N響・第1661回定期の放送

N響12月定期の放送が、年を越して始まりました。12月は元音楽監督シャルル・デュトワの登場です。
このカテゴリーは去年秋から再出発しましたが、あまりの名曲路線に辟易していたところ。12月のデュトワは流石に骨のあるプログラムで登場してくれました。単に余り取り上げられない作品を並べるだけではなく、演奏水準が極めて高いのがデュトワの素晴らしい所でしょう。彼こそ真のマエストロと呼んで差支えないと思います。(人気だけは先行しているプレヴィンやサンティとは格が違う)

2009年12月5日にNHKホールで行われたAプログラムは、①ストラヴィンスキー/アゴン ②ショスタコーヴィチ/ピアノ協奏曲第2番 ③リヒャルト・シュトラウス/交響詩「ドン・キホーテ」 というもの。極めてコンチェルタントな作品を並べた辺りがデュトワの真骨頂です。

②でのピアノ・ソロはキリル・ゲルシュタイン、③でのチェロ独奏がイケ面チェリストのゴーティエ・カプソン、ヴィオラにN響首席の店村眞積、クレジットはありませんがヴァイオリンのソロは今回のコンマス・篠崎史紀という組み合わせです。
(篠崎・店村と言えばかつての読響首席コンビ、改めて両オケのライバル意識を思い出してしまいました)

前半はロシア音楽が2曲というだけでなく、共に1957年に作曲・初演された作品を並べた点がミソ。鉄のカーテンの向こうとこっちで同じ年に演奏された音楽を聴き比べましょうか。

ストラヴィンスキーはバレエ音楽を11曲残していますが、①はその最後のもの。アゴン Agone はイタリア語で古代のスポーツや競技会の意味。バレエのストーリーは無く、ダンサーのテクニックをスポーツとして把え、12音技法で作曲されています。恐らくストラヴィンスキーのバレエで最も馴染みがなく、演奏も困難を極めるものでしょう。

デュトワとN響は、この難曲を実に見事に音にしてくれました。特にデュトワのリズム感の切れの良さ、難なく付いて行くN響の技術レヴェルの高さは圧巻。

例えば曲中に3回登場する Interlude の4分の3と8分の3の交替、Bransle Gay における8分の3(カスタネット)と木管楽器の16分の7と16分の5の交錯。後者はいわゆる複合リズムで書かれているわけで、凡なる指揮者とオーケストラでは混乱必至。

これらをデュトワはいとも易々と、且つ一気に振り切ってしまいました。更に「冷たい抒情」とも言うべき独特な美しさを醸し出していたのは見事という他はありません。

ソロ楽器のように使われるマンドリンとハープは指揮者の前に置かれ、篠崎コンマスの超絶技巧が冴え渡ります。

アゴンはロスバウトがウェストミンスターに録れた音盤で楽しんできましたが、それに匹敵する名演でしょう。
この1曲だけでも今定期を聴く価値は高いと思います。ナマで聴きたかった!

②も大きな流れで淀みなく聴かせた快演で、ピアノ(スタインウェイ)も実に達者。このピアニスト、私にはロシアの若手ということ位しか情報はありません。

前半に比べると③は楽々と演奏しているように聴こえましたね。デュトワの表情にもゆったりとした笑みが浮かんでします。シュトラウスも本来なら演奏の難しい作品ですが、前半が前半だけに余裕も生まれるのでしょう。少し間延びが感じられたのは止むを得ないでしょうが。

弦の配置はチェロを右端に出す典型的なアメリカ型。9月から登場した4人の指揮者全てが別の配置を採用しているのも面白い所。一昔前のN響では考えられないことです。

やはりN響にデュトワは欠かせない存在。刺激的なプログラムを提供することで聴き手も蒙を啓かれるのです。N響には、指揮者の厳しい要求に応えられる極めて高い演奏水準があるのですから。

 

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