日本フィル・第38回九州公演

先週の木曜日から昨日までの3日間、日本フィルの九州公演を聴いてきました。と言っても実際に会場で聴いたのは以下の2公演、金曜日は私的な九州プチ観光に充てたのですがネ。

2月14日(木) アクロス福岡シンフォニーホール
ブラームス/ヴァイオリン協奏曲
     ~休憩~
チャイコフスキー/交響曲第5番
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ヴァイオリン/竹澤恭子
 コンサートマスター/木野雅之

2月16日(土) 佐賀市文化会館大ホール
グリンカ/歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番
     ~休憩~
ドヴォルザーク/交響曲第9番
 指揮/アレクサンドル・ラザレフ
 ピアノ/河村尚子
 コンサートマスター/木野雅之

日本フィルが日本全国を回るツアーを開始したのが38年前、現在では北海道も関西も恒例ツアーは終了し、継続しているのが2月の九州公演であることは御承知の通り。
私は3年前のツアーを初体験しましたので、今回が二度目と遠征となりました。
残念なことに前回は異常な濃霧発生により長崎に間に合わず、聴けたのは福岡の1公演のみ。今回はその雪辱戦でもありました。巡演する都市は毎年異なるため、今回の選択は日程とプログラムから上記のようになった次第。もちろん指揮者ラザレフ、そして二人の日本を代表するソリストの魅力に惹かれての参戦でした。

結論から言えば、真に素晴らしい体験でした。演奏の内容について深くは立ち入りませんが、ラザレフの指揮、ソリストの存在感、オーケストラの練り上げられたアンサンブル、両会場の熱心で暖かい聴衆、その全てに心が熱くなる体験です。

ラザレフのツアーは3年前に続いて二度目ですが、前回は九州では未だ認知度が今一つだったようで、今回と比較すると会場に若干の戸惑いがあったようです。曲目が「くるみ割り人形」ながら滅多に演奏されないピースが並んだのも原因だったかも知れません。
今回は天下の名曲を並べ、ほとんどの会に名解説者である奥田佳道氏によるプレトークを配したのが奏功、九州の佳きクラシック・ファンに、これから聴くコンサートが如何に「旬」な体感であることが確実に伝わりました。

氏の解説は、ラザレフ/日フィルのコンビが東京では大変な話題になっていることからスタート。“ラザレフ/日フィルを聴いたか?”が首都圏クラシック・ファンの挨拶になっていることを紹介します。
その例として先の1月定期で金土の二日間公演のチケットが売り切れになったというエピソード、福岡ではこの個所で会場にどよめきが起きたほど。
佐賀では、マエストロ・ラザレフが登場する所から彼の音楽がスタートするのです、との確信を衝いた指摘。正にその通りにコンサートが開始し、マエストロのエンターテイナーとしての資質も十二分に楽しんだ客席になっていました。

奥田氏のプレトークが所謂「ヨイショ」でないことは、日本フィルの圧倒的な熱演によっても証明されます。

さてアクロスは私共にとっては二度目。前回はやや右寄りの席でホールの印象としては薄かったように記憶しますが、今回は後方ながらほぼ中央に寄った位置。やや固目ながらも良く響く音響であることに改めて気が付きます。
いつもはサントリーやみなとみらいホールで聴いている日フィルの響きが、ここでは別の趣で新鮮に響くことにも感心。オーケストラとホールとの微妙な違いを経験するのも極めて重要なことだと考えさせられました。

14日は、今回ツアーでは竹澤恭子の初登場。私自身も久し振りの竹澤に期待が膨らみます。
今回は最近貸与されているストラディヴァリウス「ヴィオッティ」(1704年製)を駆使してのブラームス。本人は“未だ完全には熟れていない”とのことでしたが、いやぁ~、ストラッドの響くこと響くこと。その作品解釈、ラザレフとの丁々発止とも相俟って、真にスリリングな協奏曲でした。
ヨアヒムのカデンツァにしても、普段聴き慣れているよりのが嘘のように集中力の高いもの。全曲が終わると、解き放たれたように客席からの大歓声。地方公演でこれだけの拍手喝采を体感するのも嬉しいものです。
今回のツアーで竹澤/ラザレフの共演を聴ける九州のファンは幸せです。東京じゃ聴けないんですからナ。

チャイコフスキーの第5はラザレフの独壇場。鳥肌立ちっ放しのチャイコフスキーでした。
アンコールは白鳥の湖から4羽の白鳥の踊り。東京のファンにはスッカリお馴染みになったマエストロのユーモラスな指揮に、会場も演奏中から笑い声が溢れます。当然ながら熱狂的な“ブラヴォ~”が。

佐賀はツアー全般を任されてきた河村尚子の最終日。奥田氏によれば、彼女はロシア語もペラペラで、リハーサルではラザレフとロシア語での打ち合わせなのだとか。それだけロシアの魂に精通した河村のラフマニノフ、悪かろうはずがありません。
そもそも私が佐賀を選んだのは、このホールの音響が素晴らしいことを度々聞かされていたから。そのことは楽員諸氏も、ツアーを率いたことのある指揮者たち(ルカーチ、ロッホランも含めて)も口を揃えて賞賛していたもの。
プレトークで先ず奥田氏が語ったのもそれでしたし、会場に入って御挨拶した平井専務理事の最初の一言もホールの音響についての話題でした。

序曲で始まるプログラム、マエストロは指揮台に飛び乗ると同時に両手をオケにぶつけます。会場の拍手も終わらない内に。
猛スピードで突き進む爆演。終わりも痛快で、ラザレフ御大はサッと客席を向き、聴衆も呼応して音楽が鳴り止む前から拍手が爆発。全てがマエストロのペースで進められます。

そして見事な河村のラフマニノフ。次回のラザレフ/ラフマニノフ・ツィクルスでのパガニーニ・ラプソディーが待ち遠しくなる名演でした。
この日はソリストもアンコール。曲はショパンの遺作として知られるノクターンで、ホールの適度に残響を伴った美しい響きに思わず落涙する始末。彼女こそ天性の歌うピアニストと言えましょう。

この日のメインはドヴォルザーク。既にラザレフでは東京でも聴いた作品ですが、ダイナミズムと構成力に優れた演奏に、ホールの響き云々は忘れてしまうほど。やはりラザレフは他の指揮者とは違う!
オーケストラのアンコールは、ブラームスのハンガリー舞曲21番。そう、ドヴォルザークか管弦楽にアレンジしたものですね。これでキチンと整合性を付ける辺りもラザレフならでは。

演奏会が終了し、暫くはホワイエで楽員氏とホール談義。何とも素晴らしい音響ですが、利用度の観点から見れば“何とも勿体無い”。
JR佐賀駅の北方、運動施設などと併設されたロケーションですが、交通の便は必ずしも良いとは言えず、周囲に食事が出来る施設もほとんど無い会場。
公演の告知も必ずしも十分とは言えず、会場に来なければ何が開催されているか判らない状態。この辺りは関係者の更なる創意工夫が望まれる所でしょうか。

ということで、折り返しに差し掛かった日本フィルの九州公演、今日(17日)の大牟田の後は大分、宮崎、鹿児島と続きます。全11公演、ラザレフは大好きなウォッカを絶ってツアーを成し遂げるでしょう。
マエストロによれば、ウォッカは“美味しいウォッカと、とても美味しいウォッカの2種類しかない”のだとか。冒頭からマチネーが3回続いて些かバテ気味の楽員を叱咤激励して進軍するラザレフとその仲間たち、全国から応援に駆け付けるファンをも魅了し続けるのでした。

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