日本フィル・第616回東京定期演奏会

一向に寒くならない、師走を忘れたような東京。気持ち悪いような暖かさの中をサントリーホールに向かいます。
日本フィルの12月定期は、首席客演指揮者ビェロフラーヴェクの珍しくもブルックナー。ビェロフラーヴェクの? 日本フィルの? という多少の不安もあったブルックナーです。

ブルックナー/交響曲第5番
 指揮/イルジー・ビェロフラーヴェク
 コンサートマスター/木野雅之
 フォアシュピーラー/江口有香
 ソロ・チェロ/菊地知也

しかし、これは参りました。いやぁ~、これほどのブルックナーを聴けるとは正直に申して驚きでした。
世にブルックナー指揮者と呼ばれる人は過去に何人もいましたし、現在も存在しますが、第5交響曲をこれほどに説得力を以って聴かせてくれた指揮者は少ないのじゃないでしょうか。

マエストロサロンでも明言していたように、アシスタントは一切使っていません。そのことの効果は明らかに出ていたと思います。
即ち奏者、特に金管楽器のフレージングが極めて自然なのです。ことさらに“ここがパワーの見せどころ!” というような力みは全く感じられないし、それでいてオーケストラ全体から感じられる力感に何の不足も感じられません。

このことが、ひとえに指揮者の力量に帰していることは明らかでしょう。

第5はブルックナーの中でも構造が複雑で、指揮者がしっかりこれを把握していなければオーケストラは混乱するし、聴き手も頭がゴチャゴチャになる代物。

それが当夜ほど見事に整理され、混乱は微塵もなく、全体に退屈の二文字は皆無で、なおかつスリリングな展開を体験出来るのは稀有のことと言わざるを得ません。

例えば第3楽章。ここは一聴するとブルックナーの単純なスケルツォのように思えますが、実はそうじゃありませんね。
ビェロフラーヴェクの手にかかると、主部はソナタ形式をコンパクトに凝縮したものであることが判るでしょう。

更にトリオ。ホルンの一音から始まるフレーズは、ブルックナーには珍しい6小節単位で創られていることが、推進力のあるテンポによって明確にされます。
ビェロフラーヴェクは、思わず“速ッ、” と声を上げたくなるほどのスピードで開始。その結果、フレーズの構成がものの見事に浮き出てくる。

終楽章の展開部も好例。ここは第1主題とコラール主題による二重フーガの性格があり、更に最弱音と最強音の頻繁な交替によって、ともすると大混乱に陥ってしまう危険な個所ですが、ビェロフラーヴェクのスコアの読みは完璧でした。迷いは微塵もない。
ここから真に説得力のある進行で劇的に再現部が準備されていく様には、確信に満ちたブルックナーの姿が自ずと見えてくるのでした。

オーケストラも引き続き好調。

第2楽章、6拍子のピチカートに乗ってブルックナー特有の寂しき歌を淡々と綴るオーボエ(松岡裕雅)、終楽章の静寂で孤高に響くホルン(福川伸陽)には特に盛大な拍手が贈られました。
新しく参加したトランペット(オッタビアーノ・クリストーフォリ)を中心に据えた新装・金管群の充実にも目を瞠ります。

残念なのは、その喝采。

日本フィルの会員はブルックナーに余り慣れていない、ということもあるのでしょうか、拍手の開始がやや速過ぎる嫌いがあります。かつて某オケで名演をぶち壊した蛮声フライング・ブラヴォーほどの犯罪ではありませんが、もう少し余裕を持って演奏を称えようではありませんか。
ブルックナーは、最後に全休符の1小節を書いているのですから・・・。

それでも空席が目立つ客席ですが、今シーズンのように優れた演奏を続けていけば、必ずや良質な聴衆が気付いてくるでしょう。
そんな昨今の日本フィルです。

 

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