マエストロ・ゴスデン、圧巻のハット・トリック

快挙は午後2時40分、サンダウン競馬場で始まりました。

この所イギリスもアイルランドも雨ばかり。ウインブルドンからのテレビ中継も雨で中断していましたっけ、ね。で、ロンドン近郊、イングランド南部のサンダウン競馬場の馬場状態は good to soft 、場所によっては soft という重馬場でした。競馬が出来るだけ良し、とする状態でしょうか。

話は最初に戻り、2時40分にスタートしたレースはG戦ではなく、第3レースのコラル・チャレンジというハンデ戦。ここでトレード・コミッショナー Trade Commissioner という馬が快勝します。ジョン・ゴスデン厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗のコンビで、オーナーはレディー・ロッシルド&ニューセルズ・パークスタッド。父はモンジュー Montjeu 、母スピニング・クイーン Spinning Queen という実に美しい血統。

この15分後、2時55分にイングランド中部、リヴァプールに近いヘイドック・パーク競馬場でパターン・レースのランカシャー・オークス Lancashire Oaks (GⅢ、3歳上牝、1マイル3ハロン200ヤード)のスタートが切られました。オークスと言っても古馬にも出走権のある中距離戦です。
こちらも馬場は soft 、サンダウンよりも重い馬場状態。9頭が出走し、フランスからディープインパクト産駒の4歳馬アクアマリン Aquamarine (アレ・フランス賞GⅢ勝馬)も遠征してきました。

レースは1番人気(11対4)に支持されていたグレート・ヘヴンズ Great Heavens がぶっちぎりの逃げ切り勝ち。付かず離れず2番手を追走していたシメリング・サーフ Shimmering Surf が差を詰めにかかりましたが、直線では離される一方の5馬身差2着。スタートして間もなくズルッと後退したように見えたエリザベス女王の持馬セット・トゥー・ミュージックが後半で追い上げましたが1馬身4分の1差届かず3着。中団の内を進んだアクアマリンはバテて9着のシンガリ負け。
勝ったグレート・ヘヴンズは、15分前にもサンダウンで勝ったジョン・ゴスデン師の管理馬。しかもオーナーは同じくレディー・ロッシルドとニューセルズ・パーク牧場。騎手は流石にビュイックではなく、ラブ・ハヴリン。この時点で、ゴスデン師は北と南でダブルを達成したことになります。
更に注目はグレート・ヘヴンズの血統。父ガリレオ Galileo 、母マニフィシェント・スタイル Magnificient Style と言えば、去年キング・ジョージを制したナサニエル Nathaniel の一つ年下の全妹という良血です。年齢を加えるごとに能力を向上させていくファミリーで、3歳の今シーズンは前走ニューバリーのリステッド戦(ほぼ10ハロン)を含めて3連勝。夏から秋にかけて更なる飛躍が期待できそうです。
因みに、ゴスデン師はビュイック騎手とのコンビで去年のランカシャー・オークスをガートルード・ベル Gertrude Bell で制しており、2連覇達成となりました。

ランカシャーの勝利がサンダウンにも伝わった50分後、午後3時45分にメインとなるエクリプス・ステークス Eclipse S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン7ヤード)のスタート時間を迎えます。
レース前日までは前年の覇者ソー・ユー・シンク So You Think の独壇場と考えられていた一戦でしたが、大本命になるべき筈のバリドイルのエースが突然の跛行。陣営では直ちに登録を抹消し、豪州で種牡馬になるべく引退を発表。土壇場で主役を欠いたエクリプス、最初は失望感が漂っていました。
そんな中、1頭取り消しの9頭立てで1番人気(11対4)に支持されたのは、前走無敗で臨んだプリンス・オブ・ウェールズ・ステークス(GⅠ)でソー・ユー・シンクの3着したゴドルフィンのファー Farhh 。スタートで出遅れ、直線入口でも他馬と接触する不利があっての3着、鞍上デットーリのやや不本意な騎乗あっての走りでしたから、今回は雪辱可能との期待感でしょう。

そしてファーは陣営の期待通り前半後方2番手から直線では外に出し、鋭く追い込んできましたが、又しても前を走る馬を捉えることが出来ませんでした。2番人気(7対2)でエクリプスを制したのが、去年のキング・ジョージ馬ナサニエル Nathaniel 。そう、またもやジョン・ゴスデン厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗、レディー・ロッシルドの黄金トリオです。しかもランカシャー・オークスに勝ったグレート・ヘヴンズの全兄による兄妹G戦ダブル。師とオーナーは鮮やかなハットトリック。
2馬身4分の3差3着には2010年のエクリプス馬トゥワイス・オーヴァー Twice Over が入り、更に5馬身でシティースケープ Cityscape 4着。3・4着は同じハーリッド・アブダッラー殿下の持馬です。
去年のチャンピオン・ステークス(5着)以来の実戦となったナサニエル、もちろん今期初戦で、呼吸器に問題を抱える同馬を休養明けでキッチリ仕上げてきたゴスデン師の調教術と忍耐力には改めて目を瞠るものがありましょう。
逃げるゴドルフィンのペースメーカー、シティー・スタイル City Style の2番手に付け、直線早目に先頭、追い上げるファーとの最後の叩き合いは正に英国競馬。ビュイックとデットーリの死闘は手に汗を握りました。それにしてもビュイック、乗れてるなぁ~。

