読響・聴きどころ・番外編

 創立45周年シーズン、現時点では芸劇マチネーを残していますが、ほぼ終了。4月から新シーズンが開幕します。聴きどころシリーズ・トピック、“もう結構”という声もないようですから、性懲りもなく、もう一シーズンは続けようと思っていますので、よろしく御願いします。
ということなんですが、いきなり番外編やります。4月5日と6日に行われる芸劇マチネーとみなとみらいホリデー名曲の演目から、ブルックナーの第2交響曲。滅多に演奏されない作品ですし、スクロヴァチェフスキのブルックナー連続演奏会の一環。この機会に取り上げないと、次は何時になるか判らない名曲ですからね。ブルックナー第2だけ限定の聴きどころです。できるだけ簡潔に。
例によって日本初演ですが、
1974年11月15日 札幌市民会館 ペーター・シュヴァルツ指揮・札幌交響楽団・第143回定期演奏会。
そう、札幌で初演されたのですねぇ。2年後に朝比奈/大フィルとサヴァリッシュ/N響が続きます。
楽器編成はブルックナーの定番。
フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦5部です。いわゆる2管編成の標準的なものです。
ブルックナーに付きものの稿と版の問題。これは後でチョコッと触れましょう。まず先に聴きどころ。
実は、私はこの第2交響曲が好きで好きで、晩年の7・8・9番よりも上に挙げたいくらいのものなのです。
ブルックナーの交響曲の特徴はいくつか挙げられます。例えば開始の仕方。俗に「ブルックナー開始」などと言われますが、トレモロで始まること、主題がチェロなどの低い弦楽器で歌われることですね。
更に第1楽章と第4楽章のソナタ形式による楽章では、主題がベートーヴェンの頃とは違って、三つあるということ。第1主題は男性的、第2主題は歌謡調の女性的なもの、第3主題はマーチ風の性格。曲によっては提示部の終結でも新しい主題が出るものもあります。
第2交響曲は、既にこうしたブルックナーの特徴が全部揃っているんです。7番や8番ほど有名でないのは、単にあまり演奏されないから、と言うのに尽きるような気がしますね。
特に聴いて欲しいのは、第2楽章でしょう。この主題の美しさ、音楽の深さ。第2は聴いたことないから行かない、などと言わず、是非多くの方に聴いて頂きたい。そう思います。
ところがブルックナーの第2楽章(緩徐楽章)は長い。これが苦手という方も多いと思います。そこで、乗り切り方を伝授しましょう。
一般に売られている解説書を読むと、第2楽章はソナタ形式とか、人によってはロンド形式と説明されています。そんなことはどうでもヨロシイ。一切忘れて下さい。
ではどうなっているかと言うと、ブルックナーの緩徐楽章は、ほとんどがA-B-A-B-Aという形になっています。つまり二種類のメロディーが交互に歌われ、全体が5部になっているのです。
実はこれ、ベートーヴェンがスケルツォ楽章を考え出した時に発明したやり方で、ベートーヴェンの第4、第6、第7がこの形になっています。ベートーヴェンの場合はスケルツォですから、スケルツォ-トリオ-スケルツォ-トリオ-スケルツォ、ですがね。ブルックナーはこの応用編です。
ですから皆さん、ブルックナーの遅い楽章が始まったら、最初のメロディーを楽しみ、次に別のメロディーが出てくるまで我慢して下さい。後は全体がより複雑に繰り返され、最後に最初のメロディーがもう一度登場し、クライマックスに至れば、あと少しで終了。
これを知っていれば、意外に短く感じられるはず。いつ終わるか判らないものを延々と聴かされるのは辛いものですが、今何処を航海しているのかが判れば、旅もまた楽しいものです。
ということで、第2楽章がオススメ。ここを乗り切れば、あなたも立派なブルックナリアンです。
あとは皆さん夫々に気に入ったメロディーを探して下さい。第1楽章の第2主題もいいですねぇ。第3楽章の中間部、トリオはヴィオラが素晴らしいメロディーを聴かせてくれます。なんたって、読響のヴィオラ群です。あなたを虜にしてくれるのは間違いないでしょう。
第4楽章の第1主題の雄渾さにも注目。いきなり出てくるのではなく、次第に盛り上がって大音量で爆発するテーマです。私が最初に痺れたのがこの主題。“カッコイイ”としか言いようがありませんね。
更に、この作品全体に宗教的な感情が感じ取れると思います。自身のミサ曲からの引用があるのですが、それがどの箇所ということまで意識する必要はありません。静謐と呼べるほどの哀しさ、厳粛な感覚を味わって下さい。

