2016年ドバイ・レポート
当競馬ブログは先ずヨーロッパ、中でも英愛仏の三国と、アメリカが中心。日本の競馬はクラシック馬の血統紹介が目的です。
従って香港もドバイも、豪州や南米などの南半球の競馬も守備範囲外ですが、先の土曜日に行われたドバイのワールド・カップ・シリーズだけは簡単にレポートしておきたいと思います。
理由は単純。日本だけに限らず、アメリカやヨーロッパからも有力馬が多数参戦し、現地ドバイ勢も含めて絶好のレヴェル比較になったからです。
ドバイに付いては余り詳しくありませんが、毎年3月末に行われる国際レースのドバイ・ワールド・カップが創設されたのは1996年のこと。この成功によって爾後次々と各ジャンルに国際レースが設けられ、現在では8鞍の大きなレースが施行されています。
この地域には現在もアラブ血脈が活きており、ワールド・カップ・デイにはアラブ種によるレースが一鞍と、サラブレッド種によるG戦が8鞍行われます。もちろん紹介するのはサラブレットによるレースだけ。
2016年は8鞍の内、3鞍がGⅡ戦、5鞍がGⅠ戦という構成でした。今年は日本から6鞍に合計10頭が参戦し、ドバイ史上最多になったのはご存知の通り。ここではレース順に取り上げて行きましょう。
①ゴドルフィン・マイル(GⅡ) 3歳上、ダートの1600メートル。日本からの参戦が無かった2鞍の内の一つ。9頭が出走し、アメリカから遠征したマーキング Marking が1番人気でした。
ドバイでは原則として馬券発売はありませんが、ヨーロッパ流のブックメーカーを通しての賭けは通常通り行われているようで、オッズはそこで出されているもの。
人気のマーキングは去年の年末にサンタ・アニタのマリブー・ステークス(GⅠ)で2着したあとドバイに渡り2戦、最初は落馬でしたが前走のトライアルを圧勝して人気になっていたようです。
しかし結果は本命馬が4着に敗退し、勝ったのは地元の3番人気ワン・マン・バンド One Man Band でした。しかも1着から3着までは全て地元のダグ・ワトソンという英国人調教師の管理馬で、ドバイ勢が上位を独占してしまいました。
②ドバイ・ゴールド・カップ(GⅡ) 3歳上、芝の3200メートル。シリーズでは最長距離戦で、日本からはネオブラックダイヤが参戦。11頭が出走し、フランスから遠征したロワイヤー=デュプレ厩舎のヴァジラバド Vazirabad が5対4の断然1番人気でした。
ヴァジラバドは去年の仏セントレジャーを制した4歳牝馬で、ここでは実績も断然。目下5連勝、G戦も3連勝中で人気は当然でした。ネオブラックダイヤは33対1、10番人気と伏兵の1頭で、秋山真一郎が騎乗。共に遠征したミルコ・デムーロはドイツ馬のパラダイス Paradise で参戦していました。
結果は出遅れながらもヴァジラバドが後方一気の差し足で優勝。人気通りの実力を発揮し、GⅠ戦も2連勝達成となりました。今年のヨーロッパ長距離戦線でも活躍が期待できるでしょう。フランス伝統のステイヤー。
ネオブラックダイヤは3番手追走も勝負所では付いて行けず8着まで。デムーロのパラダイスも最下位でレースを終えています。
③UAEダービー(GⅡ) 3歳、ダートの1900メートル。このレースは5月の第1土曜日に行われるケンタッキー・ダービーの参加資格が掛かったレースで、1着から4着までは夫々100-40-20-10ポイントが付与されます。勝てばダービー発走枠に入るのは間違いなく、ここからケンタッキー・ダービーへと夢が広がるレースでもあります。
しかし出走馬は僅かに7頭。何と日本からはラニ、ユーチェンジ、オンザロックスの3頭が挑戦していました。8対13の2倍を切る1番人気に支持されたのは、地元で4戦4勝の無敗馬ポーラー・リヴァー Polar River でした。
結果は既報のように、スタートで躓き危うく落馬、最後方を進んだ武豊騎乗のラニが最後、力で捻じ伏せる様な内容で見事優勝。人気のポーラー・リヴァーが2着、ユーチェンジ3着で、オンザロックスは5着でした。ラニは12対1、4番人気でしかありませんでしたし、ユーチェンジも25対1(5番人気)、オンザロックスは66対1の最低人気で、ブックメーカーも唖然と言った所でしょう。
100ポイントを獲得したラニはケンタッキー産馬でもあり、レース後に松永調教師が記者会見したようにケンタッキー・ダービーに直行する計画です。出走すればアメリカ最高のクラシックに挑戦する2頭目の馬(1995年のスキーキャプテンは14着)と言うことで、今年のダービーは俄かに脚光を浴びる存在になってきました。
④アル・クォーツ・スプリント(GⅠ) 3歳上、芝の1000メートル。愈々ここからがGⅠ戦5連発で、最初の短距離戦は13頭立て。日本からもベルカントが参戦し、前のレースで勝った武騎乗で挑みます。人気は地元で4連勝中のエティジャール Etijaal で11対4、ベルカントは25対1の10番人気でした。
芝の短距離戦と言えば、日本では高松宮杯とバッティングする時期。短距離戦ならサクラバクシンオー産駒のベルカントで楽勝、と行きたいところですが、やはり主力は中京に向かうでしょう。実際、高松宮杯もサクラバクシンオー産駒が勝ちましたしね。
優勝は5番人気(10対1)のバッファリング Buffering 、人気のエティジャールも4分の3差2着で面目を保った形。ベルカントはペースに付いて行けず、シンガリから二つ目の12着で入線しました。
勝ったバッファリングはオーストラリアのGⅠ馬で、これで3連勝となる8歳の古豪。改めて豪州馬短距離界の層の厚さを見せ付けられた印象です。
⑤ゴールデン・シャヒーン(GⅠ) 3歳上、ダートの1200メートル。ここにも日本からの参戦はありません。高松宮杯と重なるという要因もありましょうが、ダートの短距離GⅠというジャンルが日本には無く、スターホース不在という理由もあるでしょう。日本のダートGⅠはマイルが中心ですから。
アメリカから遠征した5連勝中のエックス・ワイ・ジェット X Y Jet が7対4で1番人気。今期ガルフストリームでの連勝に付いては当ブログでも紹介してきたところです。
結果はエックス・ワイ・ジェットは首差で惜しくも2着。直線2頭のマッチ・レースを制しての優勝は地元の4番人気(6対1)ムアラーブ Muarrab で、①に続いて地元勢の2勝目となりました。トライアルのGⅢ戦を圧勝していた7歳馬で、英国のポール・ハナガン騎乗での勝利です。
⑥ドバイ・ターフ(GⅠ) 3歳上、芝の1800メートル。出走は15頭と多数でしたが、日本からの参戦はリアルスティール1頭のみ。芝の千八というのは日本馬にとっては最も得意、層の厚いジャンルだけに可能性の高いレースでもあります。去年のウインター・ダービー勝馬で、今期もトライアルのドバイGⅠ戦を含め3連勝中のトライスター Tryster が7対4の1番人気。ゴドルフィンの所有で、英国を本拠にするチャールズ・アップルビー厩舎の5歳馬です。正にここが狙いと言う1頭でしょう。
実力的には英国のGⅢに勝ち2000ギニーにも駒を進めた英ヴァリアン厩舎のインティラーク Intilaaq が一枚上、同じく英国のGⅢ馬ザ・コルシカン The Corsican 、デットーリが騎乗するユーロ・シャーリン Euro Charlin (アメリカ遠征でGⅠ勝ち)、それにリアルスティールなどが横一線で続く混戦模様を呈していました。
そして、報じられているようにライアン・ムーアを背にしたリアルスティールがユーロ・シャーリンを半馬身差抑えて優勝、日本に今年2つ目の勝利を齎しました。レースを見た印象では、やはりムーアは巧い、という感想ですね。リアルスティールは8対1、4番人気でしたから、ここは騎手の腕と判断が光った一戦でしょう。
ユーロ・シャーリンも25対1という人気薄、ここもデットーリの好プレーが目立ちました。トライスターはビュイック騎乗で2馬身差の3着、芝コースだけにヨーロッパ対日本という内容でしょうか。
