サルビアホール 第57回クァルテット・シリーズ

あの震災の年、2011年春に鶴見のサルビアホールがオープンしてから5年が経ちました。その開館と同時にスタートした名企画SQS(サルビアホール・クァルテット・シリーズ)もこの春で5周年を迎えます。
鶴見は拙宅からアクセスも良いため、そのシリーズ開始のチケットを求めて朝からホールのある区民文化センターに並んだのは昨日のことのよう。私共の定席はその際ゲットした時のまま、ほぼ毎回通って早や5年が経過したと言うことでもあります。

それを記念して、この3月からはホール開館5周年、SQSも5周年を記念して弦楽四重奏フェストがスタートしました。第1弾が昨日から始まったシーズン18の4団体、第2弾は6月に行われるパシフィカQによるショスタコーヴィチ・プロジェクトで、以下第3弾が9月のシーズン19。11月から12月にかけての第4弾となるシーズン20の日程も既に発表されています。
シーズン18は恒例の3回セットではなく、急遽ヘンシェルQの来日が決まったことから4回セットに拡大。何れも海外でも屈指の団体による最高レヴェルのクァルテットが楽しめるという豪華版が聴き所と言えるでしょう。
そのトップ・バッターが、サルビアは3回目の登場となるチェコの名団体ウィハン、以下のプログラムで客席を唸らせました。

ハイドン/弦楽四重奏曲第53番ニ長調作品64-5「ひばり」
ヤナーチェク/弦楽四重奏曲第1番「クロイツェル・ソナタ」
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第15番イ短調作品132

ウィハンの第1回は2013年の5月、翌2014年の12月には再登場を果たし、今回が3回目。これまでサルビアで二度演奏した団体は10団体以上ありますが、3回目というのはウィハンが最初で、古い言い回しを使えば「馴染」になった団体です。
但し、前回からヴィオラがファーストのレオシュ・チェピツキーの息子であるヤクブ・チェピツキーに交替していることは当ブログでも紹介した通り。参考までにその時の感想はこちらから ↓

サルビアホール クァルテット・シリーズ第20回

サルビアホール 第41回クァルテット・シリーズ

ウィハンのプロフィールは前回、前々回で紹介していますから繰り返しません。メンバーは替りましたが彼等のホームページは第1回の時に紹介したものと同じです。
今回の3曲は、何れも弦楽四重奏というジャンルでも屈指の名曲たちで、特に付け加えることも無いでしょう。どの曲もサルビアでは何度か演奏されており、確かひばりは2回目、クロイツェル・ソナタと作品132も共に3回目の登場の筈。

別の演奏会のチラシによると、今回の来日公演はウィハン結成30周年記念の由。彼等のホームページによると、3月26日の福岡からスタートし、昨日がサルビア。以下、白寿ホール、大阪、銀座の王子ホール、東京オペラシティー、広島と列島を何度か往復し、最後は4月10日の名古屋・宗次ホールとなっています。

開場時間にホールに着くと、セカンドのシュルマイスターが自動販売機で飲み物をゲットしていたり、こちらではファーストのチェピツキー・パパがファンと既に交流していたりと、毎年の様に来日しているウィハンは慣れたもの。演奏会前から親密な空気が感じられます。
今回の来日は13回目というものと14回目という資料とがあり、要するに何回目なのか良く判らないほど頻繁に来日しているということ。初来日が1995年だそうですから、20年間に10数回、来てない年を探す方が早いという計算になりますネ。
ホール前の掲示板は「チケット完売、当日券はありません」。知らずに来鶴し、断念して帰った方もおられたようでした。

ハイドンを終え、拍手を受けて直ぐに着席。立て続けにヤナーチェクを弾き出しますが、前半の2曲を舞台裏に下がらず一気に弾いてしまうのはウィハン流。全2回と同じスタイルでこちらも慣れてしまいました。
その分、演奏に掛ける集中力は増しますし、プログラムを全体的な構成として把握していることが直に伝わってきます。