ナサニエルにはキング・ジョージ連覇の期待が掛かりますが、レース間隔は2週間しかありません。これだけハードな叩き合いを演じた同馬が万全の態勢で臨めるでしょうか。むしろヨークのジャドモント・インターナーショナルから秋のチャンピオン・ステークスというローテーションの方が現実的に思えます。
ところでナサニエルは一昨年のデビュー戦(ニューマーケット)であのフランケル Frankel に半馬身差2着になっていた馬なんですね。改めてこの新馬戦のVTRを見ましたが、横殴りの雨が叩き付ける中、フランケルとナサニエルの一騎打ちもまた見応えのあるものでした。尤もムチ一発、目一杯追っている(ように見える)ナサニエルに対し、フランケルはムチを入れることも無く、ほとんど馬なりで抜け出す強さには舌を巻きますね。このレース、先日ゴールド・カップを制したカラー・ヴィジョン Colour Vision も出走していたんですから、相当にレヴェルの高かった新馬戦だったと言えましょう。

さて、この日サンダウンではGⅠ戦に先立ってもう一鞍のパターン・レースが行われました。ザ・スプリント・ステークス The Sprint S (GⅢ、3歳上、5ハロン6ヤード)。1頭取り消して13頭立て。こちらもスリリングな結末になりました。

7対2の1番人気に支持されたのはデットーリ騎乗の4歳馬スピリット・クォーツ Spirit Quartz でしたが、優勝は10対1の伏兵で3歳馬のカレドニア・レディー Caledonia Lady 。ラチ沿いに何度も前を塞がれる不利がありながら、僅かな間隙を衝いて瞬発力を発揮し、外から猛追するコンフェッショナル Confessional をハナ差抑えていました。半馬身差で3着にこれまた3歳のフリー・ゾーン Free Zone が入り、本命スピリット・クォーツも好位追走ながら最後は交わされて半馬身差4着。2着は25対1、3着も16対1とかなり荒れた一戦でした。
先週カラーのサファイア・ステークス(GⅢ)で2着したジャッジン・ジャリー Judge’n Jury は逃げて11着。去年の勝馬で2番人気(9対2)に支持されたナイト・カーネーション Night Carnation も10着敗退。

カレドニア・レディーは、開業して未だ1年のジョー・ヒューズ厩舎。ヒューズ師にとっては最初のリステッド戦(エア競馬場のハリー・ローズベリー・ステークス、5ハロン)勝馬、そしてG戦初勝利をもたらしたのもカレドニア・レディーということになります。デビューはP・G・マーフィー厩舎で迎えた同馬でしたが、3戦目の去年7月からヒューズ師の管理下に移っていました。前走ロイヤル・アスコットのキングズ・スタンド・ステークス(GⅠ)は7着。
今回は女性騎手ヘイリー・ターナーの騎乗。7番手の内に包まれながら、巧みに馬を御し、僅かな間隔に思い切って突っ込む判断力と勇気は中々日本のジョッキーには見られないもの。ターナーにしてもビュイックにしても、本場一流のジョッキーの腕はやはり一枚も二枚も上と評されるべきでしょう。

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3件のフィードバック

  1. ショウ より:

    こんばんは。 詳しいレース内容、関係者のコメント、毎回楽しみに読ませていただいています。
    フランケルのデビュー戦の映像をどうしても見たいんですが、どこで見たか教えていただけませんか??

  2. メリーウイロウ より:

    ショウ 様
    コメントありがとうございます。早速ですが、
    スポーティング・ライフのホームページはご存知ですか? 先ずこちらをクリックしてください。
    http://www.sportinglife.com/racing/news/
    トップページの一番左側の欄にあるプロフィール・サーチ Profile Search をクリックすると、様々なタグで検索することが出来ます。
    通常は「Horse」に設定されていますので、ここで検索欄に馬名を入力してください。
    すると、当該馬の全成績が表示されます。
    この成績蘭の右端にカメラのマークが付いているレースの映像を見ることが出来ます。カメラマークをクリックして下さい。
    この映像は Racing UK で放映されたもので、ドンカスターやアスコットは放映権の関係からか Racing UK では見ることが出来ません。それらは Youtube で探してください。

  3. まとめtyaiました【マエストロ・ゴスデン、圧巻のハット・トリック】

    快挙は午後2時40分、サンダウン競馬場で始まりました。この所イギリスもアイルランドも雨ばかり。ウインブルドンからのテレビ中継も雨で中断していましたっけ、ね。で、ロンドン…

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