ムズカシイは おもしろい!!(1)

東京は昨日、突然秋になりました。前日までは炎暑に悩ませれていた首都圏も、上着が手放せないほどの涼しさ。音楽を聴こうという意欲も湧いてくるじゃありませんか。

まさかそれに合わせたわけではないでしょうが、東京の音楽シーンに新たなスポットが出現しました。
所は上野の文化会館小ホール、古典四重奏団の新レギュラーシリーズ、“ムズカシイは おもしろい!!”のスタートです。詳しくはこちらから ↓

http://www.gregorio.jp/qc/

これは、そもそも晴海の第一生命ホールで続けてきたSQW(クァルテット・ウェンズディ、後にクァルテット・ウイークエンド)が途中で挫折。如何なる理由があったのかは知る由もありませんが、要するに主催者側の方針大転換によって途切れてしまったベートーヴェン・ツィクルスを引き継ぐ企画として始まったシリーズだろうと想像します。

ということで、今秋予定されている3回はベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲を中心にするプログラム。
序に、と言っては語弊がありますが、彼らの独壇場であるレクチャーも一緒にやっちゃおうという、レクチャー付きコンサートです。
昨日の第1回は以下のプログラム。

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第10番変ホ長調作品74「ハープ」
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第13番変ロ長調作品130(大フーガ付き)
 古典四重奏団

コンサートそのものは15時半頃からですが、その前に小1時間ほどのレクチャーがあります。
プログラムに、レクチャーの内容を紹介したペラ紙が1枚挟まれていました。

第1回レクチャーのテーマは「後期作品の2つの特徴」と題され、最初と最後に前菜とデザートが味わえる趣向です。
この3回は、前菜がベートーヴェンのパガテルから1曲。デザートは同ピアノ・ソナタから一部分で、もちろん弦楽四重奏用にアレンジした譜面が弾かれます。これがまた中々の聴きもので、田崎瑞博(同団チェロでレクチャーの構成・編曲・解説を担当)自身が、“全部聴かなきゃモッタイナイ” と宣伝していました。

前菜もデザートも楽しい聴きものですが、やはりメインは聞き逃せない内容でした。搔い摘むと、

ベートーヴェン後期の特徴、第一は「音楽の到達点」。詳しいことは書けませんが、ここでは初期の作品(第2番の第2楽章)、中期の作品(第8番の第2楽章)、後期の作品(16番の第3楽章)からサンプルが取り上げられ、夫々の時期におけるベートーヴェン作品の特徴(主に和声)を浮かび上がらせます。
一言でいえば、聴く人に与える感動の落とし所が違っているということ。後期作品では心の最深部に響くことが解説されました。

第二は「時間の芸術への挑戦」。ここではバッハの管弦楽組曲第2番のサンプルと、今回のメインであるベートーヴェンの13番から各楽章の繋ぎ部分がサンプルとして扱われます。
バッハ作品が「広場型の音楽」であるのに対し、ベートーヴェンは「回廊型音楽」というレクチャー。

ベートーヴェンの難曲を理解するキーの一つが「組曲」ということでしょう。作品130は大フーガで閉じられるべきことが、説得力を持って語られます。最後まで聴いて初めて作品の構造が概観できる。

このレクチャー、とかく難しいとして敬遠されがちなベートーヴェン後期クァルテットを楽しむ切っ掛けとして、大いに意義のある企画だと思いましたね。
(因みに、来年秋は2回に分けてバルトーク全曲が取り上げられる予定)

本番の2曲。私にとっては、彼らのベートーヴェン全曲演奏会は二度目の体験です。冒頭に記したSQWでのツィクルスは古典四重奏団を知る最初の機会でしたが、演奏の質は全く変わっていません。

全曲を暗譜で演奏すること、ヴィブラートをあまり使わずに純な響きを追求する姿勢、極めて速いテンポが聴き手にも緊張を必要とする解釈、世界を含めて他の団体とは一線を画する独自のスコア・リーディング等々・・・。

このシリーズは、特にベートーヴェン後期のシリーズは、聴き手一人ひとりが感動を“心の奥にそっとしまい込む”(引用/ぶらあぼ)類のコンサートでしょう。ブラボーも喝采も要らないのです。

古典四重奏団の演奏会の常として、プログラムに掲載される曲目解説は第1ヴァイオリン・川原千真の手になるもの。永久保存の価値ある優れた読み物です。

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1件の返信

  1. カンタータ より:

    すみません、二曲とも二度目のカーテンコールで"Bravo!"を、やや控え目に捧げました。

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