無敗のフランス・ダービー馬

昨日の日曜日、シャンティー競馬場で仏ダービーが行われました。金曜日のオークスから3日間連続のクラシック、記事更新のペースが早すぎますが、仕方ないことですな。

この日のシャンティーはダービーを含めてパターン・レースが5鞍組まれていましたが、順序としてダービーから始めましょう。この日の馬場発表は soft 、フランスでは雨が降ろうとコースに散水するのが当たり前ですから、日本のような硬い馬場は望めません。
それにこの日のパリは異様に暑かったそうで、それが影響した馬もあったようです。
行われたパターン戦5鞍の全てで1番人気の馬が負けるという珍しい結果になったのも、あるいは気温が、あるいは馬場が影響したのかも知れません。

今年の仏ダービー、ジョッケ・クラブ賞 Prix du Jockey Club (GⅠ、3歳、2100メートル)は16頭が出走してきました。未だ距離が2400メートルだった当時と比べれば多頭数ですが、去年に比べれば少ない頭数です。
フランスは馬券システムが現在のものに変更されてから、出走頭数は最大20頭に制限されています。現実にはシャンティーやロンシャンのように広い競馬場ではそれ以上の頭数でも可能ですし、馬券のためというのは理不尽だという意見もあり、去年の仏ダービーは23頭立てでした(実際には1頭取り消して22頭)。
しかしながら頭数が多ければレース中の不利や事故は避けられず危険、という考えもあり、何かと物議を醸しているフランス競馬ではあります。もちろんダービー距離の短縮に根強い反対意見もありますしね。
その距離短縮が多頭数に繋がっているのも事実でしょう。いわゆるマイラーにもチャンスはあるし、クラシック距離を得意とする馬は当然狙ってきます。

ということで、今年のバージョンには仏2000ギニー馬ティン・ホース Tin Horse と愛2000ギニー馬ロデリック・オコンナー Roderic O’Connor も出走してきました。前者は3番人気、後者が2番人気です。
2頭のクラシック・ホースを差し置いて48対10の1番人気に支持されたのは、アガ・カーン所有のバラーン Baraan でした。これまで3戦2勝、ラ・フォース賞(GⅢ)の勝馬でダラカニ Dalakhani の仔、明らかに距離が伸びて力を発揮するタイプでしょう。

レースはデットーリ騎乗のカサメント Casamento が緩みないペースで飛ばします。これを内からムーア騎乗のロデリック・オコンナー、外からは前日エプサムで手柄を立てたバルザロナ君が乗るアブソリュートリー・イエス Absolutely Yes が追走する展開。
しかし結果的にはペースが速かったのか、先行馬は総崩れとなり、道中包まれる不利がありながらも外に回したリライアブル・マン Reliable Man が鋭く追い込んで差し切り勝ち。一旦は先頭に立ち勝利目前に見えたバブル・シック Bubble Chic が4分の3馬身差の2着。
更に2馬身離れた3着争いは熾烈で、3頭がほぼ同時に雪崩れ込みます。写真判定の結果、3着は本命のバラーン、4着コロンビアン Colombian はハナ差、5着ティン・ホースもハナ差でした。
逃げたカサメントは9着、これを追ったロデリック・オコンナーも8着に沈んでいます。

混戦を制したリライアブル・マンは、今年の4月に同じシャンティーでデビューしたばかり。そのあとサン=クルーの小レースにも勝って3戦無敗の仏ダービー馬という勲章を手にしましたが、パターン・レースの挑戦そのものが初めてでした。それでも79対10の4番人気に支持されていたのは、未知の魅力が買われていたからでしょう。
同馬を管理するアラン・ロワイヤー=デュプレ師にとっては6勝目の仏ダービー、これまでの5勝はいずれもアガ・カーンの所有馬でしたが、今年の勝馬のオーナーはプライド・レーシング・クラブ、所謂共同馬主の団体なのでしょうか。
師のこれまでの勝馬、1984年のダルシャーン Darshaan 、1985年のムクター Mouktar 、1987年のナトルーン Natroun はいずれも名手サン=マルタン騎手で、2003年のダラカニ、2006年のダルシ Darsi は共にスミオン騎手で勝ったものでしたが、今年のジョッキーはジェラール・モッセ。そのモッセ騎手は1996年のラグマー Ragmar に続く二度目の仏ダービーです。

