東フィル・第808回定期演奏会

新年三つ目のコンサート通いは、東京フィルハーモニー交響楽団のサントリー定期です。サントリーホールは今年初見山。創立100周年を記念した「日本の力」シリーズも残り3か月になってきました。
1月定期は今や最長老に数えられる外山雄三翁の登場です。プログラムは、

外山雄三/チェロ協奏曲
     ~休憩~
マーラー/交響曲第5番
 指揮/外山雄三
 チェロ/宮田大
 コンサートマスター/三浦章宏

外山は前日の東京オペラシティ定期シリーズ(第66回)でもマーラーをメインで振っていますから、二日連続のコンサート。前日のカプリングは外山自身の第2ヴァイオリン協奏曲(ソロは松山冴花)でしたから、二日間聴けば氏の代表的協奏曲を2曲聴けることになります。初日も聴きたかったのですが、マーラーを連日聴くのは流石に辛いのでパス。
(12日のオペラシティ定期は後日NHK-FMで放送される予定)
プログラム誌から引用すれば、第2ヴァイオリン協奏曲は東フィルが初演(独奏は海野義雄)した作品であり、この日演奏されたチェロ協奏曲は外山/東フィルがロストロポーヴィチと共演した演奏会が作曲の切っ掛けになった由。東フィル100周年に相応しい選曲と言えましょう。

そのチェロ協奏曲、紹介したようにロストロポーヴィチが勝手に自分のために協奏曲を書く約束を取り付けてしまい、1967年1月にモスクワで放送初演(もちろんロストロ御大のソロ、作曲家自身指揮・モスクワ放送交響楽団で)されたもの。演奏会初演は同じコンビにより、同じ1月13日にチャイコフスキー・ホールで行われました。
この音楽会には病身のハチャトゥリアンも臨席し、外山に“面白かったよ”と言ってくれたことが、外山自身の解説でプログラムに掲載されていました。

作品は全部で6楽章。第1楽章は無伴奏チェロ独奏で始まるロストロポーヴィチを意識したもの。第2楽章はティンパニのリズムが日本の盆踊りや阿波踊りを連想させる開始。第3楽章はいわゆる緩徐楽章で、日本風なメロディーが懐かしく聴かれます。
面白いのは第4楽章、チェロ・ソロは弓を置き、全編ピチカートで通します。しかもピチカートだけで奏される短いカデンツァも。再びメロディックな第5楽章から、作品はアタッカで全曲を締め括る「大団円」(ロストロさんの意向)に突入するのでした。

ということで独奏部分はロストロポーヴィチ用に書かれたものですが、この日のソリスト・宮田も新しい感覚で作品に新風を吹き込んでいたと思います。

楽器編成が掲載されていましたので後学のために転載しておくと、フルート2、ピッコロ、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、テューバ、ティンパニ、打楽器(シンバル、トライアングル、グロッケンシュピール)、ハープ、弦5部、チェロ独奏。

後半のマーラーはマエストロ・外山の特性が良く出ていたと同時に、私にとってはサプライズも感じられたもの。中々聴き応えのあるマーラーでした。

前半とも言える最初の3楽章は如何にも外山らしい速目のテンポで、時にはぶっきら棒にも感じられるほどイン・テンポで押していきます。流石に第3楽章は1小節1拍を基本に振りながら、中間部では三つ振りも交えての造形。
意外だったのは第4楽章のアダージェット。速目のテンポであっさり処理するかと思いきや、スコアの指定通り「きわめてゆっくりと」丁寧に弦楽合奏をコントロールしていきます。それでもユダヤ系指揮者のようにコッテリした表現は取らず、あくまでもクールに造形美を整えていくのは外山の真骨頂でしょう。私が最も好むタイプのマーラー表現です。

第5楽章も堂々たるもの。テンポは極端に速くも遅くもなく、頂点のコラールも敢えてテンポを落とすことなく、一気呵成の結末に突き進みます。オーケストラも力演、特にブラス・セクションは東フィルとしては最高水準じゃないでしょうか。

本当のところは判りませんが、マエストロはこれだけの熱演にも拘らず汗一つ搔かず、ケロッとしてオーケストラを讃えます。今年81歳になる翁は、相変わらず背筋がピンと伸び、舞台の出入りも矍鑠たるもの。あの濃紺の燕尾服も健在。

客席も大きな拍手で応えますが、東フィルの会員が好ましいのは殊更に歓声を挙げないこと。某Y響のファンのように蛮声ブラヴォーで感銘を台無しにすることが無いのに好感が持てますね。
既に次のシーズンのプログラムが発表され、新規会員の募集も始まっていますが、私ももう一シーズンはお付き合いしようと考えているところです。

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください