N響ロマンティック・コンサート

「N響ロマンティック・コンサート」というのを聴いてきました。3月15日、サントリーホールです。
主催がサントリーホール、協賛が三井住友VISAカードということで、タイトルには三越カードクラシックシリーズとあります。
そのためでしょうか、関係企業の就職内定者と思しき若者の集団がP席に陣取っています。帰りも遭遇しましたが、何やら引率者風の人物がいて、きっと全員に“コンサートの感想をレポート用紙何枚に纏めるように”なんて示達するんでしょうね。
これでクラシックが嫌いにならなきゃいいですが・・・。

コンサートそのものは二部構成。前半はバンドネオン奏者であり作曲や編曲もするという小松亮太がソロを務めます。
曲目は3曲、小松自身の作品「夢幻鉄道」に始まって、ピアソラの「リベルタンゴ」を小松が編曲した版で。最後に同じピアソラのバンドネオン協奏曲というもの。
私はバンドネオンとアコーディオンの違いも良く判らないタンゴ音痴ですから、これらの曲と演奏についてはほとんど感想を持てません。
ただ、広上淳一の指揮するN響は最初からかなり乗り乗り状態で、演奏そのものは視覚的にも大いに楽しめました。
尤も、こういう曲で乗らなかったらどうしようもありませんからね。客席の反応もよろしい。

小松の自作品は「鉄道系」のイメージで、いかにも電車が疾走するような趣。短い作品で、あっという間に終わりました。
リベルタンゴは近頃の流行りのようですが、私はどうも関心がなく、初めて聴きました。
小松によると、これはタンゴと題されているもののスタイルはほとんどロックで、原曲をそのまま弾くのでは呆気なさ過ぎる由。で、小松自身がアレンジしたわけ。
小松の工夫が60%、ピアソラ自身のアレンジが10%、以下もろもろのアイディアをパクりつつ仕事をしたのだそうで、自らプログラムに紹介していました。特に感想無し。

バンドネオン協奏曲はピアソラのオリジナル。まぁ、タンゴとクラシックの中間でしょうか。3楽章構成で、楽章が終わる毎に客席から拍手が起きていました。こういう曲ではこれが自然なのでしょう。第2楽章(モデラート)のあとでは、指揮者の広上もタクトで拍手していましたから。
以上、前半はクラシック・ファンにとっては、いつもとは素材も味付けも異なるディッシュを味わいましたとさ。という感想。とはいえ、小松亮太という奏者はテクニックもあり、エンタテイナーとしての素質もあるようで、大熱演。アンコールを弾くほどの余力は残っていなかったようです。そりゃそうでしょう、3曲タップリ、大変な重労働でしたから。

後半はムソルグスキーの展覧会の絵1曲。もちろんラヴェルのアレンジ。これは文句無いでしょう。
最近の皆様の演奏評ではN響の粗さを指摘されているものも見受けますが、この会については、それは杞憂でした。各パートもさすが名人オーケストラだけあって安定していますし、聴かせ所のソロも決まっていましたね。
広上の解釈も至極真っ当なもの。展覧会の絵だからといってコケオドシ的表現は微塵もありません。それでいて絵一枚一枚の描写はワクワクさせるし、カタコンブあたりから最後のクライマックスまでの盛り上げ方は手に汗を握るに充分スリリングなものです。

しかし私がこの日最も感動したのは、アンコールに演奏されたボロディンの夜想曲でしたね。もちろん第2弦楽四重奏曲の緩徐楽章を弦楽アンサンブルにアレンジしたもの。
特に中間部に入って、細かく階段を昇るようなテーマが各パートに鏤められていく場面。ハッとするような美しさと情熱、全体の構成感の捉え方、ムソルグスキーで高まった感情を抑えるようでいながら、新たな昂ぶりを聴衆に植え付けていく憎々しさ。完全に広上マジックの虜になってしまうのでした。
N響の弦楽も素晴らしいですねぇ。これに文句を付けたら罰が当たりますよ。コンサートマスターは篠崎史紀、チェロ首席には藤森亮一が座っていました。最高!!!

ねぇ、どこかのレコード会社さん。「広上淳一/アンコール傑作選」というアルバム作ってくれませんかね。ホントにこの人は、何でもないようなアンコールピースから絶妙な美しさを引き出してしまう名人です。思い出すだけでも、アンダンテ・カンタービレ、カヴァレリア・ルスティカーナ、過ぎにし春、ロザムンデ間奏曲、リュートのための古代舞曲とアリア・・・。
エッ、どうです?

 

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