師によれば、デビュー戦に勝った時からダービー馬になるべく素質を感じ、ここ一本に絞って調整してきた結果の由。次走がパリ大賞典になるのは当然でしょう。
リライアブル・マンは、1番人気になったバラーンと同じダラカニ産駒。ダラカニは1・3着ということになります。

惜しかったのは2着のバブル・シック。何とこれで6戦連続2着という銀メダル・コレクターですね。しかも前走の2着は、グレフュール賞でのプール・モア Pour Moi に次ぐもの。プール・モアがエプサムを制したことを考えれば、仏ダービーのレヴェルが想像できますね。
しかもバブル・シックはチチカステナンゴ Chichicastenango の仔、チチカステナンゴと言えば一昨年の仏ダービー馬ヴィジョン・デ・タ Vision d’Etat の父でもあり、現在は日本で供用中。2頭目のダービー馬ならず。

それ以上に惜しかったのが本命で3着に終わったバラーンでしょう。スタートをミス、一時は20馬身も遅れながら、馬群に揉まれながらも猛追した末脚。実際、レース後にブックメーカーが出した凱旋門賞のオッズは、勝ったリライアブル・マンが12対1だったの対し、バラーンには8対1が提示されています。
明らかに負けて強しの印象を与えたバラーン、今後の動向に大注目です。

2番人気で惨敗したロデリック・オコンナーについては、ムーア騎手はあまりにも暑くて馬が参っていたことを挙げ、オブライエン師は同馬のスタミナに疑問を投げかけていました。いずれにしてもロデリック・オコンナーの今後は白紙でしょう。

三日連続で行われたクラシック、いずれ各馬の血統はプロフィールの形で紹介しますが、勝たれてみればどれもクラシック血統ばかり。リライアブル・マンの2代母はオークス、愛オークスのフェア・サリナイア Fair Salinia であることを予告しておきましょう。

仏ダービーが長くなりましたので、他は出来るだけ短く。レース順に行きましょう。

ダービー前に行われたロヨーモン賞 Prix de Royaumont (GⅢ、3歳牝、2400メートル)。
未だキャリアの浅いステイヤー牝馬による10頭立て。5対2の1番人気はエプサムの英雄バルザロナが騎乗したエイヴォングローヴ Avongrove でしたが、最後方から追い上げるもプール・モアほどの伸び脚は見られず4着止まり。

優勝は32対5のテストステローネ Testosterone 、3馬身差2着にシェゲイ・ハズ Chegei Has (読み方が判りません、一応こうしておきます)、更に2馬身差3着はカンパニラス Campanillas 。
勝ったテストステローネはパスカル・ベイリー厩舎、ステファン・パスキエの騎乗で、先行馬をマークして直線で抜け出す安定したレース内容。牝馬の長距離路線で今後の活躍が期待できそうです。

続いては仏ダービーが終わってからのパターン・レース3戦。

サンドリンガム賞 Prix de Sandringham (GⅡ、3歳牝、1600メートル)は仏1000ギニーと同じ条件の一戦。
7頭が出走し、5対2の1番人気には未勝利戦に勝っただけの1戦1勝馬で、仏ダービーを制したばかりのデュプレ師が管理するパンテュール・アブストレート Peinture Abstraite (抽象画家?)が選ばれていましたが、勝ったのは59対10のインモータル・ヴァース Immortal Verse
半馬身差2着はミックスト・インテンション Mixed Intention 、更に2馬身半差3着に本命パンテュール・アブストレートの順。