繰り返しになりますが、ウィハンのテンポは速目。それでいてぶっきら棒な印象は全く無く、作品の持つ力、斬新さがグイグイと聴き手の耳を捉えて行くのです。特にヤナーチェクは、お国物という月並みな言い回しを越えて、その哀しみがストレートに訴えかけてくる迫力があり、一気に聴き通してしまいました。
満席の所為か客席からノイズが起こる場面もありましたが、余り気にならず演奏に集中。

後半の作品132。ウィハンはここでも作品の構造に心を用い、ベートーヴェン後期という特殊な環境を殊更に強調すること無く、あの第3楽章にしても遅くなり過ぎないように、かつベートーヴェンの感謝の心情を切々と表現して行くのでした。

アンコールはドヴォルザークのアメリカからフィナーレ。これはサルビア初登場の時と同じで、全曲は前回の本プロで演奏済み。第4楽章だけに付いていえば、3回全てで取り上げたことになります。
この終楽章、ドヴォルザークが「鉄ちゃん」だったことを証明するような音楽で、冒頭から鉄道の疾駆を連想せずにはいられません。例によってウィハンのテンポは超快速で、北海道新幹線に乗っているような感覚。それでも第2テーマなどはギア・ダウンしてタップリ歌う。さしずめここは青函トンネルに突入した辺りでしょうか。
アンコール演奏ということもあってウィハンは緩急自在、ドヴォルザーク節満開の締めとなりました。

最後にヤナーチェクとベートーヴェンの関連。横で聴いていた家内に“ヤナーチェクにはベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」からの引用があるらしいよ”と知った顔をすると、“それは何処? 歌って見せて”と言われて絶句してしまいました。
改めて考えると、引用に関する解説はあるものの、具体的に何処がどのように引用されているかに付いて書かれた文献を読んだことがありません。帰宅してから二つの譜面を比較すると・・・。

ここからは私の勝手な解釈ですから信用しないように。
ヤナーチェクの「クロイツェル・ソナタ」はトルストイの同名小説に触発されて作曲したものですが、確かにベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタからの「引用」と思われるフレーズが出てきます。
それは、第3楽章冒頭で、これから発展した第8小節以降に出てくる4つの音で出来たフレーズがそれ。一方ベートーヴェンの当該フレーズはクロイツェル・ソナタ第1楽章の第2主題で、こちらはホ長調で移動ドで読めば「ミ・ファ・ミ・レ」で構成される4つの音。但しヤナーチェクは同じ音型でも短調で、チョッと聴くと日本民謡のフレーズのよう。耳で聴いたのではベートーヴェンからの引用とは聴こえません。耳で、というより目で見ての相似形と言えそうです。

ヤナーチェクが意識してベートーヴェンから引用したのかに付いては専門家に聞くしかありませんが、手元にあるフィルハーモニア版の解説(ロベルト・スメタナ)では「引用」であるとは一切書かれていません。
ネットで検索しても、譜例を上げて明確に指摘している記事は見当たらないようです。

「ミ・ファ・ミ・レ」をお経の様に唱えていると、もう一つ思い当る節が。何とそれはハイドン「ひばり」の冒頭で、第1ヴァイオリンの主題を導き出すセカンドとヴィオラの伴奏フレーズ。
これはニ長調で奏されますが、良く聴けば第2楽章アダージョ・カンタービレのメロディーも「ミ・ファ・ミ・レ」が含まれているじゃありませんか。こちらはイ長調。
ということで、ハイドン→ベートーヴェン→ヤナーチェクというミステリーが書けそう。何だたった四つの音が同じだけじゃないかと言われそうですが、モーツァルトの「ド・レ・ファ・ミ」だって第1交響曲とジュピターに登場すると力説している音楽解説者もいるでしょ。クロイツェル音型だって同類じゃないでしょうか?

以上、蛇足でした。

 

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