サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン フィナーレ

梅雨の晴れ間の日曜日、サントリーホール・ブルーローズで行われてきたチェンバーミュージック・ガーデンのフィナーレを聴いてきました。6月7日にオープンした今年の庭、数えると全部で21回のコンサートや公開マスタークラスなどが聴けたことになります。
私は17日のゲストコンサートと、昨日のフィナーレだけを鑑賞。熱心に毎回通われたコアな室内楽ファンには少し申し訳ない気持ちも感じているところです。

フィナーレはフェストの締め括りとあって総花的、巨匠から今旬の音楽家、そしてこれからの若手総出演の豪華な顔ぶれでした。曲目と演奏家をリストアップすると、

①アイヴス/ピアノ三重奏曲
②ショスタコーヴィチ/弦楽四重奏曲第2番
③ゴリホフ/ラスト・ラウンド
     ~休憩~
④武満徹/そして、それが風であることを知った
⑤ヴィヴァルディ/ヴァイオリン協奏曲集「四季」から第1番「春」、第2番「夏」

以上の5作品、音楽世界旅も兼ねたプログラムが休憩を挟んで次々に披露されていきます。演奏家も曲替りで、以下の面々。

①アルク・トリオ(ヴァイオリン/依田真宣、チェロ/小野木遼、ピアノ/小澤佳永)
②パシフィカ・クァルテット
③パシフィカ・クァルテット+クァルテット・エクセルシオ+吉田秀(コントラバス)
④フルート/佐久間由美子、ヴィオラ/川本嘉子、ハープ/吉野直子
⑤ライナー・キュッヒル(ヴァイオリン・ソロ)+CMGアンサンブル

最後を締めたアンサンブルは、長老を囲む若手アンサンブル+αということで、次の皆さんたちでした。即ち、
CMG(Chamber Music Garden)アンサンブルのメンバーは、
第1ヴァイオリン/依田真宣、北見春菜、平野悦子、外園萌香
第2ヴァイオリン/小形響、福崎雄也、東山加奈子、花田和加子
ヴィオラ/高橋梓、福井萌、吉田有紀子
チェロ/中美穂、鎌田茉莉子
コントラバス/吉田秀
チェンバロ/古藤田みゆき

最初のアイヴスは意外に聴く機会が多いようにも思われます。3楽章構成で、何と言っても「TSIAJ」と題されたスケルツォが聴きどころ。“This Scherzo is a Joke”の頭文字を並べたもので、アメリカ民謡の断片が次々と出てきます。
どれも一瞬、ほんの一部なので、“あ、今の知ってる。何て題だっけ”と頭の引き出しを探している内に次が飛び出すという具合。例えば「懐かしいケンタッキーの我が家」とか、日本では「久しき昔」として歌われていた曲。「ほたるの光」もチョロッと出ましたよね。

個人的にはボザール・トリオのLPなんぞで聴いてきましたが、取っ付き難い顔つきの割にはユーモラスな音楽。因みに楽譜をアイヴスの出版社であるピア Peer のホームページで探すと、スコアは売り譜が無いもののパート譜は手に入ります。傑作なのはジャンルで、「室内楽」ではなく「コメディー」とおるのがこの三重奏曲の真骨頂でしょう。
更に言えば、プログラムなど一般的には「ピアノ三重奏曲」と書かれますが、正式なタイトルは唯の「Trio」ですね。偶々編成がピアノ、ヴァイオリン、チェロだったということみたい。クスッと笑えるような演奏が理想なんでしょうねェ~。アルクの3人、皆さんどう聴きました?

次はパシフィカのショスタコーヴィチ。先日サルビアで腹一杯堪能しましたから、サントリーはその復習。改めて今旬カルテットの凄みに大感激でした。サルビアより若干速目のテンポに聴こえましたが、気の所為かしら? それともホールの違い?
改めて思うのは、何処でも良いから彼等でショスタコ全曲演奏会をやってくれッ!! ということ。何とかなりませんか?

パシフィカと言えばショスタコーヴィチは全集を完成していてホワイエでも売られていましたが、次の新譜はメトロポリタン・オペラの首席ジルとのモーツァルト+ブラームスのクラリネット5重奏。ホームページではプロモーション・ビデオも配信していますから是非ご覧あれ。女性プロデューサーもチラッと登場してます。これも出たら買わなきゃね。

前半の最後は楽しみにしていたゴリホフ。実はこれが聴きたくてチケットを早割で買ったようなもの。今旬2大クァルテットにコントラバスの第一人者という願っても無い組み合わせ、やはり圧巻でした。
「ラスト・ラウンド」というタイトルは、アルゼンチンの作家フリオ・コルタサルのボクシングをテーマにした短編小説から採ったものだそうです。この小説を読めば内容が判るんでしょうが、日本語で読めるのかしら?

ラスト・ラウンドと言いながら全体は2ラウンド構成で、前半が熱狂的なモヴィード・ウルジェンテ、後半は「天使の死」と題されたゆったりした音楽。2つの楽章は切れ目なく続きます。
この前半だけを収録したCDがあったり、先日アカデミアで衝動買いしたスコアは後半だけだったりと、作品の経緯が今一つハッキリしません。あるいは第3ラウンドが書き加えられるのか、もう少し詳しいことも知りたいと思った次第。
いずれにしても今秋にはゴリホフの「アイナダマール」が日生劇場で日本初演されますし、それに合わせて作曲家も来日したり関連企画があったりと、今年はゴリホフ・イヤーになりそうな予感がしますね。

後半の開始は日本に戻って武満作品から。この組み合わせは指摘されなくともドビュッシーが晩年のソナタで組み合わせたもので、当然ながらフランスの大先輩の響きと比較してしまいます。
冒頭にハープが奏する6つの音が核になっていて、新ウィーン楽派の「音列」とは全く異なる世界。音と静寂とが絶妙に配置される、武満ワールドに暫し聴き惚れました。

最後は西洋音楽の最先進国イタリアに戻ってヴィヴァルディ。キュッヒル御大を若手が囲みます。左右に2プルトづつのヴァイオリンが立ち、下手に3本のヴィオラ、上手に二人のチェロが座り、奥にコントラバスとチェンバロ。上下両奥には二人の吉田氏が要を占めますが、夫婦じゃありませんよ、念のため。
四季は全曲ではなく、春と夏だけ。若手の熱気に些か煽られ気味の御大でしたが、そこはそれ、腹芸で見事に纏めます。
どんな世界でも共通でしょうが、長老は敬わなければいけません。心なしか熱演に頭の光も一層輝きを増したような印象。いつまでもお元気で。

アンコールは“もう一丁”ということで夏のフィナーレで本当のフィナーレとなりました。また来年、次はミロですぜ。

追記:連日のコンサート、毎回全ての演目を紹介した同一プログラムが配られるのですが、演奏曲目リストは必ず偶数ページから始まり、曲目解説は奇数ページで終わる配列。
どの日もプログラムには栞が挟んであり、そこを開ければその日のプログラムが見られるという配慮が施されていました。一冊のプログラムに複数公演の内容を全て掲載してしまうというやり方は結構ありますが、今回の(私が初めて気付いただけかも)配慮は、中々に心憎いものと感心しました。これが日本風のオモテナシなんでしょう。気付かなかった人もあるでしょうが、ヒッソリとした心配りにこそ拍手を送りたいと思いました。

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