            楽譜2 013           楽譜2 014
                                (ハース版)                    (ノヴァーク版)

                 最後に稿と版について少し触れておきます。こんなことは気にしなくても結構ですが・・・。
ブルックナーの第2には二つの稿があります。1872年の初稿と1877年の第2稿。私が第4交響曲の聴きどころで紹介したカヒス番号に当て嵌めると、初稿は第4番、第2稿は第8番です。
この二つの稿の違いは、大雑把に言って第2稿の方が短く、聴き易くなっていることでしょう。何しろ初稿は、「休符交響曲」と悪口を言われたくらい、進んでは止まり、進んでは止まりする箇所が沢山あるのですね。
あと一点、初稿では第2楽章と第3楽章の順番が入れ替わっています。即ち、初稿では第1楽章の次にスケルツォが来ます。多分ベートーヴェンの第9に影響されたんだろうと思います。
次に版。例によってハース版とノヴァーク版がありますが、両者の違いはほとんどありません。実はどちらも、第2稿を中心としていながら、初稿の「美味しい部分」を未練たらしく残していて、そこを演奏してもカットしても良いようにしてあるだけ。
最近になって、キャラガンという学者が初稿と第2稿の両版を出版しました。私もこれを買って見比べましたよ。何と第2交響曲のスコア、私の手元にはハース、ノヴァーク、キャラガン1872年、キャラガン1877年と、4種類もあるのです。全く人騒がせな作品ですね。でもそれだけの価値はあります。

            楽譜3 018           楽譜4 001
        (キャラガン版/1877年稿)               (キャラガン版/1872年稿)

で、スクロヴァチェフスキはどの楽譜を使って演奏するのか、ということになりますが、これは本番を聴いてみないと判りません。確かにCDはありますが、基本的にはハース、楽章によってノヴァークも採用しているようですね。更に言えば、まだ出版前のキャラガン、即ち第2稿を中心としながら、初稿のアイディアも取り入れているようなところもあり、さすがスクロヴァ翁、と感心しているところです。
まぁ、そういう聴きどころは私のような変人に任せておいて、どうか皆様は第2交響曲の新鮮な魅力を堪能して下さいな。

 

          **********

 

 おっと、肝心なことを一つ書き落としていました。第2楽章の終わりのところです。
ここは弦楽合奏の ppp による静かな和音が鳴る中、ホルンが余韻を楽しむようにソロを吹くのですが、クラリネットで演奏される演奏もあります。
タネを明かすと、ハース版はホルンですが、ノヴァーク版はクラリネットが吹くように指定されています。
更に言えば、キャラガンによる初稿(第3楽章になりますが)はホルン、第2稿はクラリネットです。
思うに、ブルックナー当時のオーケストラは、ウィーン・フィルと雖もホルンは下手糞。というか、楽器の制約上、このソロはミスが出易かったと思われます。そこでブルックナーは周囲のアドバイスを受け入れてクラリネットに替えたんじゃないか。
スクロヴァチェフスキのCDはホルンに吹かせています。ハース版による、との根拠ですね。今回はホルンかクラリネットか、いや初稿か第2稿か、ということでしょうか。
読響のホルン、技術的には問題ないでしょう。私の予想では、ホルンが吹くと思いますがね・・・。目立つ箇所ですから、注意して聴いてみて下さい。

 

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