グラインドボーンのビリー・バッド
パルシファルの翌日、プロムスは映画音楽特集でしたので当方はパス。一日置いて8月27日の公演を今聴き終えました。オペラが二日続くのはかなりキツイので、このローテーションは助かります。
今年のプロムス、オペラの演奏会形式はこれが最終回。どうもセミステージの公演だったようで、毎年ゲストとして登場するグラインドボーンのグループがブリテンの生誕100年記念公演を引っ提げての登場です。
≪Prom 60≫
ブリテン/歌劇「ビリー・バッド」
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮/サー・アンドリュー・デイヴィス
グラインドボーン祝祭歌劇場
ジャック・インブライロ(ビリー・バッド)
マーク・パドモア(ヴィア船長)
ブリンドリー・シェラット(ジョン・クラッガート)
スティーヴン・ガッド(レッドバーン)
デヴィッド・ソアー(フリント)
ダレル・ジェフリー(ラトクリフ大尉)
アラスデア・エリオット(赤ひげ)
ジョン・ムーア(ドナルド)
ジェレミー・ホワイト(ダンスカー)
ピーター・ギスバートセン(新米水夫)
コーリン・ジャドソン(スクィーク)
リチャード・モスリー=エヴァンス(甲板長)
ブリテンの歌劇、確か去年はピーター・グライムズがありました。ところでブリテンの歌劇はいくつあるか? どうも数え方で異説があるようですね。
例えば三省堂のクラシック音楽作品名辞典には16曲とカウントされていますが、つい先日デッカが65枚のCDセットを組んだブリテン全集では10曲をオペラに分類しています。
三省堂の「乞食オペラ」「オペラを作ろう」「ノアの洪水」「カーリュー・リヴァー」「燃える炉」「放蕩息子」は、デッカ盤全集ではステージ作品として分離していますね。特に最後の3作は教会寓話三部作ということで、純粋なオペラとは見ていません。
今回演奏されたビリー・バッドは紛れもないオペラですが、日本で上演されることは将来に亘っても無いでしょう。男だけのオペラ、いじめがテーマのオペラ、と言えば人気が出そうにはありませんからな。
ネットで検索すると、退屈だとか、難解だという意見に遭遇しますが、決してそんにことはありません。女だけのオペラにはプッチーニの「修道女アンジェリカ」があるように、男だけのオペラがあっても良いと思います。
アリアが無いという声もありますが、例えば第2幕の最後のシーン、ビリー・バッドが処刑を目前にして歌うモノローグは、カヴァラドッシの「星は光りぬ」だと思えばよろしい。真に美しいアリアです。尤も今回のインブライロはやや声が掠れ気味で、少し辛い部分もありましたが・・・。
男ばかりだから色恋は無縁かというと、そうでもないのが流石にブリテン。第1幕第2場のヴィア船長の歌も、愛の歌として聴くこともできるかも。ちと、無理か。
一方で第1幕第3場のクラッガートはイヤーゴの信条みたいだし、最後の処刑の場面もアイーダを連想させなくもない。
今回通して聴いた印象は、ワーグナーより余程オペラ的で、むしろモーツァルトやヴェルディの好きな人には受け入れ易いのでは、と思った次第。スコアを参照しながら聴くと、決して飽きることはありません。私も休憩は飛ばしてプロローグ、全2幕、エピローグを一気に聴いてしまいました。
演奏も良く磨かれていて見事。今や英国の巨匠たるデイヴィスは、先のティペット「真夏の結婚」に続くヒットでしょう。
全幕が終わった後、あの熱狂的プロムスの聴衆がほぼ1分間の沈黙を守ったことが、何より演奏の素晴らしさを物語っていたと思います。ま、ヴィア船長が舞台上手に退場して行く場面も含めての全曲ということもあったでしょう。
カーテンコールでシェラットにブーイングがあったのは、歌が拙かったからではなく、クラッガートという登場人物に対してのブー。それだけシェラットの悪役表現が素晴らしかったことの証でもあります。
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