パヴェル・ハースの弦楽四重奏曲

最近はあまりCDを買わなくなりました。限がないし、買っても聴く時間がない。
それでもこれを店頭で見つけた時は、何の躊躇いもなくレジに持って行きましたね。

パヴェル・ハース弦楽四重奏団の新録音、スプラフォンの輸入盤で、品番はSU 3877-2。
収録されているのは、ヤナーチェクの弦楽四重奏曲第2番「内緒の手紙」と、パヴェル・ハースの弦楽四重奏曲第2番「オピチー・ホリから」の2曲です。

そう、演奏している団体は、作曲家パヴェル・ハースの名を冠した団体なのです。

実は、彼らは今年6月に晴海の第一生命ホールで、このCDと同じ曲目でコンサートを開きました。これが真に素晴らしかった。
直後に同曲を録音したというニュースを聞いていたので、その発売を心待ちにしていたのです。

CDを聴いた印象は、コンサートとほとんど変わりありません。あの夜の感動が蘇ってきました。
ただし録音されたハース作品は、終楽章に打楽器を加えた版によっています。(コンサートは打楽器無しで行われました)

以前にモルゴーア・クァルテットがこれを日本初演した際には打楽器付きで演奏されたのですが、このときは打楽器の音量が大きく、ややバランスに難点があった、という評も出ていました。

当CDでは弦と打楽器のバランスは適切で、録音としてもかなりレヴェルの高いものに仕上がっています。
お勧めの一枚と言えましょう。

作品とコンサートの印象については、今は無き「クラシック招き猫」という掲示板サイトに投稿したことがあります。
それをコピーして貼り付けておきましょう。

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何といってもパヴェル・ハースの第2弦楽四重奏曲「オピチー・ホリから」が圧巻でした。それにヤナーチェクも。
この2作品で感じたのは、やはりチェコの弦、ということでした。彼らの弦楽器に対する認識は、根本からモーツァルトなどとは違っているのじゃないでしょうか。ハースやヤナーチェクに比べて何とモーツァルトはつまらない音楽であることか。
誤解されては困るのですが、このクァルテットのモーツァルト演奏がつまらなかった、ということでは決してありません。ハースとヤナーチェクが面白過ぎるのです。

この日演奏されたチェコの二作は、弦楽器四本の作品というに止まらず、この形態を、作曲家の精神を伝達するための「楽器」として考えているような気がします。時には打楽器としての効果もあるし、歌、乃至、語りの道具としてのインスツルメントとしての機能もある。オーケストラでもあり、オペラでもある。そんなクァルテット。
パヴェル・ハース弦楽四重奏団は、それをほとんど完璧に具現化していたように聴きました。

おかげでこの2時間、咳き込むことは一度も無し。不思議、としか言いようがありません。“E Strano”、臨終のヴィオレッタのような心境です。

パヴェル・ハースの第2は、これまで誤って「猿の山々から」というタイトルで紹介されてきました。楽譜を出版したブージー&ホークスがチェコ語のタイトルを“From the Monkey Mountains”と訳してしまったのが原因。実際は「オピチー・ホリ」という地名なのです。この修正も、今回のハース・クァルテットによる演奏企画が切っ掛けで成立したのです。
作品は4楽章から成り、フィナーレでは打楽器を追加して演奏することも可能です。この形で既に日本でもモルゴーア・クァルテットによって演奏されています。人に聞いた話では、その場合、音量のバランスが難しい由。

更に聞いた話を続けると、彼らは「オピチー・ホリから」とヤナーチェク第2を(つまり、この日と同じプログラム)スプラフォンに録音したばかりだそうで、録音では打楽器も使用している版ということです。
ハースの名を団体の名前に付けているくらいですから、パヴェル・ハースの作品を演奏してパヴェル・ハース・クァルテットの右に出る団体はないのじゃないでしょうか。そう断言したくなるほどに凄い体験でした。いずれ発売されるCDをお楽しみに。

次回の来日では、当然、ハースの弦楽四重奏曲全曲演奏会の実現に期待しましょう。ただし第1はやや習作的なところがあり、第3はナチによって過酷な運命に曝される空気を察した暗い作品とのこと。ハースの才能の見事さを堪能するには、やはり第2でしょうか。

(パヴェル・ハースはヤナーチェクの弟子ですが、第2はヤナーチェクの第2より先に書かれています。それを知って聴くと、驚きは尚更です。)
(ハースはユダヤ人であったためナチスに利用され、アウシュヴィッツで殺されましたが、事前にキリスト教徒であった妻を離婚して家族を守ったのです。)

6月14日は、サントリーでN響定期、上野ではボローニャ歌劇場の「トロヴァトーレ」、NHKホールがメトロポリタン歌劇場の「椿姫」、他にプラハ室内歌劇場が「魔笛」を、新国立劇場は「こうもり」という異常さ!!!
そういう中で晴海に出掛けた人には、きっと神様の祝福があるでしょう。正確な数字は忘れましたが、200人以上の聴衆が集った由。このシリーズも初期の惨状からは脱しつつあるようです。

敢えて皆様に警告します。パヴェル・ハース弦楽四重奏団の次回来日を聴き逃してはいけません・・・と。

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