千葉の隠れ里でチェロを聴く

梅雨入り目前、5月の最終日曜日、小旅行を兼ねてチェロを中心とする室内楽を楽しんできました。クァルテット・エクセルシオのチェロ奏者・大友肇氏が昨年「齊藤秀雄メモリアル基金賞」を受賞、その記念演奏会が上野で開催された際に、プログラムに挟まれていたチラシで知った演奏会です。
その内容は、

第35回おしゃべりカフェ
生命の森「長柄四季音楽祭」
チェリスト大友肇コンサート

というもので、会場は千葉県長生郡長柄町にあるホテルトリニティ書斎とのこと。どんな所か全く見当もつきませんでしたが、取り敢えずチケットだけ確保しようと会場に電話したところ、代金やチケットは当日でOKの由。普通のコンサートとは違う遣り取りに些か戸惑いながらもこの日を迎えました。
さて長柄町ってどうやって行くんだ、と思案しましたが、電車やバス(ホテルから無料の送迎バスが出る、とチラシには書いてありました)を乗り継ぐより車を使った方が便利と判断してカー・ナヴィゲーションに任せることに。

当初の予想とは違って、東関道の宮野木インターを経由して京葉道路に入り、曽我で降りる。あとは一般道を茂原方面に向かって30分ほど行った途中、という指示。高速を降りれば辺りは田んぼと新緑、こんな所にホテルや演奏会場があるのかと訝りつつも、大仏通りという不思議な道路を突っ切ると、突然現出したのが良く見るリゾート地。
ナビ君の「目的地周辺です」という案内に見回すと、そこはもう一際高層建築が目立つ「ホテルトリニティ書斎」の駐車場でありました。様子が判らないので朝8時に出ましたが、現地に付いたのは9時45分ごろ。時間が掛かったのか、意外に速かったのかの判断も付かない状況。

先ずはホテルのフロントで主旨を伝えると、ホテルは会場を提供しているだけで演奏会とは無関係とのこと。しかし開場時間には受付を開始するので、詳しいことはそこで、との事。なるほど会場の2階へ上る階段下には演奏会を知らせる立て看板が据えてあります。
未だ10時前で時間は有り過ぎるほど。初めて脚を踏み入れた長柄町を探索することにしました。もちろんカメラ持参。

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サッと見回しただけでも、ここが東京から2時間弱かと思うような自然の中。近年開発されたリゾート地の顔付はしていますが、所々に昔の趣を残した自然林も点在するという立地。三々五々散策している人もあり、住民と思われる方がウォーキングする姿も。これが何時もより賑っているのか、ガラガラ状態なのかも見極めが付きません。新緑の眩しい日曜日の昼前です。
ホテルの前に目立つのが、翠州亭とラク・レマン・プールと称する施設。何で千葉にレマン湖なんじゃ、と思いながら覗いてみると、翠州亭の読みは「スイス亭」の洒落。古民家風の建物は旧スイス大使館の建物で、昭和5年に広尾に建てられたもの。広尾の再開発とスイス大使館新築のために解体される運命だったところを、スイスと日本の交流のシンボルとして昭和53年にスイス大使館が当地ふるさと村に寄贈され、現在はレストランとして使用されているのだそうです。

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それで庭前にあるプールの名称がラク・レマンで、プールもスイスのレマン湖を模した横に細長い形状になっていることに納得。恐らく亭が移築されてから造成されたと思われる庭は、ツツジを中心にした回廊式のもので、この日は花の盛りは過ぎていましたが、満開時にはさぞや、と思われる眺めでした。

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耳を澄ませばウグイスが啼き、遠くからはホトトギスの囀りも聞こえる。目を凝らせば庭にはゴマダラチョウやイチモンジチョウも飛び交うという具合で、虫好きの官能に火が付いた感じ。都会では見ることも無いアカハナカミキリやジガバチも飛んでいる。ジガバチがいるということは芋虫毛虫が豊富だということで、「生命の森リゾート」という地域名称も嘘じゃないということが判ります。
辺り一帯はホテルが経営しているコテージやロッジが並び、週末を自然の中で過ごしたい人には東京からの立地も良く、密かな穴場なのかもしれません。今回は使用されませんが、プールの先には「森のホール」という200名ほどは入れるステンドガラスに飾られた瀟洒な演奏会場もありました。

隣接するスポーツ施設や遊び場のターザニアなどもあり、自然とスポーツを楽しみたい人にも一日遊べる仕掛けが整えられている様子。子供も大人も楽しめる自然の中の巨大遊園地とでも言った所でしょう。
更に歩くと、「季まぐれ MAX」という喫茶店を発見、暫くここで休憩と決め込みました。人品良い老夫婦が経営しているカフェで、長柄町の歴史など貴重な情報をゲット。どうやら当初は成田飛行場に関係する人たちの住宅や別荘地として開発されたみたい。もちろん紆余曲折があったようですが、都会から近い閑静な自然の中と言うことで、名前は言えませんが各界の有名人も住まわれているとのこと。“へぇー、そうなんだ。知らなかったなぁ~”というのが正直な感想。
それでいて立派な病院や学校もあり、地元の食材も近くで手に入るとのことで、リタイヤードにとっても恰好な隠れ里なんでしょうね。