インモータル・ヴァースはロベール・コレ厩舎、オリヴィエ・ペリエの騎乗で、最後方からの追い込みが見事に決まりました。2着も後方から追い込んだ馬。
同馬は1勝馬でしたが、仏1000ギニーに挑戦(11着)していた馬、ロイヤル・アスコットのコロネーション・ステークスに登録があり、直ぐにGⅠクラスに戻ってくるでしょう。

この日四つ目のG戦は、シャンティー大賞典 Grand Prix de Chantilly (GⅡ、4歳上、2400メートル)。8頭立てのメンバーの中に、去年の凱旋門賞4着馬ベーカバッド Behkabad の名前があります。
そのベーカバッドが9対5で1番人気。

レースは前走ブリガディア・ジェラード・ステークスでワークフォース Workforce の2着したポエト Poet が逃げましたが、最後はベーカバッドとシルヴァー・ポンド Silver Pond の叩き合いになり、優勝は78対10のシルヴァー・ポンド。ベーカバッドは頭差2着でした。
3着は更に4馬身の大差が付いて去年の勝馬アライド・パワーズ Allied Powers 。

ベーカバッドはGⅠ勝ちのペナルティー6ポンドを背負っていましたから、同斤なら文句なく勝っていたはず。シーズン初戦としては満足すべき結果で、去年の凱旋門賞上位馬は全て(ナカヤマフェスタは除いて)順調に新シーズンを迎えたと言えましょう。
ベーカバッドはこの後サンクルー大賞典かキングジョージに向かう予定。

一方勝ったシルヴァー・ポンドはカルロス・ラッフォン=パリアス師の管理馬で、鞍上はオリヴィエ・ペリエ。ペリエは一つ前のサンドリンガムに続きパターン・ダブル達成です。
シルヴァー・ポンドは去年のオカール賞に勝った馬で、3歳シーズン後半を棒に振り、今シーズンはここまで3戦、フランス古馬戦線の王道を歩んできました。即ち、エクスバリー賞、ダルクール賞、ガネー賞。夫々3・4・5着と着順を落としてきましたが、ここで復権。次はサンクルー大賞典になりますが、この日は斤量差に恵まれてのもの、パリアス師もその点は良く承知しています。

最後は短距離のグロ=シェーヌ賞 Prix du Gros-Chene (GⅡ、3歳上、1000メートル)。
1頭取り消して14頭立て。以前から何度も紹介しているように、短距離界は英国が断然優位を誇ります。3対1の1番人気はイギリスのイングザイル Inxile 、この馬を調教するデヴィッド・ニコラス師はこのレースを2006年のモス・ヴェイル Moss Vale 、2009年のタックス・フリー Tax Free でも制しており、人気の支えになっていたのは当然です。

レースは大激戦、4頭が並んでゴールインして写真判定に持ち込まれましたが、優勝は有利なスタンドに近いラチ沿いを通った地元のウィズ・キッド Wizz Kid でした。フランス馬ということで19対1の穴馬。
2着から4着までは英国勢が独占し、2着プロヒビット Prohibit (ロバート・カウエル厩舎)、3着に本命のイングザイル、4着ハミッシュ・マクゴナガル Hamish McGonagal (ティム・イースタービー厩舎)の順。

短距離馬は手薄と言われるフランス勢でも、ウィズ・キッドを管理するロベール・コレ師はこのレース5勝目と健闘。勝利騎手はイオリッツ・メンディザバルでした。コレ師はこの日、サンドリンガムに続くパターン・ダブルです。
また、勝ったウィズ・キッドは2頭出走していた3歳馬の1頭。2・3着の古馬勢との9ポンド差はキロにして4キロほどでしょうか。昨日の東京(安田記念)でも3歳馬リアルインパクトが古馬相手に見事優勝しましたが、同じような結果がフランスでも起きたことは面白い事実ですね。

上位に健闘した馬たちは、それぞれロイヤル・アスコットに向かうでしょう。短距離界の激戦は続きます。

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