第109回マエストロ・サロン、「イルジー・ビェロフラーヴェクの巻」

Last but one 、最後から2回目のマエストロ・サロンのレポートです。前回に続いてあらましを箇条書き風に残しておきましょう。

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第109回《マエストロ・サロン》イルジー・ビェロフラーヴェクの巻
-東京国際フォーラム G701- 午後7時~

今回は3年振りの登場、最早世界の巨匠とも呼べるイルジー・ビェロフラーヴェク氏。司会はいつもの通りヴィオラの新井氏で、英語の通訳は高島まきさん。
マエストロは風邪をひいたということで、喉が辛そうでした。そんな中でも誠実な対応をされるのは、正にマエストロの人柄です。

1.近況

日本フィルとの関係は1974年が最初、以後定期的に振っていますが、今回は3年ぶり。
この間、スメタナ、ヤナーチェク、マルティヌーなどのチェコ作品や第9を演奏してきた。

私自身が日本フィルの歴史の証人とも呼べる関係で、オーケストラが良い方向へ成長して来ているのを実感できて幸いである。
日本フィルは音楽的クォリティーはもちろん、アクースティックの面でも環境が整って、ブルックナーやマーラーを出来るようになったことは極めて喜ばしい。

現在は英国のBBC交響楽団の首席指揮者を務めている。
1995年にBBCに招待され、2000年から5年間首席客演指揮者を務めた。
2000年からは常任指揮者となり、プロムスも担当。このオーケストラとの契約は2012年まで延長されている。

BBCは現代音楽のパイオニアでもある。
マエストロに期待されているのは音楽のメインストリーム、即ち古典派、ロマン派の作品であり、当然ながらチェコの音楽。
現代音楽はプラハでもやってきたので、BBCにも伝えているところ。

オーケストラのサウンドを磨く上でクラシカル、特にウィーンの音楽は大事なこと。これによってBBCのクォリティーを上げるのが自分に課せられた使命だと考えている。
ロンドンでは過去3シーズンでオーケストラが飛躍的に向上した、と評価されているので、一定の成果を出せていると思う。

オーケストラの音の向上は指揮者にとって終わりの無い課題。
今回のリハーサルにはブザンソン指揮者コンクール1位の山田和樹が立ち会っているが、彼はリハーサルの後どんどん音が変わっていると言ってくれた。
(山田は来年、日本フィルにも登場する予定とのこと)

2.ブルックナー/交響曲第5番

今回はノヴァーク版を使用する。
(日本フィルが第5を取り上げるのは、ルカーチ以来30年ぶり。その時は終楽章で作曲家が許可しているカットを実行した)

●第5は何度も振っているが、この曲があまり演奏されないのは理解できること。

この作品を取り上げるには勇気がいる。スコアそのものがチャレンジングである上、弦も管も、技術的にも音楽的にも難しい作品。
指揮者にとっても難しいのは、構造的に難しく、演奏すること自体のリスクも高い。

第5は、指揮者にとってはスポーツチームのトレーナーのようなもの。一つはプレイヤーから最大の結果を引き出さなければならず、同時にやり過ぎないようにすることが大事だからだ。特にブラス奏者が傷付かないように注意する必要がある。

そのうえで、技術的、音楽的な面はスタートに過ぎず、精神的なものを表現しなければならない。
長い間考え続け、ゆっくり発展させる。演奏のペース管理が難しく、音楽を崩壊させないようにすることが大切。

●私はオリジナルの編成通りに演奏する。即ち、アシスタントは付けない。それはやり過ぎないための配慮であり、他の奏者が本来のプレイヤーの邪魔をしないことでもある。

第5には様々な改訂やカットがなされてきたが、ノヴァークがブルックナーの最初の意図を実現した。
オリジナルのオーケストレーションは十分に力があり、何も足す必要はない、というのが自分の考え。

アシスタントを付けて金管が助け合うことの意義は理解できるが、折角のバランスを崩すことにも繋がるのではないか。

●第2楽章の4拍子と6拍子が同時進行する個所があるが、最初の部分は6拍子で振る。4拍子を吹くのはソロ奏者が合わせれば良いことだし、4拍子に変わる個所は誰かが4拍子に合わせれば良いことで、さほど問題ではないと思う。

●第4楽章では、Fの4小節前にブルックナーには珍しいルバートがある。ここはフレーズの終わりの個所で、消えていくような感じで、リタルダンドとは思わない。全体の部分は統一されているので、ゆっくり消えていくのが自然だろう。

スコアに書いてあることは書いてあるという事実に過ぎない。
例えばスタッカート記号が2分音符の上に書かれていることがある。スメタナ、ブラームス、ベートーヴェンなどにね。これは音符の長さを表しているのではなく、その音が大事だと言うインフォメーションである。

書かれていることは人によって解釈が異なるが、それこそが音楽の面白い所で、論理的に整合が取れていればどんな解釈でもよいと自分は思う。

フォルテについても、どのくらいの強さかはアーチストの解釈による。これもロジカルであれば結構。
同じフォルテでもバロック、クラシカル、ストラヴィンスキー、ドビュッシー、ブルックナーではみな違うので、其々に音の強さを決めるべきだ。

●ブルックナーにおけるティンパ二のトレモロは、トレモロか32分音符でキチンと叩くかの区別は付けるべきで、極めて大事なこと。
スメタナの場合はトレモロはほとんどなく、全て数で叩くべきだ。

質問1. 何故ノヴァーク版を選んだのか?
●オリジナルに一番近いと思うから。

質問2. 自身のブルックナー体験は? チェコではあまり演奏されていないようだが・・・。
●ブルックナーの真面目さ、堅さ、構造的な厳しさはボヘミア人には合わないのは確か。しかし自分は精神的な面は共感できた。

音符の裏にあるもの、天国、精神、神、命など、ここに自分は感動したので、こうしたことを表現したいと考えている。

ブルックナー初体験はチェコフィルが演奏した第7。指揮者の名前は忘れたが、クロアチア人だった。
(ミラン・ホルヴァートか。←質問者の意見)

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サロン終了後、司会の新井氏と東京駅近くの中華で食事。その話の中で、マエストロ・サロンは第1回から現在まで全て録音が残されている由。当初はある程度まとまった時点で本にしよう、という心積もりがあったようです。

11年続いたサロンには貴重な記録が満載されています。本にするというアイディアは是非実現してほしてもの。私からも強く要望しておきました。

 

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1件の返信

  1. スネグル より:

    メリーウイロウ様
    詳細なレポートありがとうございます。
    先日のマエストロ・サロン、申し込んでいたのに、土壇場で行くことができなくなり、悔しい思いをしておりました。
    でも、こちらのブログのおかげで、内容を確認することができ、非常に助かりました。
    週末の定期への期待が高まって参りました。
    本当に、ありがとうございます。

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