小腹が空いたのでホテルに戻り軽食、と思いましたが予約客で一杯。閑散としているようで、実は満席と言う意外な事実にも直面します。そこで近くの食事処に入ると、巧そうな匂い。夏季限定の夏野菜カレーを頂きます。やはり地元採れたて野菜ということで小腹も大満足。
腹ごなしに更に散策を進めると、何と最近はほとんどお目にかかれなかったゼフィルスを目撃。未だ写真に収めたことの無いウラナミアカシジミの新鮮個体の撮影に大感激のメリーウイロウでありました。

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ということで漸くコンサート・タイム。以下の2時間はチェロの美しい響きに身を委ねました。

主催:真名カントリークラブ
企画・おしゃべり:日比野和子

サンマルティーニ/チェロ・ソナタ ト長調
バッハ/無伴奏チェロ組曲第3番からプレリュード、サラバンド、ブーレー、ジーグ
シューマン/アダージョとアレグロ
~休憩~
ベートーヴェン/ピアノ・ソナタ第8番「悲愴」より第2楽章
バリエール/2台のチェロのためのソナタ ト長調
メンデルスゾーン/チェロ・ソナタ第2番
チェロ/大友肇
ピアノ/野本哲雄
第2チェロ/大友裕子

司会進行の日比野さんは、クラシック音楽の解説と言う敷居の高い話ではなく、地元密着の飾らない紹介に好感が持てる方。この日のメインである大友肇氏は、実はホテルからは車で5分ほどの近くに住まわれている方。夫人である裕子氏も地元に根差したゴーシュ音楽院を経営され、夫妻で大人にも子供にもワン・コイン・レッスンという方式で楽器を教えているのです。
伴奏の野本氏も同音楽院の講師の一人で、大友氏とはここ1年ほど共演を重ね、これからもベートーヴェン、ブラームスと大作に取り組んで行く予定と聞きました。

この日は京都から駆け付けた大友ママへの突撃インタヴューもあって、音楽じゃなく子育て法の話題に会場も大爆笑。
更に言えば、使用されたピアノはホテル常設のヤマハのアップライトですが、今回は一から調律をやり直し、より響くように前面の蓋を外しての演奏。意外にも自動ピアノ演奏の装置が付いた珍しい楽器で、野本氏は“何かあったら自動ピアノに切り替えます”と会場を笑わせていました。

演奏曲目に付いては大友氏の短い解説があり、バロックのサンマルティーニからロマン派のシューマンまで、レアものも含めて多彩なプロ。後半は野本氏のソロ、肇・裕子夫妻のデュオという飛び入りもあり、特に2台チェロのバリエール作品は初めて耳にしたもの。急緩急の3楽章から成る中々聴かせる作品で、中程度の音楽辞典には掲載すら無いバリエールという作曲を知る貴重な機会でもありました。
こういう会ですから、特別なアンコールも。2曲あり、最初は金婚式を迎えたばかりと言う日比野さんを祝ってマリーの金婚式。昔の教科書に載っていた懐かしい曲ですが、実に久し振りに聴きました。
もう一つは今日の演奏者3人が揃うペルゴレージの2台チェロとピアノのためのソナタから、というもの。2台チェロとピアノというレパートリーはほとんど存在せず、ペルゴレージ作品も何かのアレンジだろうという話。詳しいことは判りません。

演奏会はこれで終了、というワケではなく、ホテルの別室を使用してケーキと飲み物が付いて演奏者たちとの歓談タイム。ここで味わったチーズケーキと生チョコは絶品でしたよ。
歓談では大友夫妻にママも加えてゴーシュ音楽院の話題で盛り上がります。ママから“すぐ下の川にホタルが乱舞してとってもキレイ。是非寄って行ってよ”と誘われましたが、帰りが遅くなるので小1時間ほどで辞去。
来た道を逆行するルートで帰宅しましたが、大仏通りに面した「房の駅」で地元野菜をゲットしたのはもちろんです。

このあと長柄町では月1回程度のペースで各種室内楽のコンサートがあり、9月20日には同じく大友/野本デュオでゴーシュ音楽院コンサートシリーズ、10月4日には上記森のホールでエクセルシオ・メンバーによるコンサートが予定されています。
豊かな自然の環境の中で良い音楽を聴きたいみなさん、是非長柄の四季音楽祭にお出かけ下さい。

音楽会の案内、ゴーシュ音楽院については下記ホームページからどうぞ。

http://gauche5.wix.com/music

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