⑦ドバイ・シーマ・クラシック(GⅠ) 3歳上、芝の2500メートル。ここも芝の長距離ということでアメリカ馬や地元勢は形勢不利。9頭立ての内、日本馬3頭、ヨーロッパ勢も4頭で構図的には⑥の長距離版と言えるでしょう。去年のキングジョージを制したヴァリアン厩舎のポストポーンド Postponed が4対5の断然1番人気。日本ではドゥラメンテ一色の人気でしたが、冷静に見れば4対1の離された2番人気は当然だったでしょう。
他の日本馬は、ラストインパクトが40対1、ワンアンドオンリーに至っては100対1とほとんど無視された状態でした。オフィシャルの評価ではポストポーンドとドゥラメンテは同格でしたが、レーシング・ポスト紙の独自評価ではポストポーンドが2ポンド、約1馬身上回っています。
そして結果もレーシング・ポストの評価通り、ポストポーンドがレコード・タイムでドゥラメンテに2馬身差で快勝しました。ドゥラメンテは落鉄したまま走るという不利がありましたが、真面であっても1馬身差の開きがあったと見てよさそう。5歳馬で身体的にはピークに達しているポストポーンドに対し、未だ成長が見込める4歳のドゥラメンテが凱旋門賞までに何処まで差を詰めるか、あるいは逆転できるかがこれからの見所でしょう。尤も秋までには新たな3歳馬の台頭も必至で、今年はシャンティーに舞台を移す凱旋門賞に向けた最初の一歩となりました。
ラストインパクトの3着、ワンアンドオンリーの5着もオッズから判断すれば大好走で、日本馬のレヴェルの高さを証明しています。4着のハイランド・リール Highland Reel はアイルランドのオブライエン師が管理するGⅠ馬で、ヨーロッパ本家と言うより遠征して大所を狙うタイプでしょう。
⑧ドバイ・ワールド・カップ(GⅠ) 3歳上、ダートの2000メートル。このシリーズでは最高賞金のレースで、⑦の2倍の賞金が掛かる大一番。12頭が出走ということで、やはりダート・コースを主体とするアメリカ勢が5頭の有力馬を送り込んできました。中でも去年は2着に終わったカリフォルニア・クローム California Chrome の雪辱に掛ける人気と評価は断然で、15対8の1番人気。しかし同じアメリカのペンシルヴァニア・ダービー馬でドバイの前哨戦を勝ったフロステッド Frosted も評価は高く、この2頭が並んだ1番人気でした。
他にもトラヴァース勝馬キーン・アイス Keen Ice 、今春のドン・ハンデを制したムシャウィッシュ Mshawish 、サン・アントニオ・ステークス(GⅠ)に勝って勢いに乗るホッパチュニティー Hoppertunity とアメリカの層は厚く、ダート馬は少ないヨーロッパからもフランス馬ヴァダモス Vadamos が参加、日本からはホッコータルマエが参戦していましたが、オッズは50対1のブービー人気でした。
レース内容は圧倒的、アメリカの競馬ファンとしては願っても無いエスピノザ騎乗のカリフォルニア・クロームの圧勝劇で、南アフリカ調教馬で去年のUAEダービー馬ムブターヒジ Mubtaahij 2着、ホッパチュニティー3着と3年振りにワールド・カップ奪還を果たしました。エスピノザが鞍づれを起こしながらもトラック・レコードを更新していました。ホッコータルマエは中団のまま9着敗退、オッズよりは上位の着順だったのが救いでしょうか。
以上が2016年ドバイ国際レースの概要。ヨーロッパ、日本、地元が夫々2勝し、後はアメリカと豪州が1勝づつ。日欧米のトップ・クラスの馬たちはレヴェルでは拮抗、各国が得意とするジャンルではしっかり結果を出したというのが全体的な印象です。
大レースを集中的に行うという傾向は今後も続くでしょう。日本中央競馬会がこれにどう対応し、日本国内のレースを如何に充実させて、その魅力を世界に発信して行けるか、課せられた課題は大きいと思慮しますがどうでしょうか?
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