外山雄三の世界

昨日は珍しくN響を良い席で聴いてきました。こういう機会でなければ会員でもない私がサントリーホールでこのビッグ・オケを聴けるチャンスは無いのです。
主催はNHKとNHK交響楽団という王道、それでも良席をゲットできたのはこんなプログラムだからでしょうか。

昨年傘寿を迎え、今年はN響入団60年となる作曲家/指揮者である外山雄三を祝う記念のコンサート。客席も普段の定期とは違う(多分そうだと思います)雰囲気に包まれていました。

≪外山雄三の世界≫
~音楽とともに~
外山雄三/ノールショピング交響楽団のためのプレリュード(1991)
外山雄三/ピアノ協奏曲(1984)
外山雄三/管弦楽のためのラプソディー(1960)
     ~休憩~
トーク~映像とともに
外山雄三/交響曲「帰国」(1965)
 管弦楽/NHK交響楽団
 指揮/広上淳一、外山雄三(交響曲のみ)
 ピアノ/中村紘子
 トーク・ゲスト/池辺晋一郎
 司会/壇ふみ

ホールに入ると正面、P席を覆うように大型スクリーンがセットされています。従ってP席の販売はありません。それでも席の隅々は空席があり、N響と雖も「現代音楽?」は集客に苦戦することが窺われます。あ、N響だからか。
ということで前半は外山の弟子にあたる広上の指揮、作曲年代を遡るように3曲が続けて演奏されました。とは言ってもテレビ収録が入るコンサート、曲間には壇ふみが実にリラックスした司会で作品を繋いでいきます。

冒頭は広上が1991年にスウェーデンのノールショピング響の首席指揮者に就任した際に、その披露演奏会(1991年9月19日)で世界初演された曲。広上自身が外山に作曲を依頼、広上の両親の出身地である富山の民謡(こきりこ節)を織り込んだ9分ほどの作品です。
私は同響の日本ツアーに際して録音されたCDで楽しんできましたが、ナマで聴くのは初めて。それもそのはず、今回が日本初演なのだそうです。

演奏後に広上が司会の質問に答えたところによれば、世界初演は大成功だった由。客席もスタンディング・オヴェーションで迎えたそうな。それから20年、東京の聴衆は遥かに冷静に受け止めたようです。

続いてはピアノ協奏曲。これは演奏前に紹介があり、独奏の中村紘子も初めて演奏するとのこと。譜面を置いての演奏となりました。
外山にはピアノ協奏曲第1番(1961)とピアノ協奏曲第2番(1963)とがありますが、今回のものはそれとは別、実演を想定した最初のピアノ協奏曲ということで番号はありません。もちろん私は初めて聴きました。

構成は単一楽章ですが、ワルツ風な経過句もあり、抒情的で美しいメロディーも登場、外山独特の民族的気品も湛えた中々の内容でした。
ソロの中村は相変わらず、ダイナミックなアクションを伴っての演奏。彼女の場合、実際のピアノ音色に加えて演奏姿がポイントで、実演を見て、聴いてこそのピアニストという印象に変わりはありません。
休憩後のトークで感想を求められた彼女、“外山さんの優しさが溢れているじゃありませんか” と評していましたっけ。

前半の最後はお馴染みラプソディー。何度聴いても「嬉し恥ずかし」の名品で、いろいろな意味で外山を、いや日本を代表するオーケストラ・ピースだと思いました。広上の指揮なら尚更のこと。

後半の前にトークがありました。それまで登場していなかった外山翁ご本人と、N響アワーで一世を風靡した二人のコンビ、これに途中から中村紘子も加わっての四重奏です。

話題は外山氏のN響との係わりや、1960年の同団の世界一周演奏旅行のこと。スクリーンに若き外山、中村はもちろん、岩城宏之や堤剛氏の初々しい姿が映し出されて客席のどよめきを誘います。
有名なルツェルンでのクレンペラー逸話に、池辺氏がダの字の付く洒落で突っ込む。アイザック・スターン、ゲザ・アンダ、ウィルヘルム・ケンプとのエピソードも池辺氏の茶化しが・・・、という具合。

このコンサートは8月26日にBSプレミアム「特選オーケストラ・ライブ」で放映されるそうですが、この危ないトークもオン・エアされるのでしょうか。失礼ながら演奏よりも面白いクァルテットではありましたね。

最後は作曲者自身の指揮による交響曲「帰国」。ラプソディーの発案だけでなく、この作品のタイトルも有馬大五郎氏の示唆によるものだそうです。

全体は4楽章、時々演奏されている作品ですが、私は録音も含めて初めて耳にするものでした。例によって日本民謡が引用されますが、第2楽章の「会津磐梯山」と第3楽章の「南部牛追い歌」がミソでしょうか。

私も若い頃は、こうしたあからさまな民謡の引用には抵抗を覚えたものですが、還暦を何年も過ぎた現在はほとんど気にすることは無くなりました。歳を取ったということでしょうが、民謡の裏に隠された「何か」に耳を傾けられる余裕が出てきたのかも知れません。

1931年生まれながら未だ矍鑠、背筋をピンと伸ばしてオケに的確な合図を送る外山翁はまだまだ現役として活躍されるでしょう。若い世代に苦言を呈するのはずっと先のことで良いのじゃないでしょうか。
ところで演奏の最後に客席から花束ガールが登場しましたが、あれ、大谷康子さんでしたよ、ね?

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1件の返信

  1. まとめtyaiました【外山雄三の世界】

    昨日は珍しくN響を良い席で聴いてきました。こういう機会でなければ会員でもない私がサントリーホールでこのビッグ・オケを聴けるチャンスは無いのです。主催はNHKとNHK交響…

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