがバロック音楽集のアルバムに加えたことで世に知られるようになったと認識しています。

この形をナマ演奏で体験するのは貴重な機会。編成は3管(ピッコロ、イングリッシュホルン、バスクラリネット、コントラファゴットを含む)、ホルンとトランペットは4本も使われ、トロンボーン3、チューバ、ティンパニと3人の打楽器奏者も入り、ハープに弦5部という大編成。
ベリオはボッケリーニだけじゃなく、モンテヴェルティ、シューベルト、ブラームスの作品もオーケストラ用にアレンジしていますし、オリジナルのシンフォニアでは古今東西の名曲をパロディとして用いていますから、今回のボッケリーニも殆どベリオの作品として良いでしょう。楽しい前菜を味わいます。

2曲目は誰でも知っているアランフェス協奏曲。私は予備知識もなく出掛けたのですが、この日のアランフェスは正直に言って興醒めでした。
ソリストの渡辺香津美はギターはギターでもジャス・ギタリスト。私には馴染みのないジャズの世界ではトップクラスで、驚異の天才ギタリストとして評判になった由。プログラムにはプロフィールの他に本人からのメッセージも掲載されていて、フェスタでのメイン・イヴェントの一つだったことを知りました。

アランフェスは指で奏でるクラシック・ギターで聴くのが普通ですが、今回の演奏はスチール弦をピックで弾いてアンプで鳴らすフルアコースティックギターと呼ばれる楽器だそうな。渡辺氏にとってもチャレンジだ、と書かれていました。
アンプは使うけれど暗譜じゃありません。テクニックはともかく、ギターが発する電気的な音に何とも違和感を覚えてしまうのでした。渡辺氏には申し訳ないけれど、こういう形でのアランフェスはこれが最初で最後にしたいと思います。

このストレスを一気に解消してくれたのが、後半のスペイン・フェスタ。スペインと言ってもシャブリエはフランス人、このスペイン旅行土産は初演から一晩明けてシャブリエを超有名人にしてしまった曰く付きの名曲です。これまたナマで聴ける機会は少ないと思いますが、スペイン人以上にスペイン的なラプソディーに身も心も踊りました。

そして極めつけのファリャ。定番の第2組曲だけでなく第1組曲も演奏されたところがミソで、川瀬の若々しい指揮と神奈川フィルの域のあったアンサンブルに客席も大いに沸きます。
これで終わりじゃないのが川瀬流。パッと指揮台に飛び乗ると、ビゼーのカルメン前奏曲を華々しくアンコール。思わず手拍子を打ちたくなるようなフェスタでした。

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