サントリーホール、室内楽の庭が開園
東京・赤坂のサントリーホールは今年開館25周年を迎えます。これを機に、室内楽の本来の楽しみを伝え、盛んにすることを目的とした新事業として、室内楽フェスティヴァル「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン」をスタートするとともに、昨年10月に「サントリーホール室内楽アカデミー」を立ち上げました。
以上が昨日のフェスティヴァル初日に配られたプログラム誌に掲載されていた挨拶。その目出度き初日を聴いてきました。オープニングに相応しい大曲が並んだプログラムは以下のもの。
ボッケリーニ/弦楽五重奏曲ホ長調G275
シューマン/ピアノ五重奏曲変ホ長調作品44
~休憩~
シューベルト/弦楽五重奏曲ハ長調D956
チェロ/堤剛
ピアノ/若林顕
弦楽四重奏/クァルテット・エクセルシオ
上記アカデミーのディレクターを務める堤剛と、同じくコーチング・ファカルティに指名された若林顕とクァルテット・エクセルシオが総出演するお披露目コンサートでもあります。
「室内楽の庭」はこの後、これからの室内楽を担う若手によるデビュー・コンサートが4日間、アメリカの俊英パシフィカ・クァルテットによるベートーヴェン・マラソン、ボザール・トリオのピアニストだったプレスラーによるワークショップとリサイタル、室内楽良い処取りのエンジョイ・プログラムと続き、フェスティバル・ソロイスツによるフィナーレで締め括られます。
6月4日から19日までの2週間ちょい、フィナーレ(大ホール)以外は全て室内楽専用の「ブルーローズ」がステージ。
初日は室内楽の常連に交じって知った顔、見た顔、いつも以上に華やかな雰囲気に満ちていました。いつもこの位入れば、マイナーと言われる室内楽も人気度がアップするでしょうに。関係者の努力が実ることを祈らずにはおられません。
と言いながら、私は曲目が何であるかも確認しないまま出かけてしまいました。プログラムを開けてビックリ、何ともへヴィーなラインナップですが、聴いて良かった、心底そう感じたコンサートでしたね。
冒頭のボッケリーニ、彼の弦楽四重奏も弦楽五重奏も相当な数が残されていて、G275と聞いてもピンときません。しかし第3楽章のメヌエットが始まった時、“ああ、これなら知ってる” そう、あの曲ですよ。
オリジナルで聴けるのは珍しいことですが、思わず微笑んでしまいましたね。
聴きどころはここだけじゃありません。第1楽章アンダンティーノ(アモローゾと副題が付いてます)では2本のチェロがハイポジションで歌う個所があり、技巧的にも中々の難度と聴きました。二人のチェロ、ヴィオラの隣には堤が座り、こちらが第2チェロだと思われます。
2曲目は名曲中の名曲、シューマンのピアノ五重奏。弦楽四重奏はメンバーの大友に代わって堤が加わる、いつもとは変則のメンバー構成。エクは既にこの曲を小山実稚恵とも河村尚子とも共演していて、十八番とも言える一品でしょう。
ところが今日はアプローチが少し違っていたように感じました。チェロが堤であること、ピアノが若林であることが影響しているのが当然でしょうが、テンポがゆったりとして全体に重心が低く、大人の雰囲気。
譬えは相応しくないでしょうが、これまでは新しいLPで聴いていたのに、今日はかつて東芝から出ていたGRシリーズで聴いているような感じなのです。大家の落ち着きとでも言いましょうか。
前半の2曲だけでも十分満足しましたが、後半にはシューベルト晩年の大曲。これも実にスケールの大きな、堂々たる名演でしたね。
チェロは役割を代え、堤が第1、大友が第2という陣容。特に堤の朗々たるチェロは、後ろの席で聴いていても琴線を揺さぶります。良い楽器は遠くまで響くと言われますが、今日の堤もその好例でしょう。
もちろん大友の楽器が劣るというのではなく、若手との共演で御大が一層若返ったのでしょう。良い刺激を受けて堤のチェロが一段と巧くなった、と言ったら叱られるでしょうか。
いつまでも鳴り止まない拍手。堤が“アンコールをやりたい気持ちは山山ですが、シューベルトの大曲の後では・・・” と挨拶してお開きに。アンコールを聴きたい気持ちも山山ですが、大曲が並んだプログラムに聴き手もへとへと。
6時から始まったコンサート、ホールを出たのは8時半を回っていました。何とも心地良い疲労感。今後の室内楽の展開が楽しみです。
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