シュトゥットガルト放送交響楽団・来日公演

私は海外団体の来日公演は、原則として行きません。チケットの高さの割には曲目が陳腐。これに尽きます。
タイトルの団体についても、来るということは聞いていましたが、無関心でした。ところが公演の1週間前、親会社のお偉いさんから“都合がつかなくなったので”ということで、招待状が回ってきました。ノリントン、と聞いて気が進まなかったのですが、まぁ、仕事と考えてサントリーホールに足を運びます。演目はこんな具合。
東芝グランドコンサート2008 特別ご招待公演
シュトゥットガルト放送交響楽団
 サリヴァン/歌劇「近衛騎兵隊」序曲
 ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番
      ~休憩~
 ブラームス/交響曲第1番
  指揮/ロジャー・ノリントン
  独奏/小菅優
表記の通り、これは一般には売らない、完全買い切りの招待公演です。ぶらあぼにも載っていません。東芝の優良得意先と顧客に対する接待兼広告宣伝が目的なんでしょう。
ホワイエに入る所でチケットを切り、入場すると主催者と思しき団体のお偉いさんが出迎えています。いかにもホールを全部買い切ってるぞ、という風情。嫌な予感。そのお出迎え連中をヂロッと睨みつけて着席します。1階20列の左側、後ろから数えたほうが早い位置ですね。
舞台を見ると、予想した通り、コントラバスが最後方に横一列に並んでいます。ウィーンのニューイヤーコンサートと同じ並び。ティンパニが右奥の雛壇の上、いつものコントラバスの辺りに二組。小さい組はベートーヴェン用でしょうが、バロック・ティンパニではないようで、変なのぉ~。
座席は全席招待ということで、隅から隅まで完売、じゃないや配りこぼし無し。立錐の余地もありません。1階平土間の「いかにも」という客層とは違い、P席には地味な身なりの若い人たちが占めていますので、社員総動員だったのか知ら。
やおらオケのメンバー入場。一斉にパチパチパチ・・・。これ、曲目が代わるごとにやられるのでウンザリします。私が海外団体来日公演嫌いになった理由の一つ。
ノリントン登場。この人初めて見ましたが、意外にヨボヨボで如何にもメタボリック。大丈夫かいな。
最初のサリヴァン。真につまらない曲で、気のせいか、いやに金属的でうるさい音がするオケです。
さて配置転換。ピアノが運ばれてきます。ところが何と、反響版を取り外してあり、客席に背中を向けて据え付けます。そう、指揮者が弾き振りするときの配置。ヴァイオリン(当然ながら両翼配置)は左右共ピアノを囲むように、これも客席に背中を向けています。
指揮者はどうするかと言えば、木管の前、ピアノとチェロの間にストールを置いて、客席に向かって指揮をします。当然ながら指揮者の指示が見えないパートも多数あります。おいおいおい、こんな滅茶苦茶あるのか!
登場した小菅、一旦戸惑ったような様子でしたが、前日は仙台でも演奏しているはず。サントリーだけの特別配置だったんでしょうかねぇ。
弦楽器の数は、確か8-8-6-4-4。要するにノリントンを囲んで、ソリスト以下全員が輪になって音楽を奏でる、ということなんです。
こういう配置をやられると、少なくとも私の席ではほとんど音楽が聴こえません。かぶりつきはさておき、1階は皆そうだったんじゃないでしょうか。何と表現したらよいか、ヘッドフォンを鳴らし、耳に当てずに聴いている状態。箱庭的コソコソ音楽。
小菅、冒頭を和音でなくアルペジオで始めたのは、ノリントンを意識したのか指示されたのか。何しろ背中しか見えないんですからね。
第1楽章が終わると盛大な拍手。ノリントン自らパチパチやってます。そおかぁ、ベートーヴェンの時代には楽章毎に拍手したんですね。さすが作曲当時のスタイルに拘る人。みなさん、ノリントンで古典派の曲を聴くときは、楽章が終わる度に拍手しましょう!!! 勉強になったなぁ。
第3楽章でトランペットとティンパニ登場。出た出た、コチコチの撥で叩く太鼓の爆裂音とビーッ、という汚いトランペットの刺激音。これが好きでたまらない人もいるんでしょうねぇ。
第2楽章のテンポ。これはマーチでしょうか。少なくとも小菅のテンポじゃないでしょう。彼女の4番は去年の札幌で聴きました。あれは良かったけれど、今日は別人。
これじゃ拍手は出来ませんね。止せばいいのにアンコール。リストの「鬼火」でしたが、蓋無し後ろ向きで聴いてもねぇ~~~~。
よほど帰ろうかと思いましたが、思い止まってブラームス。
オケの編成を紹介しておきます。弦5部は、12-12-10-8-8、だったと思います。コントラバスが8人いるのに、ヴァイオリンは第1も第2も12人づつ。要するにバス・へヴィーです。
これに対し木管は倍管、フルートからファゴットまでは4人で吹きます。当然ながら、普段聴いているブラームスとはバランスがまるで違います。弾いて出す音より吹いて出す音の方が大きく聴こえる。まぁ、手品でしょう。
ノリントンは作曲当時のスタイルで演奏すると言っていますが、楽譜通りということではないようですね。第1楽章も第2楽章もオッソロシク速いテンポで始めますが、第1楽章の最後など止まってしまうほどにギア・ダウンします。強弱もスコアは完全無視。第2楽章の頭のホルンにはゲシュトプフ奏法を要求して目先を変えていました。
決め所ではティンパニを思い切り強打。またこのティンパニストが滅茶苦茶上手い人で、最後の和音など“やったあー、どうだあー”と言わんばかり。
ノリントンもいろいろ派手な仕草で見せます。しかし音楽的にはほとんど意味がなく、これまた手品の一種という感じ。
ノリントンのブラームス、見て楽しく聴いてビックリですが、精神的なものは一切なく、表面的なこけおどしで出来上がっているように感じました。この手品に皆騙されているようですね。何でもN響がほれ込んで再客演するそうですけど、私はノーサンキューですね、この男。
そんなわけですから、アンコールのブリテン「マチネ・ミュジカル」は面白かった。この夜のベスト。大昔の日本フィルのテーマ曲です。
時間を気にする素振りを見せながらノリントンがもう1曲アンコール。シューベルトのロザムンデでしたが、これはブラームスと同じノン・ビブラートの素っ気無いもの。
それにしてもベートーヴェン酷かったなぁ。“金返せ”、と言いたいところだけれど、タダで聴いたんだから文句は言えません。そうそう、内容ゼロのプログラムもタダでくれましたよ。
今日は晴海、クセナキスと武満で口直しですな。

 

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