日本フィル第588回定期演奏会

日本フィルの新シーズンが幕を開けました。サントリーホール改修に伴って、今回からの5回は初台の東京オペラシティコンサートホールで開催されます。そのことはまた後ほど。
この5回シリーズのもう一つの目玉は、毎回モーツァルトの交響曲が取り上げられること。生誕251年ですね。少し捻くれているという・・・。

第588回定期は、正指揮者・沼尻竜典の指揮、ピアノ・ソロに児玉麻里を迎えて、シェーンベルクのピアノ協奏曲、バルトークのバレエ組曲「中国の不思議な役人」、モーツァルトの交響曲第41番「ジュピター」です。コンサートマスターは扇谷泰朋。

いきなりシェーンベルクですね。いかにも沼尻プロ。私はナマでは初体験、間違いありません。そもそも演奏される機会が稀なもので、日本初演と思しきものは1986年5月の新日本フィルの定期、マウリツィオ・ポリーニのソロと小澤征爾の指揮でした。おぉ、そんなのがあったのか、という感じですが、これは聴いていません。因みにこのときはマーラー第5との組み合わせでした。
あとは都響が野平/高関でやっていますが、これも聴いていません。

そのシェーンベルク、なかなか面白いじゃないですか。尤もこういう曲はいきなりコンサートで巡り合って楽しいか、というのはチト無理があるようです。周りの反応も“良く判らない”というのが主流でした。
事前にマエストロサロンで聴きどころを聞いていたこと、スコアをザッと見ながらCDも聴いておりましたので、全体像はシッカリ捉えることが出来ましたね。
数日前の日記に書いた箇所、ピアノのハーモニックスも明瞭ではないにせよ、こういう風に聴こえるのかと納得しました。
響きがくぐもる効果、というのでしょうか、ホルンの弱音器付き和音とハモるんですね。
しかしここは余程事前に頭に入れていないと、それと確認するのは難しいでしょう。ほとんどの聴衆はそのようなテクニックが使われていたことに気が付かなかったと思います。

ソロの児玉さん。ケント・ナガノ夫人ですよね。日本で教育を受けなかった人で、新しいタイプのピアニストでしょうか。
シェーンベルク好み?の衣裳で登場、譜面を置き、自分で捲りながら演奏していました。ほとんど暗譜しているのでしょうねぇ、時折客席を向いたりしている。
アクションがかなりオーバーで、多分日本で教育を受けていれば是正されていたでしょう。これが良いのか悪いのか判りませんが、見ている方は少し気になります。大体手が長過ぎますね。何かテナガザルを見ているよう、と言ったら大変失礼になりますが、器用に使いこなして難曲をサラリと弾いたという印象です。

バルトーク。これは良かった。新版による初めての演奏だそうですが、何処が変わっているのかは判りません。
特に最後の追跡シーンのスピード感は大したもので、これがバルトークの指定したテンポなのだそうです。
このホールでは音が直接にぶつかってくるので、私の席(1階15列18番)では思わず仰け反ってしまいます。

休憩後のモーツァルトは編成を減らした14型ですが、量感の不足は全く感じません。むしろモーツァルト・サイズがこのホールには最適だと思いました。日本フィルが会場変更を上手く利用していることに感心します。
日本フィルのジュピターは定評のあるもので、ロココ風な典雅なスタイルとは一線を画してきました。渡邉暁雄さんの残した録音もダイナミックな演奏ですし、ルカーチ、広上などの音源も聴くことが出来ます。どれもプログラムのメインに相応しい極めてシンフォニックな演奏ですが、この夜の沼尻ヴァージョンも負けず劣らず大きな構えで臨んだジュピターでした。

使用した版もいつもの日本フィルのものではなく、沼尻氏が三鷹で活動している東京モーツァルトプレイヤーズのパート譜を持ち込んだのだそうです。ということは、安永徹氏のボウイングによるもの。素人の私にはどこがどう違うのかは分かりませんが、オーソドックスながら新鮮な瑞々しさに溢れたモーツァルトです。

ということで、新シーズンが無事に船出しました。
サントリーホールの改修は全てのオーケストラに会場変更を強いていますが、これを最も巧く利用しているのが日本フィルでしょう。
これを機会にシーズン制そのものを見直しますし、コンサートの日程も変更します。技術的な日程変更だけでなく、音楽監督も任期を終えますし、かなりの数のメンバー交替があります。
プログラムのスタイルも一新しましたね。表紙に使う小澤さんのイラストは同じながら、サイズが小振りになりましたし、内容にも変化がありました。

それを象徴するように、フルート・セクションの二人の新入団員が発表されていました。この日のジュピターはその一人、難波薫さん。共に美女だし、これからの日本フィルの看板に育っていくことに期待しましょう。
最初からサントリーを会場にしていない東京シティフィルを別にして、ほとんどのオケが会場を遷すだけだし、オケによってはシリーズそのものを休止してしまうところもあります。
その中で、心機一転という気概が感じられるのは日本フィルだけなんですよ。

 

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